【魔術師の館】 |
王弟 | ……魔物たちが騒いでいるな。 |
魔術師 | あれが判るのか?普通の人間には、気配も感じられないのに。 |
| さすがは魔王の再来だな。覚醒せずに現身のままでも、それだけの力があるとは。 |
王弟 | ……。 |
魔術師 | 使い魔の報告によると、お前の正体が妖魔で、村人を惨殺して回っているという噂が流れているらしい。 |
王弟 | 俺の偽物が現れたのか? |
魔術師 | どうやら噂が流れているだけで、実際に人が殺されている訳では無いようだが…。 |
| それでも、民はひどく怯えているようだ。 |
王弟 | だったら街に戻らなければ。 |
魔術師 | ……まず間違いなく、これはお前を捕らえる為の罠だな。 |
王弟 | 兄上が、俺を捕らえる為にそんな噂を流したと言うのか? |
魔術師 | お前の兄か、或いはお前の同胞の妖魔が…だ。 |
| 私の館は闇にも光にも属さない特殊な空間だ。ここにいれば、誰にもお前の居所は判らない。 |
| だがここから出れば、妖魔はすぐにお前の居場所を突き止めるだろうな。 |
王弟 | …俺を捕らえて殺し、強引に覚醒させようとしているのか? |
| だがそれなら、何故、今まで俺の前に姿を現す事もせず、何年もミッドガルの民を苦しめるような真似を続けていたのだ? |
魔術師 | この国の民を殺したのはお前の覚醒を促す為だろうが…。 |
| 何故、お前の前に姿を現そうとしないのかは、私にも判らない。 |
王弟 | ……姿を現さないのは、現せない理由があるからだろうな。 |
魔術師 | 現せない理由? |
王弟 | それが何であるかが判れば、2000年前のように魔王を封印する事が出来る筈だ。 |
魔術師 | 封印する積りなのか?自分の同胞を? |
王弟 | あの妖魔は俺が護るべき民を殺し続けてきた。赦す事は出来ない。 |
魔術師 | 考え方が完全に人間だな…。 |
王弟 | …何? |
魔術師 | 人間だけでなく、全ての生き物は闇から生まれ、闇に還るのだ。 |
| 死は絶望すべき事でも恐怖すべき事でもなく、輪廻の一環に過ぎない。 |
王弟 | それが妖魔の考え方なのか?だから、いとも容易く人を殺すのか? |
魔術師 | 自分が死ぬ事は恐れるくせに、他の生き物を平然と殺す人間の方が、よほどタチが悪いと思うがな。 |
| お前も妖魔として覚醒すれば、人の生命も虫の生命も同等に思える筈だ。 |
王弟 | ……お前の母親も同じ考えだとは思えないな。 |
魔術師 | 同じだ。母は自由奔放な女だったから、ほんの気まぐれで人間と戯れただけだ。 |
王弟 | …5年前に死んだと言っていたが…。 |
魔術師 | …闇の秩序に背いた罰だ。 |
王弟 | ならば自分が死ぬ事は予想できただろう。それでも人間と深く関わったのが、ただの気まぐれに過ぎないと言うのか? |
魔術師 | 言っただろう?死は絶望すべき事でも恐怖すべき事でもない。ただの輪廻の一環だ。 |
| それに母は2000年も生きたからな。この世に飽きたのだろう。 |
王弟 | 2000年……か。 |
魔術師 | そうだ。私は半人半妖だが、それでも数百年は生きるだろう。殆どの魔物や妖精も同じだ。 |
| 強力な妖魔ならば、もっと長く生きる。 |
| それに比べて、人間はほんの数十年しか生きられない。 |
王弟 | 儚い…な。 |
魔術師 | ああ。お前が護ろうとしているのは、泡沫のように儚い存在だ。 |
| 全力を尽くして護ったところで、どうせすぐに死んでしまう。 |
| お前自身も妖魔として覚醒しなければ、いずれ泡のように儚く消えるだけだ。 |
王弟 | ……現身のままならば、ほんの数十年…か。 |
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【宿】 |
ザックス | 何か新しく判った事があるのか? |
妖精 | 何も…。それに、これ以上は調べる手立ても無い。 |
ザックス | ……可能性は低いかも知れないけど、エアリスの親父さんから直接、話を聞けば―― |
妖精 | そのガストが、ついさっき息を引き取ったんだ。 |
ザックス | そんな…。助けるのは無理でも、せめてエアリスに最期を看取らせてあげたかったのに……。 |
妖精 | ガストに、エアリスに看取られる資格なんか無い。あの男は、イファルナが死んだ時に家に居なかった。 |
ザックス | 急に亡くなったから、間に合わなかったのか? |
