−現在−




「何が人体実験だ。午後からは修行に付き合う約束だった筈だ」
不満を隠そうともしないサスケに、カブトは眉を顰め、大蛇丸は苦笑した。
「約束を忘れた訳じゃないけれど、とても大切な実験なのよ。カブトや他の部下たちに任せきりには出来ないわ」
「そんなものは後にしろ。修行が先だ」
「サスケ君…いい加減にしないか」
注意したカブトに、サスケは鋭い一瞥を投げつける。
「アンタが医療忍としてもう少しマシだったら、大蛇丸は自分で人体実験なんかする必要は無かった筈だ」
「……そういうセリフは医療術の一つでも出来るようになってから言うべきだよ」
「くだらねぇ」
吐き棄てるように、サスケは言った。
「オレには医療術なんぞ、必要ない。オレに必要なのは__」

あの男を斃す為の力だけだ

冷たい殺気を含んだ禍々しいチャクラに、カブトは威圧されるように感じた。
ゆらりと、大蛇丸が嗤う。
「よっぽど…イタチ君の事が憎いのねえ……」
「当然だ。オレはその為だけに__イタチを殺す為だけに生きて来た。あの男を斃す為なら、オレはどんな事でもする」
言い切ってから、サスケは改めて大蛇丸に向き直った。
「あんたも目的は同じな筈だ。そしてその為にオレはあんたの能力(ちから)が、あんたはオレの身体が必要だ」
「……そう、その通りよ。私とサスケ君は、イタチ君を斃すという目的で繋がれている……」
口元を歪め、大蛇丸は嗤った。
「判ったわ。人体実験は後回しにしましょう」
「…先に行っている」
オレを待たせるなと言い捨てて、サスケは踵を返した。



「……宜しいのですか、大蛇丸様」
軽く眼鏡の位置を直し、カブトは聞いた。
「彼の、あんな無礼な態度を放っておいて」
「サスケ君は一刻も早く目的を遂げたくて焦っているだけよ。彼が焦れば焦るだけ…私には有利になる」
「仰る通りだとは思いますが……それにしても、毎年この時期になるとサスケ君はやけに苛立つようですね」
気候のせいでしょうかと言ったカブトに、大蛇丸は笑った。
「この『時期』ではなく、今日というこの日のせいよ」
「今日……何かあるのですか?」
「イタチ君の誕生日」
大蛇丸の言葉に、カブトは軽く眉を上げた。
「ああいう家柄の子は、誕生日をきちんと祝って貰うものなのよ。そして幼い頃のそういう記憶というものは、消そうとしても消えるものじゃ無いわ」
「なるほど。兄を思い出して、憎しみを募らせている…という訳ですか」
「…それだけではないでしょうけどね」
大蛇丸の言葉に、「と仰いますと?」とカブトは訊いた。
が、大蛇丸は何も言わなかった。





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