【宿】 |
ザックス | とんでもない事…って、どういう意味だ? |
妖精 | その妖魔の名がセフィロスならば、そいつは古の魔王の再来だ。 |
ザックス | 魔王の再来…? |
妖精 | 2000年前、魔王が現れて、世界を闇の支配下に置こうとした。 |
| その魔王と戦って倒したのが、『伝説の英雄』だ。 |
ザックス | 『伝説の英雄』の名前がセフィロスじゃないのか?ミッドガル王家の祖先で、だから王家の嫡男は必ずセフィロスと名づけられるんだって聞いたけど。 |
妖精 | そうだ。そして、魔王の名前もセフィロスなんだ。 |
ザックス | 魔王と英雄の名前が同じだなんて、紛らわしいな…。 |
| 紛らわしいって言えば、王様と弟が二人ともセフィロスって名なのも紛らわしいけど。 |
妖精 | ただ単に名前が同じなんじゃない。魔王と英雄は、元々、一つの存在だった。 |
クラウド | 一つの存在…? |
妖精 | セフィロスは古代の言葉ではセフィロトと言って、神性の流出を意味する。 |
| 神性の流出とは、神の顕現の事だ。 |
ザックス | つまり、どういう意味なんだ? |
| 神はそのままでは姿を見る事も、感じる事も出来ない。俺たち妖精は、別だけど。 |
| 神が姿を現す時には、その神性の一部だけを流出させ、人間達にも見える姿になるんだ。 |
ザックス | …要するに、セフィロスは神の一部だって事か? |
妖精 | 正確には違うが、大体そういう事だ。 |
クラウド | その神の一部が、更に魔王と英雄に分かれたって事なのか?でも、どうして神が魔王になんかなるんだ? |
妖精 | 神は完全な存在だからな。当然、闇の属性も、光の属性も持っている。 |
| セフィロスの中の闇の属性が魔王となり、光の属性が英雄になったんだ。 |
クラウド | どうしてそんな事が起きたんだ? |
妖精 | それは判らない。ただ、2000年前に光のセフィロスと闇のセフィロスが戦い、世界は壊滅寸前の状態に陥った。 |
| 何しろ元が同じ存在だから、両者の力は拮抗していたんだ。 |
ザックス | 元が神様の一部なら、持っている力も相当なものなんだろうな…。 |
妖精 | 後に古代種と呼ばれるようになる白魔術師たちが英雄と共に戦い、それでどうにか魔王を封印する事が出来た。ただその時、古代種の殆どは滅ぼされてしまったんだ。 |
| エアリスは、その古代種の知恵を伝承する希少な生き残りの子孫だ。 |
ザックス | すごくヤバイんだって事は判ったけど…。だったら、どうしたら良いんだ? |
妖精 | どう考えても、お前たち普通の人間が太刀打ちできる相手じゃない。 |
| 俺たち妖精の力でも、とても無理だ。 |
ザックス | だけどこのままじゃエアリスが……。どうにかならないのか? |
妖精 | …あの男に頼めば、ひょっとしてどうにか出来るかも知れない…。 |
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【王の寝室】 |
王 | セフィロスはまだ戻らないのか? |
侍医 | 陛下…。どうかもうお休み下さい。 |
王 | こんな時間まで戻らないとは…。まさか国境の森まで行ったのではあるまいな。 |
侍医 | …その可能性はございますな。 |
王 | お前…何かを知っているのか? |
侍医 | 城内の噂ではございますが、弟君はとある魔術師に度々、使者を遣わしておられるとか。その魔術師の住まいが、国境の森の奥にあるそうです。 |
王 | 魔術師だと…?どうしてセフィロスが魔術師などに……。 |
侍医 | 王弟殿下を擁立する一派が黒魔術を使って妖魔を呼び寄せたとの噂もございますが…。 |
王 | ……それはただの下らぬ噂だろう。 |
侍医 | はい。ただの下らぬ噂でございます。 |
| しかしながら、火の無い所に煙は立たぬ…とも申します。 |
王 | ……お前は、セフィロスが私から王位を奪おうとしていると言いたいのか? |
