
(3)
「サスケがそんな事を…?」
1週間後。
『狩り』から戻った鬼鮫は、その報告も兼ねてイタチの部屋を訪れ、サスケから相談されていた事を話した。
サスケから相談された事はイタチには伏せておくとサスケに約束したものの、それを隠して話を切り出すきっかけがどうしても掴めず、結局鬼鮫はサスケから聞いた事を殆どそのまま伝えたのだった。
イタチはすぐには答えず、鬼鮫から視線を逸らした。
「……お前がそんな事を言いだすとは思わなかった」
イタチの言葉に、鬼鮫は苦笑した。
「正直に言えば、私だって心外ですよ」
ですが、と、鬼鮫は続けた。
「サスケさんだって不本意だったでしょう。でも他に相談する相手もいないし、それだけ思いつめているんじゃないですかね」
「…サスケは思いつめやすいタイプだ。昔から__そうだった…」
どこか遠くを見るような眼で視線を宙に漂わせ、イタチは続けた。
「修行をするにしても何にしてもとても一途でひたむきで…いつもまっすぐ前を向いているような子だった」
鬼鮫は黙ったまま、イタチを見つめた。
サスケから相談を受けた時、イタチがサスケを拒むのはかつての恋人である自分に対する気遣いではないのかと、密かに考えた。
サスケは日中は大蛇丸に変化しているのでサスケとイタチが一緒にいる姿を鬼鮫が目にする事はないが、それでも同じ隠れ家に住んでいるのだから、かつての恋人が他の男の腕に抱かれるのは想像するだけで辛い。
イタチは自分を嫌って別れた訳では無いのだし、長年の間に築かれた信頼関係が壊れた訳でもない。
だから或いはまだイタチを取り戻す機会が残っているのではないのかと、僅かな期待を抱いたのだ。
たとえイタチがそれを認めなくとも、少しでも思わせぶりな態度を見せてくれたら希望を捨てずに済むのかも知れない…と。
だがイタチは一人用の椅子にきちんと座り、鬼鮫に近づく理由も与えない。
今はここにいないサスケの事を想い、こちらには目もくれない。
鬼鮫は落胆するのを感じ、そんな自分に苦笑した。
「__それで…言いにくい事で無ければ、理由を教えて頂きたいのですが」
こんな役目は早く終わらせてしまいたいと、鬼鮫はイタチを促した。
イタチは鬼鮫を見、すぐにまた視線を逸らせた。
そして、「伊織の為だ」と、呟くように言った。
「夜中に1度か2度、お子さんの様子を見に行っているんだそうですよ」
鬼鮫はイタチから聞いた言葉を、サスケに伝えた。
「だから…つまり、その、疲れて寝ちまうような事はしたくないって意味なのか?」
「そういう事になるんでしょうね」
鬼鮫の言葉に、サスケは幽かに眉を顰めた。
「だったらそう言ってくれれば良かったのに……」
「言えばアナタがイタチさんを止めるからだそうですよ。イタチさんは元々ご自分の手元でお子さんを育てようとしてましたけど、それでは負担がかかるからと言って止めたでしょう?」
サスケは頷いた。
「まだ視力だって充分に回復していないし、1日中、赤ん坊の世話にかかりきりになったんじゃ、修行する時間も取れない。あいつみたいな優秀な忍が、いつまでも無力なままでいるのは屈辱だろうし……」
鬼鮫は改めてサスケを見た。
今は大蛇丸に変化しているが、その表情はサスケのものだ。
無論、イタチを想う心も。
7年の間、離れていたとは思えないほど、二人は互いを想い、そして深く理解している。
やはり自分の出る幕は無かったのだと、鬼鮫は思った。
その時、ノックの音がした。
「では、私はこれで…」
「こんな事を頼んで、済まなかった。感謝してる」
サスケに軽く頷き、鬼鮫は部屋を出た。
入れ替わりに入って来たのはカブトだ。
賞金首を仕留めて手に入れた資金の配分案を持って来たのだ。
「『大蛇丸』様のご了承を得られればこれが正式案となりますが、例によって側近たちがごねるでしょうね」
「…『例によって』?大蛇丸の言葉は絶対じゃないのか」
カブトは軽く肩を竦め、声を潜めた。
「側近たちというのは大蛇丸様に取ってもそれなりに重要な持ち駒だからね。単なる捨て駒と同じには扱えない。勿論、だからと言って慈悲や情けをかけるなんて事は無いけどね」
「利用価値がある内は利用する。その為には餌を与える必要がある__という訳か」
その通り、と、カブトは頷いた。
「側近たちもいつ、自分が切り捨てられるか判らないというのは承知している。だからなるべく勢力を広げて大蛇丸様に取って重要な存在だと認められるために必死だ。そしてその為には資金が必要だし、より多くの資金配分を得られれば、それだけ大蛇丸様に認められたと他の側近に示す事にもなる」
「簡単には引き下がれないだけの理由がある…って事だな」
一筋縄では行きそうにないと、サスケは思った。
大蛇丸の側近の何人かはサスケが初めて会う相手であり、大蛇丸が彼らをどうあしらっていたのか、詳しい事は何も知らない。
カブトは資料を取り出し、大蛇丸の机の上に置いた。
「取り敢えず、側近たちの性格やら特徴、今までの働きぶりや失敗を纏めておいたよ。そっちの資金配分案も、これを元に僕なりに考えた結果だけどね」
それでも、と、カブトは続けた。
「資金を巡る会議はいつももめるんだよ。古株の側近たちは海千山千のつわもの揃いで僕の手には負えない。大蛇丸様はそんな彼らを煽ったり宥めたりして、最後には納得させてしまう手腕に長けていた」
「…人心掌握は、得意そうだったからな」
「それを、今度は君がやらなくてはならない。僕も出来るだけの協力はするけれど、資金会議の場では僕に発言する機会は殆ど無いし、大蛇丸様が僕に秘密で側近たちと何らかのやりとりをしていたなら、それは僕にも判らない。つまり幾ら綿密なシナリオを書いても、想定外の事態は避けられない」
それでも出来るかい?__カブトの問いに、サスケは眉を顰めた。
「やるしかねぇだろう」
「そう…。やるしか、ない__君がイタチ君や子供を護りたければ…ね」
「その為にオレは大蛇丸のフリなんかしてるんだ」
サスケの言葉に、カブトは幽かに哂った。
「それでは『大蛇丸』様。会議は明日の午後1時からとなっておりますので」
一礼して出て行きかけたカブトを、サスケは呼び止めた。
「イタチが昼だけでなく、夜中にも伊織の様子を見に行っていると、鬼鮫さんから聞いたが……」
カブトは頷いた。
「医療忍たちに任せるようにと説得はしているけど、中々聞き入れてくれなくてね。『母親』としては当然なのかも知れないが」
「それでも、毎晩、夜中に起きてたんじゃ、眼の治療にも影響が出るんじゃないか?」
「毎晩という訳じゃ無いよ。昼に様子を見に行った時にミルクを吐いていたとか、熱っぽかったとか変にぐずっていたとか、そういう様子の気になる時だけ、夜も見に行っているそうだ」
カブトの言葉に、サスケは思わず眉を顰めた。
もう一度、カブトは薄く笑った。
「…この事は、君は当然、知っているものだと思っていたけれどね」
サスケは何も言わず、睨むようにカブトを見た。
「他に何かご質問は、『大蛇丸』様?」
「……下がって良いわ」
相手の言葉に深く一礼し、カブトは部屋を出て行った。
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