受付は騒然としていた。
 ガイと仔イルカのらぶらぶかっぷる誕生の雰囲気に激昂したカカシと紅が、イルカの名前を連呼してしまったのだ。
「あ、あれがイルカ先生?」
「うそだろー、ちょっと、おい」
「可愛すぎ……」
 サクラは頭を抱えたくなった。偽名を使わせ、女の子の格好までさせて身元を隠したのに、そして幼児の仔イルカですらちゃんと口を閉じていたのに、いい大人、それも上忍があっさりばらしていいものなのか。
「カカシ先生ってばよ…」
 ナルトにまで呆れられたらもう終わりだ。
 だが、大人達のポカに喜んだものもいたりする。サスケだ。
「サクラ、ナルト」
 真剣な顔をして2人の仲間に声をかける。サスケにはサクラは安全圏だった(イルカゲットにとって)。ナルトはイルカ先生とべたべたしすぎだが、こいつには家族愛しかない、そう見極めていた。
「あいつらは頼りにならねー。俺達でイルカ先生を守るぞ」
 サスケの言葉にサクラとナルトは顔を見合わせてうなずいた。
「上忍だからって頼りになるもんじゃないのね、よーく、わかったわ」
 皮肉な笑みに顔を引きつらせながらサクラが言う。
「イルカ先生は俺が守るってばよ」
 ナルトもいつも以上に燃えていた。
「俺もそれに加わらせてくれ」
 さらに後ろから声をかけられる。
「日向家のネジか……」
 サスケとネジの間でばちばちばちと火花が散った。しばらく睨みあっていた2人はふっと目をそらす。今はそんな事をしている場合ではないのだ。安全な場所で仔イルカに自分の存在をアピールすればいいだけのことなのだし。
 午後から遊びまくって一番仔イルカになつかれているナルトがちょいちょいっと手招きした。なにかよくわからない大人達の争いの中心でぼーっと見あげていた仔イルカはそれに気がついて首を傾げる。
「こっちだってばよ」
 再度手招きされ、仔イルカは大人達の間をすり抜けて、ナルトお兄ちゃんのそばにいった。
「あのな、イルカ…じゃないイサギちゃん。って、今の格好はミナモちゃん」
「もう、なんでもいいわよ。さっさと用件言いなさい、ナルト」
 サクラに急かされてナルトは仔イルカの手を取った。すかさずサスケがその手を奪い取り、ネジがさらに奪おうとするのをサクラが睨みつけた。
「大人達といっしょのことしてどうすんのよ。あのね、イルカせ…ちゃん、ここだと危険だからお姉ちゃん達と安全なところに行きましょ? わかった?」
 仔イルカは首を傾げた。火影のおじいちゃんはイルカが狙われていると言った。イルカの両親は上忍だから、『さかうらみ』とか『ひとじち』とかでイルカを狙うものもいることは知らされている。だから今度のもそうだと思った。それにしてはいつもと違って変なおじちゃん(カカシ)が一緒だったり、女の子の格好をさせられたりでよくわからない。火影のおじいちゃんが大丈夫だと言うからそう思ってきたけれど……。
 このお姉ちゃんたちは大丈夫なのかな? 仔イルカは首を傾げる。
 サクラはうーんと首をひねった。この幼児は幼児らしくなく注意深い賢い子だとはずっといっしょにいたから知っている。懐いているナルト『お兄ちゃん』が呼ぶだけでは信用してくれないらしい。なら。
「イルカちゃん、早く。上忍のおじちゃん達が気を逸らしてくれている間に私たちとにげるの」
 狙われているイルカを守るにしては騒ぎすぎのおじちゃん達を危ぶんでいた賢い幼児は今度こそうなずいた。





 サクラ達が向かったのは火影邸だった。火影の居室ではすぐに見つかって先ほどと同じ騒ぎを繰返してしまう。だから、
「どうしたんだ、コレ」
 元に戻ったイルカは生徒に子供姿を見られたことを嫌がるかもしれないが、ほどほど安全でそれでいて大人たちに見つかりにくい――木の葉丸の部屋に逃げ込んだのだった。





「ナルト兄ちゃん、本当にどうしたんだ、コレ」
 木の葉丸は引きつっていた。ナルト兄ちゃんが頼ってきてくれたのは嬉しい。おまけがついてきたのも別に文句はない。だが、
「ここなら邪魔が入らないな」
「それはこっちのセリフだ」
 睨みあうサスケとネジの間には6才幼女がいたりする。しかも術で争うとかならまだ木の葉丸にも理解できただろうに、彼らが競いだしたのはその幼女をどちらが微笑わせれるか、で。
「あぶぶぶぶー」
と日頃のクールさ忘れて頬を引っ張ったりしてネジが顔を崩す。白目であっぷっぷをやっても、幼児にはとても恐ろしかった。仔イルカの顔が泣きそうになる。
「フン。口ほどにもない」
 そう言うサスケはといえば、
「おたまじゃくしの回転だっ」
 自分の写輪眼を笑いものにしていた。
「あのさー、サクラちゃん」
 呆然と2人の争いを見ていたナルトが呟いた。
「ああいうお笑い見せてさ、イルカ先生、サスケやネジのことかっこいいとか頼りになるとか刷り込まれないってばよ?」
 大事な大事な先生のことだけに、それなりに悟っていたらしい。
「言っちゃ駄目よ、ナルト。あの2人にお笑いさせといた方が安全なんだから」
 かっこよさを仔イルカに見せ付け、刷り込むために戦い始めたりなんかしたらたまったものではない。呆れた2人が見ている間に、サスケとネジの頭はもっと壊れていった。
「そ、そういえば、ゲジ眉を気に入っていたな」
「ガイ先生がお気に入りのようだったな」
 呟き、
「「変化!!」」
 サスケは自分の顔の眼と眉だけを熱血ガイ&リー仕様に。
 ネジは完全にガイに変化。
 ちなみに2人とも全身緑タイツ着用済み。
「だからさあ、サクラちゃん。ゲジ眉の印象をこれ以上強くしてどうするんだってばよ」
 イルカ先生の感性が壊れる。真剣に呟くナルトにサクラも力なくうなずいた。



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