Seraph of Death

(2)



「…大丈夫か、ジェネシス?」
18頭目のドラゴンを斃した後、思わずふらついたジェネシスの腕を、アンジールが支える。
まずジェネシスが無属性の魔法でドラゴンに先制攻撃をかけ、動きが鈍ったところをアンジールが斬る、というやり方で、2人は戦っていた。
無論、セフィロスのように一刀両断という訳には行かないから、ジェネシスもアンジールも続けてドラゴンに太刀を浴びせる事になる。
初めの1,2頭でコツを掴み、後は比較的楽にドラゴンを斃せた。
が、斃しても斃しても、ドラゴンの数は一向に減らない。次から次へと新しいドラゴンが現われ、行く手を阻む。
高度な精神力を必要とする無属性魔法の連続使用のせいで、ジェネシスはかなりの疲労を感じていた。
それに、頭痛もする。
一方のアンジールもロングソードを折られ、バスターソードを使わざるを得なくなっていた。
バスターソードでは斬る事は出来ず、敵に打撲傷を負わせるだけだ。
ドラゴンを倒すには、脳天に振り下ろして頭蓋を砕かなければならない。
だが反撃を避けながら大型のドラゴンの頭を砕くのは、至難の業だ。
------このままでは…
まずい、と思った矢先にいきなりドラゴンが現われた。
焔を吐きかけられ、後ろに跳び退って避けた。反撃で魔法を発動しようとした途端、割れるように頭が痛む。
これ以上、魔法を使うのは無理だ。
「ジェネシス…!」
はっと気づいた時には、背後に2頭目のドラゴンがいて、鋭い爪のある前足を振り下ろす。
------避けきれない……!

グシャ、と鈍い音がして、ドラゴンが悲鳴を上げた。
咄嗟にドラゴンとジェネシスの間に割って入ったアンジールが、ドラゴンの前足を砕いたのだ。
が、すぐにもう一方の前足で反撃され、数メートル、飛ばされる。
「アンジール!」
2人とも疲労の為に動きが鈍っている。
予め魔法で攻撃して動きを封じでもしない限り、ドラゴンに挑みかかるのは、今となっては無謀だ。
「逃げろ、ジェネシス!これ以上は無理だ!」
叫んだアンジールの動きがおかしいのを、ジェネシスは見て取った。
バスターソードを支えにして、何とか立ち上がった感じだ。
よく見れば、右の太腿から膝にかけて服が破れ、出血している。
「アンジール!歩けるのか!?」
ドラゴンの攻撃を何とかレイピアで防ぎながら、ジェネシスは訊いた。
負傷したアンジールを置いて逃げる事など出来ないし、たとえアンジールを見棄てたとしても、魔法も使えない状態で2頭のドラゴンから逃げるのは無理だ。
「俺がこいつらの注意を引き付ける。お前はその隙に__」
「馬鹿な事を言うな!」
アンジールに怒鳴り返した時、背後のドラゴンが甲高い鳴き声を上げた。

刹那、ジェネシスの中で時が止まった。
ドラゴンが前足を振り下ろし、鋭い爪が迫って来る様が、スローモーションのようにゆっくりと見える。
それなのに、身体は全く動かない。
死ぬのだ。
そう、ジェネシスは思った。
バノーラ村で過ごした思い出が走馬灯のように駆け巡り、次の瞬間にはドラゴンの爪に引き裂かれているのだろう。
ここで、俺もアンジールも死ぬ__1stになったばかりだと言うのに。
想いが叶って、やっとセフィロスに会えたと言うのに。
嫌。叶ってなどいない。
俺の夢は、セフィロスのような英雄になる事。
そして、手塩にかけて育てたバノーラ・ホワイトを、セフィロスに__

幽かな羽擦れの音が、ジェネシスの鼓膜を刺激した。
空から銀色の光が降り、ドラゴンの頭が胴から離れる。
「セ…フィロ__」
ドラゴンの頸を落として着地したセフィロスは、そのままふわりと地を蹴って身を翻し、もう一頭に斬り付けた。
断末魔の悲鳴を上げる暇(いとま)も無く、ドラゴンの巨体がどう、と倒れる。
「これが最後の2頭のようだ」
軽く剣を振って血を飛ばすと、セフィロスは言った。
ジェネシスは半ば呆然としていたが、視界の端でよろめく幼馴染の姿を認め、駆け寄る。
「大丈夫か、アンジール?」
「あ…あ。大した事は…無い」
そう、アンジールは言ったが、その顔色は見る見る蒼褪めて行く。
動脈をやられたのか、出血が酷い。
「セフィロス!俺はもう魔法が使えないんだ。アンジールにケアルをかけてやってくれないか?俺を庇って怪我を……」

答える代わりに、セフィロスは携帯を取り出した。
そしてヘリで待機している一般兵に、担架と医療セットを持って来るように命じる。
そして電話を切ると、ジェネシスに視線を向けた。
「お前は俺と一緒に来い。まだ魔晄炉の調査が残っている」
「アンジールの出血が止まらないんだぞ…!」
ジェネシスの言葉に、セフィロスは幽かに眉を顰めた。
「携帯用医療キットに止血用ゴムがあるだろう。それで傷口より心臓に近い場所できつく縛っておけ。回復魔法に頼りすぎて、基本的な応急措置の方法も知らないのか?」
怒鳴りかけて、ジェネシスは思い直した。
回復魔法用のマテリアがなければ、ケアルはかけられない。
「…セフィロス。あんた、回復魔法のマテリアを持っていないのか?」
「自分に必要ないものは、持ち歩かない」
その言葉に、ジェネシスは改めてセフィロスを見た。

かすり傷ひとつ負っていないのは勿論、疲労しているようにも見えない。
まさかどこかで高みの見物をしていた訳じゃあるまいな、と、ジェネシスは思った。
俺たちの実力を試す為に、2人だけでドラゴンの群れと戦わせたのか……?

「俺は大丈夫だ、ジェネシス…。セフィロスと…行ってくれ」
ジェネシスは苦しげに言うアンジールに手を貸して、地面に座らせた。
アンジールの応急措置を済ませたらすぐに行くと言うと、セフィロスは無言で踵を返した。
「良いのか、ジェネシス…?今のは命令違反に……なるかも知れんぞ」
「俺の為に傷ついた親友を助けるのが命令違反になるなら、幾らでも軍法会議にかかってやる」
優等生のお前らしくない、と言いかけて、アンジールは止めた。
ジェネシスは自分を見捨てることも裏切る事も絶対にしない。
それだけは、確かだから。






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