「任務だ」
 そう言って、髭の上忍が手に吊り下げていたのは、黒髪の可愛らしい子供だった。


「いやー、可愛いっ! なにこれーー」
 また子守りなの?、文句を言いかけたイノは幼児を見た途端に叫んだ。幼児になにこれもなかろうが、それくらいその幼児は可愛らしかった。
 可愛らしさにイノほどは目を眩まされなかったシカマルとチョージが首を傾げる。妙に、誰かに、似ている。
「ああ、それ、イルカの隠し子ってことになってるから」
 問われる前に先に説明すると、3人の子ども達は目を丸くした。
「「「えええええええーーーーーーーー」」」
 今度こそ、チームワークの良さ(関係ない)で、声を合わせて叫ぶ。
「嘘っ。あの! イルカ先生に、そんな甲斐性がっ!」
 失礼なことを言うのはイノだ。
「先生、そんなこと一言も言ったことない……」
 ぼそっとチョージが言うのに、
「だから隠し子って言うんだろ」
 シカマルが突っ込む。だが、さすが下忍一の切れ者は納得行かないものを感じているようだった。
「隠し子にしちゃ、似すぎてねえ?」
 シカマルの指摘にアスマがにやっと笑う。やはり何かある、と更に追究しようとしたシカマルをイノが遮った。
「ねえ、この子、ちょっと大人しすぎない? 全然喋らないし……」
 言われれば連れてこられて一度も口を開いていない。周りで騒がれても動きもしない。シカマルとチョージも、そういえばと顔を見合わせた。
「ああ、こいつの両親は上忍だからな。不在がちで1人で黙って待ってるのは慣れてんだ。俺は以前からこいつを知ってるが、おっとなしいやつだぞ。ま、今日は口を開いて間違えちゃいけねえってんで、一生懸命黙ってるのもあるが」
「? おかしいよー」
 シカマルでなくても誰でも気付く。チョージがのんびりと口を開いた。
「イルカ先生の隠し子なんでしょ? イルカ先生、中忍じゃん」
 イノも容赦なく指摘する。アスマは苦笑した。
「だから、言ったろ」
「「「あ!」」」
 再び3人の息が揃った。アスマはこの子供を紹介する時、『隠し子っていうことになっている』と言ったのだ。
「ちょっと事情があってな。こいつの身元をかくさなきゃいけねー。今回の任務は子守りもだが、こいつの護衛ってのも入ってるから。明日までには火影の爺さんが何か手を打つはずだが……」
 アスマに言われて、3人は緊張気味にうなずいた。
「名前は……そうだな、『イサギ』ってことで。おまえもいいな?」
 アスマが子供に念を押すと、小さな子供は首を傾げる。
「それ、父ちゃんの名前…」
 言いかけて『イサギ』は慌てて小さな手で口を押えた。まだ5・6才の幼児ながら、言ってはいけないことがわかっているらしい。それでも幼児だから、うっかり口にしてしまうなら、確かに黙っていた方が無難。幼児の無口さに納得しつつ、アスマがよしよしと頭を撫でるのを部下の子供達は珍しいものを見たような顔で見ていた。



「じゃあ、任務開始っ♪」
 『イサギ』の小さい手を握りながら、イノが叫んだ。とはいっても、子守り任務、こんな大人しい手のかからない子供にすることはあまりない。
「で、誰がこいつを狙っているんだ?」
 代表してシカマルが聞いた。アスマが言いたくなさそうに顔を顰めた。
「……お前らですらなんとなくわかる、この子供の隠し事情をわからない馬鹿だよ」
「「「?」」」
 はるか遠くから砂煙が見える。誰かが全力疾走でこちらに向かってくるのだ。
「言っとくが、その『馬鹿』がこいつの母親の名前を聞き出そうとするのも止めてくれ」
 わかったようなわからないような任務内容に、もう少し詳しく、とシカマルが聞きだそうとしている時だった。銀髪の変態がその場に到着する。
「うわああーん、会いたかったー」
 子供のような泣き声をあげて、変態が『イサギ』を抱きしめようとするのから、イノが咄嗟に抱上げた。
「イサギちゃんに何すんのよ、変態っ!!」
「イノ、ないすー」
 チョージが変態とイノ&イサギの間に入りながら、褒め言葉をかける。シカマルはちょんちょんとアスマをつついた。
「あれって、サスケ達の先生じゃねーのか? あれからイサギを守るのか?」
 里の上忍だろ? 確認するのにアスマが重々しくうなずく。
「里一の変態だ。子供からはいくらなんでも無理矢理イサギの奴をとりあげれないだろうと、火影の爺さんが……」
 言ってたから上忍相手でも大丈夫だろ、そう言った矢先に。
「……おまえか?」
 カカシが荒んだ目をイノに向けた。
「イルカ先生の子供産んだのはおまえだったのか。い、イルカせんせえ、こんな乳臭いガキに手を出すんなら、どうして俺に一言言ってくれなかったんですーー。俺がいくらでもないすばでーのお姉ちゃんに変化して……」
 泣きながら、それでもカカシは恋敵・イノに向かって雷切を放とうと印を組んでいる。アスマはため息をついて、カカシの頭を後ろから思い切り殴った。
「やめんか、この馬鹿」
 頭からぴよぴよヒヨコを出して昏倒するカカシの姿に、アスマはもう一度深ーーくため息をついた。
「子供盾にしても、あの変態は止まらんぜ。爺さん……」






 いっそ見張りつきで、変態に仔イルカを任せた方がまし(周りの人間の安全にとって)、と言う結論が出たのは、言うまでもなかった。



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