侍医 | 滅相もございません。兄君想いの王弟殿下に限って、そのような事はありますまい。 |
| ですが殿下を擁立する一派は、王弟殿下の即位を強く望んでいるようです。 |
王 | (確かにセフィロスが妖魔を倒せば、セフィロスの即位を望む声は一層、高まるだろう) |
| (セフィロスが私を裏切るとは思えないが、だがもし私に無断で自ら魔術師に会いに行ったのなら……) |
侍医 | まだ弟君をお待ちになられますか? |
王 | ……いや、もう休む。 |
侍医 | それでは、お休みなさいませ。 |
王 | ……。 |
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【宿】 |
ザックス | あの男って? |
妖精 | 前にも話したが、黒魔術と白魔術は互いに相容れない魔術で、一人の魔術師がその両方を使う事は出来ない。強力な妖魔でも、白魔術を使う事は不可能なんだ。 |
クラウド | 妖精はどうなんだ? |
妖精 | 俺達の力は、魔術とは似て非なるものだ。白魔術に似てはいるが、別物だ。 |
ザックス | けど…エアリスは古代種だから、最も優れた白魔術師なんじゃないのか? |
| そのエアリスが何の抵抗も出来ずに、さらわれちまったんだから…。 |
妖精 | 少なくとも、エアリス以上の力を持った魔術師でなければ太刀打ちできないという事になる。 |
クラウド | あの男っていうのが、その力を持った魔術師なのか? |
妖精 | ああ。この世でただ一人、黒魔術と白魔術の両方を使いこなせる魔術師だ。 |
ザックス | だったら、そいつにエアリスを助けてくれるように頼みに行こうぜ。 |
妖精 | 頼みを聞いてくれるかどうかは判らないな…。 |
| 何しろかなりの変わり者で、滅多に自分の館から出ないって話だ。 |
ザックス | でも、そいつしか頼みの綱が無いんじゃ、行くしかないだろう? |
妖精 | …まあ、多少の望みはあるかも知れない。 |
| 何しろ、その男はエアリスの兄だから。 |
ザックス | 兄?だったら当然、助けてくれるんじゃ無いのか? |
妖精 | そこは微妙だな。兄妹とは言っても腹違いで、ガストは昔、そいつの母親を棄てたんだ。それも、二人の間に子供が生まれたばかりだったのに。 |
クラウド | それは酷いな……。 |
ザックス | どうしてそんな事を? |
妖精 | その女は、実は妖魔だったんだ。 |
ザックス | 妖魔…!? |
妖精 | あの男が黒魔術と白魔術の両方を使いこなせるのは、半人半妖だからなんだ。 |
ザックス | エアリスの家族って、何かすごいんだな…。 |
| とにかく、エアリスの兄ちゃんの所へ行こうぜ。 |
妖精 | 力を回復させてからでないと無理だ。何しろ半分は妖魔だからな。そいつの館の周囲は魔物がうようよしている。 |
クラウド | …俺たちに対して友好的とは限らないって事か。 |
ザックス | だったら仕方ない。とりあえず寝て、朝になったら行ってみよう。 |
| ベッドは三つあるし、セフィもここに泊まってけよ。 |
妖精 | 俺は一旦、家に戻る。人間のねぐらなんかじゃ、休んだ気にならない。 |
ザックス | そっか…。じゃ、送ってくぜ。まだ外は暗いから、魔物が出るかも知れない。 |
クラウド | だったら俺も一緒に行こう。でないと、帰りにザックスが一人になってしまう。 |
妖精 | …ザックス一人なら、俺の家に泊めてやっても良い。 |
ザックス | すげえ。妖精の家に泊まるのなんて、初めてだ。 |
| じゃ、クラウド。お前は先に寝てて良いからな。 |
クラウド | …ああ。判った。 |
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【街】<夜> |
妖精 | お前と二人だけで、話がしたかった。 |
ザックス | 実は俺もだ。クラウドの事だろう? |