妖精 | そうじゃない。倒れてから息を引き取るまで、三ヶ月くらいだった。 |
| その時、エアリスはまだ5歳だったが、自分の死を悟ったイファルナは、古代種の魔術の全てをエアリスに伝授しようとした。 |
| 時間が無かったから、本当はベッドに起き上がるのもやっとだったのに、必死で最後の気力を振り絞って……。 |
ザックス | ……どうして、親父さんは側にいてやらなかったんだ? |
妖精 | それがイファルナの望みだったからだ。僅かな残り時間で全てをエアリスに伝えなければならないから、集中したいのだと言って。 |
| でも本心は、違った。イファルナのやつれぶりは酷くて、まだ若いのに百歳の老婆のようだった。 |
| そんな姿を、夫に見られたく無かったんだろう…。 |
謎の男 | 女心…って奴か。 |
妖精 | でもイファルナが何と言おうが、ガストは側にいてやるべきだった。 |
| あの男はイファルナの望みを叶えたんじゃなくて、自分のせいで妻がそんな悲惨な死に方をするのを見るのが耐えられなかったんだ。 |
ザックス | ……でも、エアリスの親父さんは、話を聞いただけでそんな事になるなんて、知らなかったんじゃないのか? |
妖精 | 知っていた筈だ。ガストは多くの魔術師と接触していたから、彼らの掟やそれを破ればどうなるかを知らなかった筈が無い。 |
クラウド | だったら……どうしてそこまでして、秘密を知ろうとしたんだろう…。 |
妖精 | ジェノバを王家に紹介したのはガストだったんだ。 |
| そのせいで、王家に妖魔の子が誕生してしまった。 |
| ガストは一旦は恐れて逃げたが、その後、何とかして自分の罪を償おうとして研究を続けていたが……。 |
謎の男 | 調べていく内に、相手はとても一介の魔術研究者が太刀打ちできるような存在では無いと思い知った訳か…。 |
| むしろ古代種であるエアリスの方が、ガストの知り得なかった何かを知っているかもな。 |
妖精 | ああ。エアリスならば、イファルナがガストに話さなかった事も聞かされている筈だ。 |
クラウド | …エアリスが5歳の時って、いつなんだ? |
妖精 | 15年前だ。 |
クラウド | だったら…俺がセフィロス王子と会ったのと、同じ年だ…。 |
ザックス | 間違いないのか? |
クラウド | ああ。あの時の事は、今でもはっきりと覚えている。 |
| セフィロス王子は喪服で、兄が即位したばかりだと言っていた。 |
妖精 | この国の先王と王妃が急死したのも15年前だ。 |
| 王は高齢だったが、まだ若い王妃まで、それも二人同時に病に倒れたので、暗殺されたのだともっぱらの噂だったが…。 |
謎の男 | 先王と妃の死に、妖魔が何らかの形で関わっていた可能性はあるな。 |
| もしそうなら15年前の出来事にも、5年前のニブルヘイムでの事件にも、何かきっかけがあった筈だ。 |
妖精 | ジェノバが死んで、ガストが倒れたのも5年前だ。 |
| この国に初めて妖魔が現れたのも、5年くらい、前だったな。 |
ザックス | ニブルヘイムとミッドガルじゃ随分、離れてるのに、共通のきっかけがあるのか? |
妖精 | 地理的な距離は関係ない。 |
謎の男 | どちらかの出来事が、もう一つの出来事の原因となった可能性もある。 |
| 特にジェノバは俺も名を知っているくらいの強力な妖魔だったからな。 |
| その死には、何らかの意味があった筈だ。 |
ザックス | ジェノバを知っているのか? |
謎の男 | 俺の母は黒魔術師だと話しただろう?黒魔術師は、妖魔を呼び出して力を借りる事がよくある。 |
| だからジェノバも―― |
ザックス | ……どうかしたのか? |
謎の男 | 子供の頃、一度だけジェノバと会ったのを思い出した。 |
| 俺もセフィロスという名だと知って、俺に興味を持ったのだと言っていた。 |
クラウド | ジェノバは、セフィロスの名を持つ者がセフィラの継承者だと知っていたんだろうか…。 |
謎の男 | ……あの時、ジェノバは何か大切なものを護っているのだと言っていた。 |
| ジェノバは、セフィラの守護者だったのかも知れない。 |
妖精 | ジェノバは王弟の誕生に関わっていたからな。王弟が継承したセフィラの守護者だった可能性がある。 |
ザックス | 守護者って?継承者とは違うのか? |
妖精 | とても強大な何かを封印する時には、封印が破られないように守護する者がいるのが普通だ。 |
