序章


「何故、あんな無茶な真似をしたんですか」
黒髪を頭の高い位置で一つに括っている男は、詰問するようにそう言った。
口調は厳しかった。
が、その表情は、酷く哀しげだった。
「俺はただ……ただ、アナタを…」
護りたかったから__その言葉は声にならなかった。
白銀の髪をした男は、相手の漆黒の瞳を見、それからまた視線を落とした。
「俺を見舞う暇があるのだったら、他の仲間を見舞ってやって下さい」
「……俺があんな無謀なマネをしなければ、彼らはあんな怪我を負わなくとも済んだ」
「そう思うのだったら、もう二度と無茶はしないで下さい」
銀髪の男は深い藍色の瞳で相手を見、自嘲気味に嗤った。
「アナタも、俺が任務に失敗した事を非難するんですね。天才と持て囃されていた俺が、無様に任務に失敗した事を」
「俺は結果を云々しているのではありません」
静かに、黒髪の男は言った。
「敵の手に堕ちたのは俺のミスです。あなたが俺を信じていたのなら__敵の拷問に屈して、こちらの手の内を喋ってしまうのではないかと疑っていたのではないなら__あなたは俺の救出より、任務の遂行を優先すべきでした」
「…アナタを疑ってなんて__」
「中忍の俺が、上官であるあなたに意見するなんておこがましいことだと重々承知しています。でも俺は、あなたのような優秀な忍が一時の感情に惑わされて判断を誤ったことを、酷く残念に思うだけです」
銀髪の男は口を開いたが、何も言わなかった。
黒髪の男の哀しげな瞳に、何も言えなくなってしまったのだ。

「待って下さい」
踵を返し、出て行こうとした相手の後姿に、黒髪の男は言った。
「俺は優秀な忍として、あなたを尊敬し、信頼しています」
その事を、忘れないで下さい__
銀髪の男は振り向かなかった。
ただ形の良い口元を歪めて嗤い、そのまま病室を出て行った。






「遊びの積りなら止めておけ」
紫煙を吐きながら言った髭の同輩を、深い藍色の瞳が瞥見した。
「あいつは、お前みたいなヤツの相手をするような男じゃない」
「真面目で実直で火影様の覚えも目出度いおカタイ中忍先生だから?__判ってないねえ」
言って、銀髪の男は皮肉な笑みを浮かべた。
「だからこそ、ゲームのやりがいがあるんでショ?ちょっと構えばホイホイついて来る様な尻軽や、誰とでも寝るような節操なしを陥としたって面白くない」
「てめぇ、やっぱりただの遊びか?」
「遊びなのかって?」
鸚鵡返しに、銀髪の男は聞き返した。
そして、笑う。
「遊びなんかじゃない。俺は真剣だーよ。今まで、こんなに真剣になった事はないって位」
「だが、貴様今、ゲームだと__」
「そ。これは真剣なゲームなんだよ。だから…」

邪魔したり余計な事を言ったりしたら、コロスよ?

殺気を帯びた冷たいチャクラに、髭の男は背筋が寒くなるのを覚えた。





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