(2)

__という事をしようとしていたに違いない!」
叩き斬ってやると、コードは尚も息巻いた。大切な弟を目の前で手篭にされるところだった(推定)怒りで、前後の見境もつかない状態になっている。
「お兄様、危ないですわよ」
アブナイ状態のコードに太刀打ちできる唯一の存在が、おっとりした口調とは裏腹に、素早く細雪を取り上げた。
「エレクトラ、何故止める!?あのひよっ子は守護者の職権濫用して、ひよっ子の癖に狼になろうとしてたんだぞ!」
「それは誤解ですわよ、お兄様。あれは__



その日、オラトリオはいつものようにオラクルの仕事を手伝っていた。
「こっちの整理、終ったぞ」
「じゃあ、お茶にしようか」
美しく微笑んで、オラクルは言った。
見蕩れる程、奇麗な微笑みだと、オラトリオは思った。オラクルが踵を返し、キッチンとして使っているコーナーに行ってしまったので、それ以上、笑顔を見ていられなかったのが残念だ。
同じ顔に造られただなんて、とても信じられない。
初めて会った時から、オラトリオはオラクルの儚げな美しさに惹かれていた。最初の内は、自分の感情が何であるか理解出来なかったし、その後も、中々認められなかったのだけれど。
「お待ちどうさま」
程なく戻って来たオラクルは、ソファのオラトリオの隣に腰を降ろした。
ぴったりと、寄り添うように。
「熱いから、気をつけて」
「ああ。サンキュ」
ティーカップを受け取ったオラトリオを、オラクルは間近に見つめた。
「吹いて、冷ましてあげようか?」
「何……」
予想もしていなかったオラクルの言葉に、オラトリオは焦って相手を見た。
息がかかるほど近くに、オラクルの白い貌。
思わず触れようとすると、オラクルはくすりと笑って僅かに距離をあける。オラトリオに横顔を向け、紅茶を口に含んだ。
白い喉仏がゆっくりと上下するのを、オラトリオは見つめた。
こうして並んでいると、オラトリオの目線では、広く開いたローブの襟の中が丸見えだ。
良からぬ事を考えてしまいそうで、オラトリオは慌てて目を逸らした。
すっと、オラクルの手が膝に触れるのを感じる。
「このコート…」
「コートがどうかしたのか?」
常に無いオラクルの態度に戸惑いながら、オラトリオは聞き返した。
「現実空間では冷却装置だけど、電脳空間(ここ)では別に着ている必要は無いんだよね?」
「ああ…まあ、必要はねえが」
オラクルが何を言おうとしているのか判らず、オラトリオは曖昧に答えた。
「だったら、脱いだら?人間だって家に帰ったら寛げる格好に着替えるものだろう?」
CGなのに寛げるも何もないのだが、オラクルは現実空間の風物や習慣を真似たがる。元々はオラトリオの為に<ORACLE>内と現実空間のギャップが大きくならないように気遣ったのが始めだが、今では現実空間らしさを取り込むのは、オラクルの趣味だと言っても良い。
「まあ、そうだな。着てても窮屈って訳じゃねえが…この方が寛げる」
コートを脱ぎ、戦闘服の襟元を緩め、オラトリオは言った。そして、オラクルに軽くウインクする。
「お前もそれ、脱いじまえよ」
「私は駄目だよ。インターフェース・プログラムで対処できない要求があったら、画面に出なきゃならない」
それまでのなまめいた風情などかけら程も残さず、むしろ事務的な口調でオラクルは言った。
オラトリオは迷った。
この気まぐれな世間知らずが何を考えているのか、たまに判らなくなる時がある。
それはそれで、ある意味、楽しいのだが。
「…そんなもん、一瞬で再構築できるだろ?」
言いながら、オラトリオはオラクルの首筋に軽く触れた。そのまま、指を下の方に滑らせる。
オラクルはくすぐったがって、軽く肩を竦めた。
「自分で脱ぐのが厭なら脱がしてやるぜ?」
耳元で囁くと、オラクルの白い頬が幽かに赤らんだ。オラトリオは間近にオラクルを見つめたまま、紅玉のついたブローチを外し、ローブを脱がせる。
オラクルの雑色の髪が乱れた。
しなやかな黒衣は華奢な身体を柔らかく包み、首筋から肩にかけての白さが際立つ。
オラクルはオラトリオを見つめ、それから身を凭れさせた。
「__なあ…誘ってんのか?」
「まさか__仕事中なのに」
オラクルの声は、言葉とは裏腹に甘い。軽く口づけると、僅かに唇を開き、オラトリオを誘い入れた。
舌を絡め、互いの口中を愛撫する。
「…これ以上は駄目だよ…」
囁くオラクルの吐息が熱く、甘い。オラトリオを見つめる瞳が、幽かに潤んでいる。
オラトリオはオラクルの耳朶に口づけ、軽く噛みながら、首筋を指先で辿った。
愛撫するようにゆっくりと指を這わせ、肩のラインをなぞり、黒衣の下に忍び込ませる。そのまま腕まで撫でると、オラクルの左肩がすっかり露になった。
オラクルは頬を赤らめ、オラトリオを見上げる。これ以上、衣服が乱れないように、右手で左腕を押さえて。
オラトリオはオラクルの右手を取り、指先に口づけた。
するりと黒衣が落ち、白く滑らかな素肌が露になる。
そして__



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