−夢−
修行を終えたサスケは、疲れた身体をベッドに投げ出した。
今日は夢を見たくない。
だから大蛇丸の制止を振り切って極限まで肉体を酷使し、チャクラも使いきった。
前の晩、見た夢が脳裏に蘇り、サスケは苛立ちを覚える。
------どうして強くなりたいんだ?
「……あんたに復讐したいからに決まっている」
夢の中で問いかけた兄に、サスケは低く答えた。
夢の中で9歳の子供だったイタチは、サスケの脳裏では17の少年に変わっていた。
暁の命でナルトを拉致しに来、宿屋で対峙した、あの時の姿に。
------強くなって得た力で、お前は何をしたい?
「あんたを殺す…。それがオレの全てだ」
------俺が疎ましいか?
背後から聞こえた問いに、サスケは幾分か驚いて振り向いた。
そこにいたのは、子供の頃のイタチとサスケ自身。
------そんな風には……
サスケは半ば呆然と、7歳の自分と12歳の兄を見つめた。
「……!」
いきなり咽喉を掴んで壁に叩きつけられ、サスケは咳き込んだ。
暁の衣装を纏ったイタチが、こちらを見据えている。
------お前は弱い。足りないからだ……憎しみが
「……ざけるな。オレはこの7年の間、ずっとあんたを憎み、あんたを恨み、あんたを殺す事だけを考えてきた」
------俺を殺せば、お前の願いは叶うのか?
サスケの肩が、ぴくりと震える。
「…ったり前だ。あんたを殺し、あんたに復讐する事がオレの全てだと言った筈だ」
ならば殺せ、と、暁のイタチはサスケに剣を渡した。
そして、サスケの背後を指差す。
今しがた見たのよりも更に幼い頃の自分と兄の姿が、そこにはあった。
------あの子供ならば、今のお前でも殺せる筈だ
幼いサスケは野の花を摘み、小さな花束をイタチに差し出していた。
イタチが9歳になった日の記憶なのだと、サスケはすぐに思い出す。
新しい手裏剣か何かもっと立派なものを贈りたかったが、まだ4歳にもなっていない自分にはそれが精一杯の贈り物だった。
イタチが喜んでくれるかどうか、期待と不安でいっぱいになりながら花束を差し出した記憶が、その時の感情が、鮮やかに蘇る。
------これは…?
------今日…兄さんの誕生日でしょう?だから……
上目遣いで兄を見上げた幼いサスケに、イタチは優しく微笑んだ。
それから、サスケを抱きしめる。
------有難う、サスケ。何よりの贈り物だ
------お誕生日、おめでとう。兄さん
兄が喜んでくれた事が嬉しくて、満面の笑顔で幼いサスケは言った。
------何をしている?
不意に耳元で囁かれ、サスケは驚いて振り向いた。
暗部の衣装に身を包んだ『あの日』のイタチが、冷たくこちらを見据えている。
------何故、殺さない?何を躊躇っている?
幼い兄弟は、お互いを見つめ、微笑を交わしている。
とても幸せそうに。
------俺を殺したくば、恨め。憎め
サスケは剣を抜き、暗部のイタチに向き直った。
剣を振りかざし、斬り付けようとしたその時、イタチの表情がふっと和らぐ。
------それでお前の願いが叶うのなら、俺を殺すが良い
「……オレ…は……」
金縛りにあったかのように身体が強張るのを、サスケは感じた。
迷いなど何も無い。イタチを憎んでいる__その筈なのに、何故か斬り付ける事が出来ない。
------お前は弱い。足りないからだ……憎しみが
イタチは言いおくと、踵を返した。
サスケは為すすべもなく、その姿を見送る。
------兄さん、待ってよ兄さん…!
幼い自分が兄の後を追って走ってゆくのを、サスケは止めることも、眼を逸らすことも出来ずに見つめた。
イタチは振り向き、幼いサスケに手を差し伸べ、そして微笑んだ。
「__!……」
ベッドの上に跳ね起き、サスケは自分がいつの間にか眠ってしまっていたのだと気づいた。
服も着替えず、灯りをつけたまま。
思わず周囲を見回し、自分が一人である事を確認する。
ここにイタチがいる筈が無い__その当たり前の事実が、何故かサスケを落胆させた。
------お前は弱い。足りないからだ……憎しみが
「ふざけるな!オレは……」
こみあげる感情を制することは、サスケには出来なかった。
ただ乱暴に目元をこすり、熱い滴を拭った。
Fin.
■お祝いなのに暗い話で済みませんm(__)m
307話のサスケを見ていて、「強くなる」為に一生懸命イタチさんを憎もうとしているのだけど憎みきれずにいるように感じられたので、それをテーマに書いてみました。 もう本当に、どこまでお兄ちゃんが好きなんでしょうか、あの子は。
愛とか憎しみとかを超越して、人として持ちうる感情の全てをたった一人の兄に向けているように思えます。
今回はそこまでは盛り込めませんでしたが;
■イタチさん、お誕生日おめでとうございます〜♪
月並みな言葉だけれど、生まれてきてくれて有難うv
いつまでも美しく艶やかなアナタでいて下さい。
何より、死なないで……(>_<)
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