(17)


自分の身体の反応に、イタチは羞恥と驚きを同時に感じていた。
軽く胸に触れられただけなのに、身体の奥が疼いている。
淫乱な身体だと貶められた過去の記憶が蘇り、唇を噛む。
だが、疼きは止まない。
もう半年も前の事だというのに、サスケと肌を交わした夜の記憶がまざまざと蘇り、身体が熱くなる。
「……!」
取りあえず部屋に戻ろうとして、傍らに置いてあった飲み物のコップを落としてしまった。
「__兄貴?大丈夫か?」
ガラスの割れる音に、立ち去りかけていたサスケが駆け寄って来た。
「…コップを…落としてしまったようだ」
「大丈夫か?怪我は?」
心配そうに問われて、イタチは首を横に振った。
まだ、疼きは止まない。
「怪我がなくて良かった。割れたコップは後で片付けておく。飲みものの代わり、取って来るな」
「__サスケ…」
言って再び立ち去りかけたサスケを、イタチは引きとめた。
「さっきは……ただ、驚いただけだ……」
「……イタチ」

サスケはイタチの傍らに膝を付き、その頬に軽く触れた。
心臓の鼓動が早まるのを感じる。

「厭じゃない…って事か…?」
イタチは黙ったまま、小さく頷いた。
サスケはイタチに口づけ、それから抱き上げて部屋に運んだ。
褥の上に横たわらせ、もう一度、口づける。
腹部を圧迫しないように胸のすぐ下で巻いてある帯を解こうとすると、イタチがそれを止めた。
「…夜になるまで待てないか…?今は…明るすぎる……」
サスケはともかく、自分が待てるのかどうか判らないと思いながら、イタチは言った。
感情の昂ぶりは押さえ難いが、それでも両性具有の身体を明るい所で見られたくは無い。
「雨戸を閉めてくる。それで…良いか…?」
耳元で囁いたサスケに、イタチは黙ったまま頷いた。



自分を取り囲む相手の気配に、鬼鮫は幽かに哂った。
夜盗の根城の場所が定かでないので、分身と変化の術を使って『裕福な商人とその従者』という、夜盗にはおあつらえ向きのカモを演じたのだ。
効果は覿面だった。
鬼鮫が立ち止まると、盗賊どもは姿を現した。
同時に、鬼鮫は変化を解き、分身を消滅させる。
「……!貴様、忍か……!」
「その反応からすると、アナタ方も抜け忍崩れ…という訳ですか」
鬼鮫の言葉に、夜盗達は顔を見合わせた。
「お察しの通り、私も抜け忍なんですよ。それで、出来ればお仲間に入れて頂きたい、と…」
夜盗たちは再び顔を見合わせた。
その背後から、首領とおぼしき一人が歩み出る。
「同じ境遇の者同士、歓迎する__と言いたいところだが」
断る__と言うと同時に首領は手裏剣を投げつけてきた。鬼鮫はそれを軽くかわし、部下の夜盗たちの攻撃も同様に避けた。
地を蹴って跳び、鮫肌で眼に入った相手をなぎ倒す。
「ぐぅっ…!」
「ぎゃあぁああ…ッ!」
相手の断末魔の悲鳴を心地よく聞きながら、鬼鮫は尚も容赦なく鮫肌を振るった。
一つ…二つ…
数えながら、敵を斃してゆく。
五つ、六つ…七つ……
そうして相手を屠りながら、自分の中にはまだ殺戮を快楽に感じる感情が残っているのだと、鬼鮫は苦笑した。
イタチに惹かれるようになる前は、それだけが自分の存在理由だと思っていたのだから無理は無い。
生殺与奪の権を握り、相手の恐怖を思うがままに煽るのは、確かに快楽だ。
だがイタチと出会ってからは、殺戮の快楽が空しく思えるようになった。

生命を奪っても、自分のものにはならない。
ただ、空しく消えてゆくばかりだ。

「__さて、アナタが最後のようですね…」
「た……助けてくれ、頼む……!」
鬼鮫は口元に哂いを浮かべ、相手を見下ろした。
「この場で骸となるか、隠れ処に案内して生き延びるか__好きな方を、選んで貰いましょう」
生き延びるとしても数時間の事だが__内心で思い、鬼鮫は哂った。



眼を覚ました時、イタチを抱きしめたまま眠ってしまったのだと、サスケは気づいた。
このところ睡眠不足が続いていたせいだろう。
イタチはまだ眠っている。
逸る思いを必死で抑えて出来るだけ優しくしたが、最後の方では夢中になってしまっていたから、イタチには少し無理をさせてしまったかも知れない。
悪い影響がなければ良いがと思いながら、イタチの腹部を愛撫するように優しく撫でる。
久しぶりに夢も見ずに眠れたせいもあるだろうが、とても満たされた気持ちだ。
半年前、嫉妬に駆られてイタチの身体を貪った時とは比べ物にならない穏やかな気持ちと幸福感に満ちている。
「愛してるぜ……」
イタチの首筋から肩にかけて軽く口づけを繰り返しながら、囁くようにサスケは言った。
面と向かって言うのは気恥ずかしい気がするが、眠っている相手になら衒いもなく心の内を告げられる。
「愛してる……もう絶対に、あんたを放さない……」
同じ事をイタチも思っていれば良いと、サスケは願った。






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