「なんなんだ、この騒ぎは……」
 ひょいと受付を覗いたゲンマは驚きのあまり口にくわえた長楊枝を落とすところだった。
「イルカー、イルカちゃーん!」
 半泣きの上忍が床に膝をついて何かを探している。
「馬鹿者っ! そんなところにいるはずなかろう」
 そう怒鳴る火影はゴミ箱の中を捜していた。
「ガイなんかに関わっていたせいでイルカちゃんを逃がすなんて」
 美貌のくのいちが悔しげに唇を噛めば、
「……………」
 傷だらけのサディストは無口に机を持ち上げてその下を探す。いつもは真面目に事務をしている受付の忍までもが、
「イルカっ! イルカ、いい子だからでてこーい?」
 と必死になって探し、報告に来たらしい忍も同じく。依頼人までもがつられてそわそわ辺りを見回していた。
 そして、特筆すべきことに、その場にいる依頼人以外の全員が――火影含む――、緑色の全身タイツを着ていたのだった。
「火影様、頭狂ったんですか?」
 ゲンマは失礼にも火影にそう聞いた。普段なら何をいっとるか、と怒鳴る爺さんはゲンマの姿に目を潤ませた――全身緑タイツ姿で。
「おお、ゲンマか。おぬし、ここに来るまでにものすごく可愛い可愛い可愛い6才の子供を見なかったか?」
「見ませんでしたが」
 何かあったんですか? 真剣になって聞くと、火影は周りの者と目配せをした。
「知らんならいいんじゃ」
 冷たくそう言う。火影も他の者もこれ以上仔イルカの存在をばらして、ライバルを増やすつもりはなかった。
「………そうですか。イルカに何かあったんですか」
 聞かずとも、これだけイルカイルカと連呼していれば見当がつく。
「子供に変化したイルカを見失ったんですか? にしちゃあ、その緑タイツは……?」
 気持ち悪そうにゲンマは顔を顰めた。そのゲンマに紅が緑タイツを1枚押し付ける。
「ばれちゃしょうがないわね。あんたの言う通り、事故で子供になったイルカが行方不明なの。ちなみにイルカに大人の記憶はない。わかるわね?」
「刷り込み放題……v じゃない、攫われやすいってことだな?」
「…………あんたもやっぱり同じ穴の狢ね。で、イルカ捜索隊は目印にこれを着ることになったんだから、あんたも着なさい」
 しつこく緑タイツを押し付ける。
「なんでよりによってこんな格好を……」
「仔イルカへの影響を公平にするためにこうなったんじゃ。おぬしも知ったからには早く着ろ」
「……………」
 どこが公平なんだろう。全身タイツは体にぴったりと貼りつく。紅が着ればいつも以上にお色気むんむんに、男が着ればあまり美しくないものが目立つ。仔イルカがガイの緑タイツに喜んでいたとは知らないゲンマには、どちらも子供には視覚の暴力だと思う。
 せめてもの抵抗にゲンマは印を切った。この場は変化でしのぎ、誰もいなくなったら変化を解けばいい。緑タイツが何枚もあるわけでなし、おそらくこの場にいる半数以上はゲンマと同じことをしていると思われた。
「しかし、こんなに大勢で探してここにいなきゃ、外に出てったんじゃないんすか?」
 言ってみると、
「そういえば、子供たちがいない」
 忍にしては注意力散漫な大人達なのだった。





 緑タイツ軍団は里中に散った。言うまでもなく、目的は仔イルカだ。誰が一番先に見つけるか。そして懐かせて自分をアピールするか。薄暗くなってきた里に火花が散る。
「わかっておるな。これ以上のライバルは要らん。特級極秘事項と心得よ」
 火影の言葉に緑タイツ全員がうなずいた。







