「ええー、イルカ先生、任務なのー?」
 受付所でカカシは盛大に顔を顰めた。1日のうちで何が楽しいかって、イルカの顔を見られる任務報告の時間ではないか。それがいないなんて、何のためにうっとおしい子供達を引き連れて炎天下の中で仕事をしたかわからなくなってくる。
「で、いつ帰ってくるの?」
 代わりに座っている中忍に絡むが、そんなことはいくら上忍にでも教えられないのだろう。中忍は困ったように何度も頭を下げた。火影に問いただそうにも、イルカの隣りにならいつまでも大人しく座って真面目に仕事をしている里長はかなり前に逃げ出した後で。
「あー、もー。さいってー」
 カカシはため息をついた。



 イルカの行き先が知れないものかと、カカシはぶらぶらと火影の執務室の方に歩いていた。何か用事でも無理矢理作って話をしている間に、こっそり書類を見る――相手が火影では無理かも。それより火影が喜んで飛びつきそうなものでも見せといて、その隙を狙った方が確実そうだ。カカシは高級ういろうといちゃぱら最新刊を取りに行こうと、とりあえず踵を返す。そんな馬鹿をやっている間にイルカが帰ってくるかもしれないということは全く思いつきもしなかった。
「ん?」
 パタパタパタと足音がする。
「忍がなにやってんだか」
 呆れて後ろを振り向けば、小さな子供。5才、6才くらいだろうか。真っ黒なキラキラした瞳でカカシを見上げていた。
「? なんか見覚えが……」
 心当たってしまい、カカシの顔が青くなっていく。
「これ、待たんか、イ……」
 子供を追って部屋から飛び出してきた火影の顔も。カカシは次の瞬間、火影に詰め寄っていた。
「三代目っ! これはいったいどういうことなんですかっ!!!?」
「あー、そのー」
 言いにくそうにする火影に、自分の考えていることが正しいとカカシは理解した。
「い、イルカ先生に隠し子なんてーーーーーーーーーーー!!!」
 俺との愛はどこにいったんですかっ!? はた迷惑に号泣するカカシを火影はずるずると引っ張っていった。






 しくしくと永遠に泣き続けるかと思われたカカシがようやく鼻を啜り終えた。野次馬が集まってこないうちにと執務室の中に引っ張り込むことには成功した火影がようやくか、と息を吐く。
「そのな、イルカはどうしてもの長期任務に行かねばならんくなって、その間な」
 その隠し子を預かることになったと火影は説明した。
 じゃあ今までイルカはどこでこっそりその『隠し子』を育てていたんだとか、突込みどころはいろいろあるはずだが、カカシは気付かなかった。そこまでの余裕はない。
「イルカせんせえ、俺ってものがありながら隠し子を作るなんて……」
「………イルカはおぬしにつきまとわれて、すごく迷惑そうじゃが?」
 カカシは火影の突込みを無視した。見れば見るほど子供はイルカに似ていた。これで顔に一文字の線が入っていれば、イルカそのものだ。
「いるかせんせえ、もしかして単性増殖したとか? それなら俺、許せますっ!」
 ぎゅうっとイルカもどきの子供を抱きしめるカカシの後ろで、火影が大きくため息をついた。





 とりあえず、相手の女を探して血祭りにする、そう言ってカカシが出て行った後、火影は誤魔化せた、と安堵のため息をついた。
 イルカが任務に出たのは嘘ではない。お使い程度ではあったが、出向く先が気難しい、ちょっと身分の高い爺ということで、人当たりのいいイルカにしかこなせないお使いだった。だが、所詮はおつかい、何も難しいことはなく帰ってくるはずだったのだ。

 イルカがその帰還途中に争う他里忍と木の葉忍に出会わなければ。

 イルカでなくても襲われている同胞を見たら助けに入ろうとするだろう。ましてイルカだ。即座にその間に割って入り、思いもかけぬ援軍に敵忍は……。
「これがもう少し弱い忍であったらのう」
 火影は小さな子供を見てため息をつく。
 霍乱させようと敵忍の放った術、それをイルカは受けてしまった。もちろんイルカはそれを防ぐための術を発動しており、木の葉の忍もイルカを助けようと、同じくそれに対抗する術を放っていた。だが、それによりそれこそかく乱してしまった術はイルカを直撃した。さらにイルカ自身が放っていた術と、混ざり合って固定化してしまった。――子供返りするという術が。
 おかげでチャクラもわけのわからない状態になっており、カカシにすらイルカのチャクラに似ていると思っても同じ物とは思えないようになったのは不幸中の幸だったが。
「火影の爺さん〜、カカシには本当のこといったらどうなんだ?」
 この件に巻き込まれてしまった(仔イルカを連れて逃げてきた木の葉忍に一番最初に会ってしまった)不幸なアスマが煙草の煙をため息とともに吐き出した。
「勝手に隠し子だのなんだの誤解したのはあやつじゃ」
 それにこれがイルカ本人だとしれたら、幼くて抵抗もろくに出来ないのをいいことに……、恐ろしい想像に火影は顔を青ざめさせる。
「……そ、そこまではやらねーだろ、あいつも」
 アスマも引きつりつつ、必死に否定した。
「せいぜい、大人になった時に好かれるように刷り込みする程度じゃね―のか?」
 それでも充分危険だと思うがそれよりも、
「それより、誤解したカカシに襲われる『相手の女』の被害の方が怖いんだが、俺は」
 そんな女はいないのだから、カカシは延々とイルカの子供を産んだ女性を探しつづけるだろう。そしてあてずっぽに襲撃しまくる。
「イルカは単性増殖で子供を作ったんじゃ。それでいい」
「…………爺さん、それ、無茶ありすぎ………」
 これからの騒動を思って、アスマは頭が痛くなった。



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