−過去−




「兄さん、待ってよ兄さん…!」 
「道草をするな、サスケ。遊びに来たわけじゃないんだ」
兄の言葉に、サスケはぷうっと頬を膨らませた。
その姿に、イタチが軽く笑う。
「判ってるよ!オレだってシュリョーするんだもん」
まだ呂律の回らない口調で、それでも一生懸命にサスケは言った。

今年、9歳になるイタチは2年前にアカデミーを主席で卒業し、忍としての任務に就いている。
既に写輪眼も会得し、一族の皆から将来を嘱望される兄は、サスケの憧れの的だ。
イタチの任務が休みの時には、いつもこうしてイタチの修行に着いてゆく。

「シュリョーじゃない。修行だ__お前にはまだ早い」
「でもオレだっていっぱいシュリョ…シュギョウして、兄さんみたいに強くなるんだ!」
イタチは暫く黙って弟を見つめた。
それから、問う。
「どうして強くなりたいんだ?」
「……え?」
「強くなって、それでお前はどうしたいんだ?」
予想もしていなかった問いに、サスケは何度か瞬いた。
「だって兄さんは強くてカッコ良いから、オレも兄さんみたいになりたい」
「どうなりたいかじゃなくて、何がしたいのかを聞いているんだ。強くなって得た力で、お前は何をしたい?」
サスケは眉根を寄せて、兄を見上げた。
修行をして強くなるのだと言えば、回りの大人たちは皆、誉めてくれる。
強くなって何がしたいのかなどと、訊かれたのは初めてだ。

------父さんはね、警務部隊と言って、里を護る大切なお仕事をしているのよ

ミコトの言葉を思い出し、サスケは顔を輝かせた。
「強くなって、里を護る!父さんみたいに」
イタチはすぐには何も言わず、黙ってサスケを見つめた。
誉めてくれるものとばかり思っていたサスケは、兄の沈黙に困惑する。
だがイタチはすぐに表情を和らげ、幽かに微笑した。
「…そうか。サスケは偉いな」
言って、優しく頭を撫でてくれた兄を見上げて、サスケも微笑った。





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