(2)


「やあ、諸君。お早う」
「2時間も遅刻しといて何が『お早う』よ!」
「いやー、悪い悪い。実は今日は__」
「カカシ先生。猫の匂いがするってばよ」
俺の言葉を遮って、いきなりナルトが言った。
犬みたいに鼻をクンクンさせて、俺の周りを嗅ぎ回る。
「…実は今朝、木に登って降りられなくなった仔猫を助けようとして木に登って降りられなくなった子供を助けようとして木に登って降りられなくなったご婦人を助けて子供を助けて仔猫を助けて、お礼にお茶でもと言われて断ったんだが断りきれなくて遅くなってしまったんだ」
内心の動揺を隠しつつ、俺は言った。
ポーカーフェイスはお手の物だ。
イルカ先生の前では、感情が思いっきり顔に出てしまうケド。
「長ったらしい分、余計に嘘っぽいわ」
「でも、本当に猫の匂いがするってばよ」
「…どうでも良い。とっとと始めろ」
俺は任務の説明をしながら、今朝の出来事を思い出していた。

今日の朝もいつもどおり朝食の後片付けを済ませると(食事当番は交代制だが、朝に弱い俺のために朝食はいつもイルカ先生が作ってくれる♪だから朝食の後片付けは俺の仕事なのだ)、俺は慰霊碑に立ち寄った。
イルカ先生と過ごす毎日がどんなに楽しくてラブラブで俺が幸せか、亡き先生や仲間達に報告する為だ。
アスマは「死んでからも他人のノロケを聞かされるなんぞ冗談じゃねえ」とか言ってたが、先生はいつも俺たちに「幸せになりなさい」と言ってくれていた。だから俺は、恩返しの積りで毎朝、前の日の出来事を報告しているのだ。
相手はもう、亡くなっている人だから何事も包み隠さず、閨の事まで詳しく報告する。
ここだけの話、イルカ先生は閨では凄いのだ。
イチャパラも真っ青、嫌、真っ赤ってくらい。
表面(おもてづら)が『真面目で良い人』な分、反動が現われるのか、マニアックなプレイも結構、好きだ。
そしてイルカ先生はいつも、「カカシさんは体力があるから苛め甲斐がありますよ」と誉めてくれる。
そんなこんなを楽しく報告していたら、どこからか野良犬どもが現われて、俺に吠え掛かってきた。
俺は犬の扱いには慣れているが、駄犬に興味は無い。神聖なる朝の儀式を邪魔する不躾な野良犬なぞ無視するに限る。
そう思っていたのだが余りにしつこく吼えてくるので、ちょっと殺気を出して睨んだら尻尾を巻いて逃げていった。
あれの原因がまさか、『猫の匂い』だったとは。

7班の監督は影分身に任せ、俺は暗部の資料室に行った。
何が原因で猫耳になってしまったのか判らないが、匂いまで猫になりかかっているなんて深刻だ。もしこのまま完全な猫にでもなってしまったら、イルカ先生の恋人ではいられなくなってしまう。
それだけは絶対にイヤだ。
俺は必死になって片っ端から資料を読み漁った。影分身を使って手分けして膨大な資料を読破した。
だが、何も判らなかった。

俺はがっくりと肩を落として暗部を出、7班の任務終了を確認すると報告書を提出に行った。
今日はイルカ先生が受付所にいる日ではないが、ひょっとしたら誰かの代わりでいるかも知れないと、一縷の望みをかけたのだ。
俺は再びがっくりと肩を落として受付所を出た。
アカデミーの職員室に行けば会えるだろうが、行けば仕事の邪魔だと怒られるので行かない。イルカ先生は公私のけじめをきちんとつける人なので、恋人だろうが甘えは許されないのだ。
俺は仕方なくそのまま暗部詰所に戻り、今夜の任務に備えた。



「おう、来たか」
「一緒に暗部任務に就くのは久しぶりだな!」
時間に集合場所に行くと、先に来ていたのはアスマとガイだった。
「何でキミ達が来てんの?」
「最近の暗部は軟弱でいかん!ちょっと腹を下した程度で任務を休むとはたるんどる!」
「そう言うな、ガイ。食中毒では任務は無理だ」
「食中毒?」
アスマの言葉に、鸚鵡返しに俺は聞き返した。
「ああ。暗部恒例の闇鍋に、どっかの馬鹿がとんでもねえものを入れやがったらしい」
暗部にはよく趣旨の判らない恒例行事がいくつもある。
闇鍋もその一つだ。
暗闇の中でいかに食べられるものと食べられないものを識別するかの訓練の一環という建前があるせいか、賞味期限を2年前に過ぎたハムとか、冷蔵庫内に3年前からあった卵とか、いくら暗部でもそんなモノを食べれば病気になって当然だろ暗部だって人間なんだぞ、な品々が無慈悲に鍋に投入されるのだ。
俺はいつも食べたフリだけして誤魔化していたが、あれを真面目に食すヤツもいたとは。
「昼はガキどものお守り、夜は暗部任務だなんて面倒くせー…」
「久しぶりの暗部任務で腕が鳴るぞ!」
やる気の無さ丸出しのアスマと、やる気満々のガイの姿に、俺は何となく厭な予感を覚えた。
だがまさかその予感が、それもあんな形で的中するなどと、その時には思いもしなかった。




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