(3)


今夜の任務は巻物の奪還だ。
暗部任務で『奪還』と言うとき、実は略奪であることが少なくない。
どこの里も戦力維持には躍起になり、貴重な巻物を手に入れる為には手段を選ばないから、奇麗事は言っていられないのだ。
今回の任務でも、巻物が盗み出されたのは霧隠れの里だ。
金に眼が眩んだ愚か者が禁術の巻物を盗み出して里抜けし、闇ルートでオークションにかけた。
競り落としたのは雨隠れの里だが、金など払わず奪い取る積りでいるのは見え見えだ。無論、霧の里は巻物を奪い返そうと忍を放っているし、他の里も噂を聞きつけて巻物を狙っている。
現に今、巻物の受け渡し場所に指定された峠から数キロ離れていても、数個の殺気を帯びたチャクラが感じられる。
霧と雨と俺たちの他に、少なくとも一つの勢力が峠を取り巻いている。
「混戦になるのが判ってるのに飛び込む事は無い。騒ぎが収まるのを待って出て行けば充分でショ」
「覇気が無いぞ、カカシィ!高みの見物の末に漁夫の利を狙おうなどと、卑怯だとは思わんのか!」
俺の言葉に、さっそく反論を唱えたのはガイだ。
俺は軽く肩を竦め、アスマを見た。
「どうせ考える事は皆同じだ。誰かが先鞭を付けない事にゃ、埒が開かん」
このままずっと待ってるのも面倒くせぇし__アスマのその言葉に、俺は急に気が変わった。
任務を早く終わらせれば、それだけ早くイルカ先生の元に帰ることが出来る。
その為ならば、多少の危険など何ほどのモノでも無い。
「よし!突入するぞ!」
「それでこそ、我がライヴァルだ!」
「面倒くせぇ…」
俺たちは暗部の面をつけると、木の枝を蹴って疾走した。

俺たちが動いたのを察知して、すぐに他のチャクラも追って来た。アスマとガイがトラップを仕掛け、俺が結界を張って味方をガードする。
これで、暫くは時間が稼げる筈だ。
俺は単独でいるチャクラを目印に探し、トラップを解除してその相手に迫った。
「……!……」
「巻物は?」
霧隠れの抜け忍と思しき相手の咽喉もとにクナイをつき付け、俺は訊いた。
「…金はどこだ?約束では二百万両と引き換えに__」
「アンタの生命と引き換えだヨ。3度は訊かない。巻物は何処だ?」
俺の言葉に、相手は真っ青になりながらも口元を歪めて哂った。
「ここには持って来ていない。そんな事したら巻物を渡した途端に殺されるのがオチだからな。そっちが金を寄越せば、巻物は後から必ず……」
俺は素早く印を組み、自白を強制する幻術を放った。
「巻物は、どこだ?」
「……巻物…は……」
相手は俺の幻術に対抗しようと、必死になって唇を噛み締めた。
俺は面を取り、写輪眼を発動させた。
男の身体がガタガタと振るえ、目が虚ろになる。
もう少しだ。とっとと吐いてしまえ。
「巻…物……は、な…い…」
「何だって?」
「盗み出すのに…失敗……それを誤魔化す為に…倉庫に放火し…て……」
結界の破られた気配に、俺は身構えた。
霧隠れの抜け忍には咽喉に手刀をお見舞いして眠らせた。
トラップも破られ、三つの勢力が俺たちに襲い掛かる。
アスマが一つの、ガイがもう一つの勢力と戦っているが、感じられる敵のチャクラはいずれも上忍クラス。その上、数の上ではこちらが圧倒的に不利だ。
俺は残ったもう一つの勢力と対峙すべく、チャクラを右手に集中させた。
凄まじい殺気と共に、幾つかのチャクラが俺を取り囲む。

その時。

ポン、という間の抜けた音と共に、白煙が俺の周りを包んだ。
白煙はすぐに消えたものの、俺は奇妙な違和感を両手と腰の辺りに感じた。
今まさに俺に飛びかかろうとしていた敵忍が、一斉に動きを止める。
「………な…なんなんだ………?」
驚愕と困惑に満ちた敵忍の言葉に、俺は思いっきり厭な予感を覚えた。
そして、恐る恐る自分の両手を見る。
「……にゃ…にゃんにゃこにゃ………!?」
故・松田○作を髣髴とさせる(古い;)台詞を吐いた俺の目に映ったのは、ピンクのにくきうも生々しい猫手だった。




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