謎の男 | もしそうなら、ジェノバの死によって王弟が継承したセフィラの封印が解かれた事になる。 |
妖精 | 封印は解かれたが、それだけでは覚醒しなかったのか…。 |
謎の男 | だからリユニオンの中核の一つである妖魔は、もう一つの中核である王弟の覚醒を促す為に行動を起こしたんだろう。 |
| まずクラウドを操ってニブルヘイムで惨劇を起こさせ、次にミッドガルで暗躍を始めた…。 |
ザックス | だけどジェノバって妖魔だろう?今の話だと、ジェノバが闇の力の封印に力を貸してたみたいじゃないか。 |
妖精 | 2000年前、魔王セフィロスと戦った者たちは魔王を封印したが、セフィラは魔王が自らの力を封印したものだ。 |
| だから、封印は光と闇、双方から行われている。 |
謎の男 | 古代種は、魔王との戦いに組していたな。 |
| つまり、古代種も魔王の封印に関わったんだ。封印が破られないように守護する者がいるなら、当然、古代種だろう。 |
妖精 | イファルナも守護者だったのか…。じゃあ、イファルナの死が、15年前の出来事を起こさせたのか。 |
| イファルナが守護していた封印が解かれて、クラウドと王弟を引き合わせた…。 |
ザックス | だけど、クラウドは『セフィロスの名を持つ者』じゃ無いぞ? |
| 今までの話だと、クラウドとセフィラがどう繋がるのか判らない。 |
謎の男 | 理由は不明だが、クラウドがリユニオンの成就に不可欠な何かを持っているのはまず間違いないな。 |
| 15年前に王弟に渡すと言った大切な物が、その『何か』なんだろう。 |
妖精 | 先王と妃の死も、その事と繋がっているんだろうな。 |
| 断言は出来ないが、それも妖魔が王弟の覚醒を促そうとしてやった事だろう。 |
謎の男 | 妖魔は何度も王弟を覚醒させようとして行動を起こしたが、上手く行かなかった。 |
| それで強引に覚醒させようとして生命を狙ったが、それも失敗した。 |
妖精 | …どうやら正当な手続きを踏まなければ、リユニオンは成就しないようだな。 |
ザックス | 正当な手続きって…? |
妖精 | それは俺達には判らない。 |
| 最後の鍵を握るのは、お前のようだな、クラウド。 |
クラウド | ……俺、もう一度、北の大空洞に行ってみる。 |
| 自分では自覚が無いけれど、あの場所に行くと、色々な事を思い出すみたいだから。 |
妖精 | だが、あそこは妖魔の強い気が満ちている。 |
| 闇に取り込まれる危険性が高いぞ。 |
クラウド | ……俺は子供の頃からずっと心に闇を抱えていた。そのせいで大切な人たちを傷つけ、喪ってしまった……。 |
| だから俺は闇と戦わなければならないんだ。今度こそ、大切な人たちを護る為に。 |
ザックス | 俺も一緒に行くぜ。 |
妖精 | ……俺は一緒には行けないぞ。 |
| 『均衡の柱』が魔術師セフィロスの手に渡り、王弟セフィロスは行方不明のままだ。今までとは状況が違う。 |
ザックス | セフィとアノニムはあの場所には近づかない方が良いと思う。セフィラを妖魔に取り込まれちまったら、大変な事になるからな。 |
謎の男 | ……仕方ない。では、これを持って行け。 |
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--謎の男、クラウドに金の腕輪を渡す |
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クラウド | これは…? |
謎の男 | それがあれば、魔物の魔術は通用しなくなる。 |
ザックス | すげぇ…。で、俺には? |
謎の男 | 欲張るな。武器屋で何か買え。 |
ザックス | ……ハイ。 |
妖精 | …今のお前たちの実力なら、大空洞の池の中の魔物たちとも戦えるだろうが、泳ぎながらでは無理だろう。 |
| 仕方ない。これを貸してやる。 |
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--妖精、ザックスに水の指輪を渡す |
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妖精 | それがあれば、水中でも陸上と同じように動けるようになる。 |
ザックス | すっげー!さすが妖精! |
妖精 | だが気を抜くなよ?魔物がいなくなる訳じゃないからな。 |
ザックス | 判ってる。 |