 一方、子供達も仔イルカを探していた。サスケとネジと鬼ごっこをしていた時(と見せかけ、サスケとネジの仔イルカ取り合い)、勢いあまって外に出てしまった仔イルカを誰かが連れて行ってしまったのだ。
「木の葉の額当てしてたってばよ。顔もなんとなく見覚えあるような」
 狐の力か野生児の力か、一番目がいいナルトが証言したため、子供達は大人に言うことなく、自力で仔イルカ捜索をしていた。
「この里の者なら大丈夫だな」
 とのネジの意見からだが、サクラは不安だった。
「スパイだからって、わかりやすく他里の額当てしてはいないわよね」
 普通、潜入するならその里の額当てをするはず。
「でも、どっかで見た顔だってばよ?」
 ナルトの言葉にサクラもまだ落ちつかなげにうなずいた。果たして、1時間ほどたって仔イルカは無事に発見された。
「えっとね、お兄ちゃんとお写真取ったりお菓子食べたりしてた」
「………どういう写真なのかしら………」
 見つかったはありがたいが、サクラはますます不安になった。
「とにかく、火影邸の木の葉丸の部屋に帰りましょ。誰かに見つかったら大変よ」
 サクラの言葉に子供達がうなずく。だが次の瞬間、彼らは忍犬に取り囲まれていた。
「わんちゃんv」
 仔イルカが嬉しそうに近寄ろうとするのをサスケが止める。
「うかつに近づくな。こいつらはカカシの忍犬だぞ」
 ナルトがきょろきょろ辺りを見回してその飼い主がいないかさぐった。
「先生はいないってばよ」
「そのようだな」
 ネジも白眼をしまった。
「だが、時間の問題だろう」
 カカシの忍犬達はびっしりと子供達を囲んで逃げる隙はない。このまま飼い主のカカシが来るまで動かないつもりなのか。ネジとサスケが目と目を合わせる。ライバルだが、このまま大人達に仔イルカを盗られるより、今は手を組んだ方がいい。うなずきあって、サクラに目をやった。里一番の切れ者は何か策を持っていないか――。
 だが、動いたのはナルトだった。
「カカシ先生のわんちゃん達ー」
 呑気に声をかけて、「可愛いわんちゃんなんて呼ぶんじゃない」と怒られている。
「名前教えてくれたら呼ばないってば。それよりあのさ、あのさ、イルカ先生のこと、カカシ先生には黙っててくれないかなあ」
「「「……………」」」
 仔イルカを探しにきた忍犬達に言う言葉ではない。だが、ナルトは大物だった。断られる前に説得を続ける。
「サクラちゃんから聞いたんだ。カカシ先生、イルカ先生見つけたら、裸にしたり触ったり痛いことしたり、変なことするつもりなんだってば。こんな小さいイルカ先生に酷いこと駄目だってばよ!」
 そうよ、とサクラもうなずき、忍犬達は顔を見合わせた。サスケもネジは、いったいサクラは何をナルトに教えた、と頭を抱えている。仔イルカだけがよくわからないまま、首を傾げていた。
「だから、カカシ先生に黙ってて欲しいんだけど……」
 最初の勢いはどこへやら、遠慮がちに聞くナルトに忍犬達はうなずいた。
「変態だ変態だとは思っていたが、そこまでだったとは」
「カカシの奴、上忍の風上にもおけん」
「そういう事情なら黙っててやるし、なんなら守ってやってもいいぞ」
 忍犬達にもイルカは人気だった。動物好きなイルカ攻略のために、カカシは何度も忍犬とイルカを会わせている。穏やかで優しいイルカに忍犬達も会うたびに尻尾を振りまくっていたのだ。イルカをカカシがゲットできれば、会い放題、の誘惑にカカシの言うことを聞いてしまったが、そんな酷い方法でならゲットできなくてもいいと忍犬達はその結束を固くしていた。
「できたら守ってくれるより、違う情報を流してカカシ先生を振り回して欲しいんだけど…」
 忍犬が固まっていたら目立つ。それよりカカシや大人達を全然違う方向に誘導して欲しいとサクラは説明した。
「わかった。まかせておけ」
 力強く言うと、忍犬達は走って行った。その前に前払いとばかりに、仔イルカになでなでしてもらうことは忘れてはいない。
「イルカ先生って………」
 ちょっと遠い目になってしまったサクラだった。









 そしてその頃。
「じゃあ、これでイルカは大人に戻れるんだな」
 アスマの言葉に油女家の親子が重々しくうなずいていた。



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