【魔術師の館】 |
ジェノバ | せっかく冥界でのんびり暮らしているのだから、こんなに度々、呼び出したりしないでよね。 |
魔術師 | この前は時間が無くて訊きそびれた事があったから…。 |
ジェノバ | どうして私があなたにもセフィロスの名を与えろと、先王に要求したのか…? |
魔術師 | …判っているのなら、教えてくれれば良かっただろう。 |
| 人間の王国になど興味は無い筈なのに、何故だ? |
ジェノバ | 私には興味が無いけれど、あなたにはある筈よ。 |
魔術師 | まさか…。私が人間の国の王位など、欲しがる筈が無いだろう。 |
ジェノバ | この国ではなく、世界の全てよ。 |
魔術師 | 世界の全て…? |
ジェノバ | もし、あなたがそれに興味を持っていないなら、どうして正宗を手に入れたりしたの? |
魔術師 | 私はただ、力が欲しかっただけだ。 |
| そしてそれは単なる楽しみとしての戦いの為であって、この国や世界を手に入れたいなどとは思わない。 |
ジェノバ | 正宗は、単なる妖刀では無いわ。それ以上の意味を持っている。 |
| それに、王弟セフィロスの事が、気になったのでしょう? |
魔術師 | それはただ、私の魔術が通用しない人間などいる筈が無いと思ったからだ。 |
ジェノバ | 魔術が通用しなかったから気になったのでは無いわ。 |
| これは、宿命なの。 |
魔術師 | 宿命…? |
ジェノバ | そう。ミッドガル王家の血筋に、脈々と受け継がれた宿命…。 |
魔術師 | 王家の血筋と言うなら、私には関係無いだろう? |
ジェノバ | 2000年前、2人の兄弟がいたわ。兄は魔術を操る魔術師、弟はそれを研究する学者だった。 |
| 2人はある時、とても大きな力を手に入れた。兄はそれを利用しようとし、弟はその力の余りの強大さを恐れて封印しようとした。 |
魔術師 | …何の話だ? |
ジェノバ | 兄は弟の反対を押し切ってその力を利用してこの国を手に入れ、弟は兄の隙をついてその力の一部を封印した。 |
| 弟は怒った兄に殺されたけれど、その封印は弟の子孫に受け継がれたのよ。 |
魔術師 | …まさかその弟の子孫が……。 |
ジェノバ | …そろそろ時間ね。 |
魔術師 | 待ってくれ。その力とは、一体―― |
ジェノバ | 答えは、あなた自身の中にある。 |
魔術師 | ……。 |
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【山小屋】 |
ザックス | 朝になったけど、クラウドの奴、まだ戻ってないな……。 |
| でもきっと戻って来る筈だから、もう少しだけ待ってくれないか? |
謎の男 | クラウドは何か重要な鍵を握っているようだからな…。 |
ザックス | ところで…あんた随分、妖魔に詳しいんだな。 |
謎の男 | 聞きかじりだがな。殆どは『雪女』に聞いたんだ。 |
ザックス | じゃあまさか、『雪女』って黒魔術師なのか? |
謎の男 | 『白魔術師は善人で、黒魔術師は悪人』…か? |
ザックス | …皆がそうだって言いたい訳じゃ無いけど…。 |
謎の男 | 別に無理をしなくて良い。大概の人間は、皆そう思ってる。 |
| それに、黒魔術師が妖魔に近い存在なのは確かだ。 |
ザックス | 黒魔術は闇の魔術で、白魔術は光の魔術…って事なんだろ? |
| セフィは闇は悪じゃないって言ってたけど、心の闇のせいでクラウドがあんな事になっちまったんだと思うと……。 |
謎の男 | 確かに闇は恐怖や不安、憎悪や嫉妬など、人間にとって悪しき感情を司るが、それが全てじゃない。 |
| 静寂や安寧も、闇に属するんだ。 |
| それに光にも、俺たち人間にとって悪い要素だってある。 |
ザックス | 何だか複雑だな…。俺はもっと単純に、妖魔や魔物は悪い奴らなんだと思ってた。 |
| でもここで出会ったお調子者の魔物たちは、悪い奴には思えなかったし…。 |
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--クラウドが戻って来る |
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ザックス | クラウド……! |
クラウド | ……。 |
謎の男 | …少しは落ち着いたようだな。 |
