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(7)



「セフィロスは何処だ…!?」
夜中なのに大声で怒鳴り散らしかねない宝条をアンジールは部屋に入れ、その場で押しとどめた。
「今は眠っているんです。起さない様に、静かにして下さい」
「……一体、セフィロスに何を食わせた?」
その日のメニューを__ワインがあった事も含めて__アンジールは説明した。
「セフィロスに酒を飲ませたのか?」
呆れたように、宝条は言った。
「何てことだ。お前たちは特別だと思って大目に見ていたのが、こんな結果になるとは……」
特別、という言葉が何を意味するのか、アンジールは疑問に思った。
が、せいぜい同じ1stのソルジャーという意味だろうと、深くは気に留めなかった。
良い機会だから言っておくが、と、宝条。
「セフィロスの事は全て私が管理しているんだ。普段の健康管理、口に入れるものだけでなく、全てを」
「…全てを?」
訊き返したたアンジールに、そうだ、と宝条は続けた。
「だからこの私に断り無く勝手にセフィロスを連れ出したり、モノを食わせたりせんでくれ」
宝条の言葉に納得できないものを感じながら、アンジールは宝条をベッドルームに案内した。
宝条は携えたカバンから必要な器具を取り出すと、横たわるセフィロスの呼吸、脈拍、血圧、心音を手馴れた動作でチェックする。
それから注射器を取りだし、2本、注射を打った。
「…とりあえず、これで明日の朝には回復している筈だ」
それだけ言うと、宝条はベッドルームを後にした。

「…セフィロスの容態は…」
「単なる食べすぎと、酒の影響だ」
こんな事もあろうかと、研究室で待機していて良かったと、宝条は言った。
アンジールは宝条の連絡先を知らなかったので、神羅カンパニーの代表電話にかけたのだ。
夜間は警備室につながり、そこから科学技術部門に回して貰った。
そして宝条は電話口で怒鳴り散らし、セフィロスが宝条を嫌うのも無理は無いと、アンジールは思ったのだった。
「しかし…身体が酷く冷たくて……」
「セフィロスはあれで普通だ。ついでに言えば、普段は食が細い。今夜は随分、詰め込んだらしいが」
セフィロスが、普段の食事は宝条がラボで用意するのだと言っていたのを、アンジールは思い出した。
「いつもはソルジャー強化食みたいなものを食べていると、セフィロスは言っていたが…」
フンと、宝条は鼻を鳴らす。
「あれよりはずっとマシだ。少なくとも、食べ物の形をしておる」
「それが美味くないから、セフィロスはいつもは少ししか食わないんじゃないんですか?」

だとしたら何だと、宝条。
アンジールは幾分か躊躇った。
セフィロスは余り自分の事を話さないから、セフィロスに関して、アンジールが知っている事は少ない。
だがそれでも、幾つかの事は判った。
そしてセフィロスの全てを管理しているという宝条の言葉が本当なら、セフィロスが宝条を嫌うのは、単純な理由からなどでは無い。

「__セフィロスが……可哀想だ」
「セフィロスを、憐れむ気か?」
「憐れみじゃない」
ただ、と、アンジールは続けた。
「セフィロスは任務以外で本社ビルの外に出た事は無いと言っていた。今回が、初めてだ。以前、部屋にTVもないと言っていた。情報を遮断されているんだ。知識は酷く偏っていて、当たり前の事を何も知らなかったりする」
「ソルジャーとして必要な知識は、全て与えてある」
「だが、人間としては?」
そう、アンジールは言った。
「セフィロスは自分がいつ、どこで生まれたのかも知らないと言っていた。両親の名も。そんな__」
「ジェノバ」
アンジールの言葉を遮って、宝条は言った。
「父親の名は知らんだろうが、母親の名はジェノバだ。セフィロスを産んですぐに亡くなったと、聞かされている筈だ」
「……聞かされている……?」
「話したのは、私じゃない__余計な知識だ」
嫌、と、宝条は続ける。
「母親の名だけは、確かに知っておくべきだったな…」
「……どういう意味です?」
アンジールの問いに、宝条は答えなかった。
代わりに、今日はラボに泊まるから、何かあったら連絡しろと言い置いて、アンジールの部屋を去った。



その夜、アンジールはソファに寝て、翌朝目覚めるとすぐにセフィロスの様子を見に行った。
まだ眠っていたので暫く寝かせておこうと踵を返しかけた時、セフィロスが目を覚ます。
「……ここは…?」
天井を見上げ、不審そうにセフィロスは訊いた。
「俺の家だ。昨夜、晩飯を食いに来て具合が悪くなって、そのまま泊まったんだ」
覚えているか?とアンジールが訊くと、そうだったな、とセフィロス。
「これはお前のベッドか。お前はどこで寝たんだ?」
「ソファで」
「…そうか。悪い事をしたな」
気にするな、とアンジールは笑った。
「それより、もう大丈夫なのか?水でも持って来ようか?」
「もう、大丈夫__」
ベッドに上体を起こしながら言い、途中で、セフィロスは口を噤んだ。
左腕に幽かな違和感を覚え、ボタンを外したままの袖を捲り上げる。
昨夜、宝条が注射をした跡に、脱脂綿がテープで止めてあった。
「…これは何だ?」
「……済まない」
セフィロスに、アンジールは謝った。
「宝条博士には連絡しないでくれと言われていたが、あんまりお前の身体が冷たくて心配だったから……」
アンジールの言葉に、セフィロスは相手を見た。
背筋がぞくりとするのを、アンジールは覚えた。
魔晄と同じ、だがそれよりも遥かに冷たい色をした瞳が、射るような鋭さでこちらを見据えている。
「お前は、連絡しないと約束した筈だ」
「その通りなんだが、それでも__」
「俺を、裏切ったのか?」

唖然として、アンジールはセフィロスを見つめ返した。
確かに、宝条に知らせないと約束はした。
だがセフィロスは体調が悪く、宝条はセフィロスの医療担当なのだ。
その宝条に連絡した事で『裏切り』などという罵りを受けるとは、思ってもいなかった。

「…お前が宝条博士を嫌う気持ちも判るが__」
「宝条なんか、どうでも良い」
アンジールの言葉を遮って、セフィロスは言った。
「お前は俺との約束を破り、俺を裏切った__それが、赦せない」
「……セフィロス……」
帰る、と短く言って、セフィロスはベッドルームを出た。
「セフィロス…!」
アンジールがセフィロスを追おうとした時、玄関のチャイムが鳴り、すぐに合鍵でドアが開けられた。
ジェネシスだ。
「セフィロス。もう大丈夫__」
ジェネシスの言葉も無視して、セフィロスはそのまま外に出る。
「どうしたんだ。何があった?」
「詳しくは後で話すから、本社の自宅まで送ってやってくれないか?」
あいつは多分、一人じゃタクシーの乗り方も判らない__アンジールの言葉に、判ったと言って、ジェネシスはセフィロスの後を追った。






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