妖精 | ああ。あの男…何かあるな。 |
ザックス | エアリスもそんな事を言ってた。よく判らないけど、闇の領域に属する事だって。 |
| さっきセフィの話を聞いて、クラウドは妖魔に呪いを掛けられてるんじゃないかと思ったんだけどな。 |
妖精 | だとしても、魔王の再来である妖魔が普通の人間に呪いなんて掛ける筈が無い。 |
| クラウド自身が持っている何かが、魔王に取って重要な意味を持つ筈だ。 |
ザックス | 俺は、妖魔がクラウドを待ってるって言ったのが気になってたんだ。 |
| 魔王の欲しがるような何かをクラウドが持ってるなら、待ってるって言ったのも判るけど。 |
妖精 | お前…クラウドの事を、どの程度、知っているんだ? |
ザックス | 2日前に出会ったばかりだから、殆ど何も知らないって言っても良いな。 |
| 知ってるのはただ、5年前に故郷が焼き討ちにあって、それ以来、仇を追ってずっと旅を続けてるって事くらいだ。 |
妖精 | その犯人が、妖魔セフィロスなのか? |
ザックス | 多分、そうらしい。 |
妖精 | それは妙だな…。魔王の再来ならば、使い魔に与える為に人間の生命を奪う事はあっても、意味も無く放火なんてしない筈だ。 |
ザックス | 妖魔なんだから、放火も殺人もやりたい放題じゃないのか? |
妖精 | それは人間の誤解だ。妖魔は闇の存在だから、闇の秩序に従って行動する。 |
| 人間の価値観とは異なるから人間にはただの非道に思えるだろうが、実は妖魔は秩序を重んじる生き物だ。 |
| それに、闇は悪じゃない。 |
ザックス | どういう事だ? |
妖精 | 闇は死、光は生を司るから、人間は闇を恐れ、闇が悪であるかのように誤解する。 |
| でも、生も死も自然の一部だ。光と闇も。どちらも在るべくして在るのであって、善でも悪でも無い。 |
ザックス | だけど、妖魔は人間の心の闇に付け込んで操ったりするんじゃないのか? |
妖精 | それは、闇を『悪』として捉えた表現だな。 |
| 例えば人間は神を信仰すれば、聖書の教えに従うようになるだろう? |
| 心の闇の部分が妖魔に従おうとするのも、光の部分が神に従おうとするのも実は同じ事なんだ。 |
ザックス | 何となく判る気はするけど…。でも、神は闇と光、両方の属性を持ってるんじゃなかったっけ? |
妖精 | 本物の神はそうだ。 |
ザックス | 本物? |
妖精 | 人間は、本物の神をそのままの姿で感じる事は出来ない。だから自分たちに都合が良いように、偶像としての神を創り上げたんだ。 |
| 闇を恐れ忌み嫌う人間の心が、光を理想化した姿。それが、人間たちの言う『神』だ。 |
ザックス | …何だかお前の話を聞いてると、妖魔が悪くない気がしてきちまう……。 |
妖精 | 言っただろう?妖魔は善でも悪でも無い。 |
ザックス | けど、妖魔や魔物が人を殺すのを放ってはおけない。 |
妖精 | 妖魔が人を殺すのと、洪水で人が死ぬのは同じだからな。 |
| 洪水に備えて堤防を築くように、妖魔と戦おうとするのは間違いじゃない。 |
ザックス | …そうだな。 |
| 話は済んだから、もう帰って良いぞ。 |
ザックス | …は?お前の家に泊めてくれるんじゃ無かったのか? |
妖精 | 人間なんか、家に入れられる訳が無いだろう。 |
| そもそも俺たち妖精は、人間と妖魔に対して中立なんだ。 |
| エアリスは友だちだから協力してるけど、本来なら魔物退治なんて、関わっちゃいけないんだ。 |
ザックス | そうか…。何だか巻き込んだみたいになって悪かったな。俺にもっと力があれば……。 |
妖精 | とにかく、クラウドには気をつけろ。あの男は、とても大きな闇を抱えている。 |
ザックス | ……闇は、悪じゃないんだろう? |
妖精 | 悪ではない。が、死に近しい。 |
| クラウドの闇に巻き込まれれば、生命を失うかも知れない。 |
ザックス | ……。 |