クラウド | ああ……。5年前にニブルヘイムに火を放ち、村の皆を殺した犯人は、俺だ……。 |
ザックス | ……でも、妖魔に操られてした事なんだから……。 |
謎の男 | 『だから、お前のせいじゃない』とでも言えば、それでクラウドが救われると思うのか? |
ザックス | ……それは……。 |
クラウド | …ザックス。妖魔に操られたにしろ、俺が皆を殺したのは事実なんだ。 |
| それにアノニム。あんたの言った通り、俺は村の皆を怨んでいた…。 |
ザックス | …クラウド…。 |
クラウド | 俺は元々、内気な方で、他の子たちが遊んでいる時に『仲間に入れて』って言い出す事が出来なかった。 |
| それでも小さい頃は幼馴染のティファが声を掛けてくれたから、皆と一緒に遊んでいた。 |
| 4歳の時、俺は不思議な体験をした。 |
ザックス | 不思議な体験…? |
クラウド | ミッドガルの王宮で、セフィロス王子と会ったんだ。 |
ザックス | だけどミッドガルとニブルヘイムじゃ、かなり離れてるんじゃ……。 |
クラウド | 近かったとしても、平民の子供の俺が、王宮に入って王族に会うなんて、出来る訳が無い。 |
| だから俺の話を周囲の誰も信じてくれなかった。母さんは『夢でも見たんだろう』と言い、友だちは俺の事を『嘘つき』だと…。 |
| 俺は嘘つき呼ばわりされたのが悔しくて嘘じゃないって言い張ったけど、言い張れば言い張る程、周りの目は冷たくなった。 |
謎の男 | 大人なら周囲との軋轢を避ける為に口を噤むところだろうが、子供は正直だからな。 |
クラウド | 4歳の俺に取ってそれはとても印象的な出来事で、黙っている事なんて、出来なかった。 |
| そして誰か一人でも俺の言葉を信じてくれる人がいるんじゃないかって期待して、近所の皆にその話をしたせいで、『ちょっとおかしい子』扱いになってしまったんだ。 |
| しかも、一人だけ俺の話を信じてくれたティファまで、他の子達から嘘つき呼ばわりされるようになってしまって……。 |
ザックス | 多分…他の子達は、お前が羨ましかったんじゃないか?田舎に住んでると、王宮を遠くから見るだけでも、すごい事みたいに思えるからな。 |
| 自分たちに経験できない事をお前が経験したって言ったから、妬ましかったんだろう。 |
クラウド | ……元々、内気だったせいもあって、それ以来、俺は孤立した。 |
| ティファは何とか俺を皆の輪に戻そうとしてくれたけど、そのせいでティファまで皆から爪弾きにされそうになると、ティファの父さんが、ティファに近づかないでくれって…。 |
ザックス | ……それって、4歳の時の話なんだよな? |
クラウド | …きっかけはそうだった。だけど俺は、ずっと孤立したままだった。そしてその後も何度か、不思議な体験をした。 |
ザックス | その後も? |
クラウド | 正宗を手に入れる方法を知っていたのは、自分がそれを手に入れる場面を予め見ていたからだ。 |
謎の男 | 一種の予知夢…か。 |
クラウド | そんな体験を何度かする内に、俺は自分が特別な存在なのだと思うようになった。 |
| 多分、そう思い込むことで、誰にも理解されない孤独を紛らわしたかったんだろう…。 |
| だけどそんな不思議な体験は、10歳くらいになると、ぱたりと止んでしまった。 |
謎の男 | 小さい子供の中には妖精が見える者がいるが、大概は成長すると共に見えなくなるな。 |
| それと似たような状況だったんだろう。 |
クラウド | …俺は孤立した状態から抜け出せない上に、自分を特別だと思う根拠も失ってしまった。 |
| それで漠然とした不満が鬱積していって、自分を理解してくれない皆を怨むようになった…。 |
| 母さんはそんな俺を心配して、また皆と一緒に遊びなさいって言ったけど、俺はそうしなかった。 |
| 嘘を吐いたんだと認めなければ、仲間に入れて貰えなかったから…。 |
謎の男 | …お前が鬱屈した少年時代を過ごすようになった状況は大体、判ったが、妖魔に操られて放火したなら、その時に何かきっかけがあった筈だ。 |
クラウド | ……ティファが他の男の子から手紙を貰っていたのを知った時には、裏切られた気持ちになったけど……。 |
| でもそれは5年前じゃない。その1年くらい、前だった。 |
謎の男 | ではきっかけは、何か別の事…か。 |
| ミッドガルに戻ろう。妖精が、答えを見つけたのかも知れない。 |