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(3)



週末。
6時になるとアンジールとジェネシスはすぐにソルジャー控え室のロッカーで着替え、買い物に出かけた。
ジェネシスは、セフィロスにも話した評判のパン屋に行ってバゲットを、そして酒屋でワインを買って本社ビルに戻る。
アンジールは夕食材料を仕入れ、そのまま自宅に向かった。
約束した7時少し前に執務室に行くと、当直のタークスはJJだった。
「こんな時間にどうした、赤毛。セフィロスならもう、帰るとこだぞ」
「俺は赤毛じゃない。赤味がかったブルネット__じゃなくて、ジェネシス・ラプソードスだ」
JJは、幽かに眉を顰めた。
「まさかセフィロスが時間が過ぎても中々部屋に戻らないのは、お前のせいじゃねぇだろうな。お陰でオレも帰れなくて困ってるんだぜ?」
「すぐに帰らせてやる。7時にセフィロスと約束をしているんだ」
「だから、お前らがここにいたんじゃ__ってまさか、セフィロスを外に連れ出す気か?」

その通りだと、ジェネシスは答えた。
そして、セフィロスを外に連れ出すのは思っていた以上に大事だったのだと、改めて認識する。

部屋に入ろうとしたジェネシスを、JJは止めた。
「お前、女はとっかえひっかえってタイプだろ」
「……だとしたら何だ?」
幾分かむっとして、ジェネシスは訊き返した。
前にオレが言ったこと覚えてるか?とJJ。
「…『セフィロスの友人になる積りなら、覚悟を決めておけ』、か?」
「その覚悟、出来てんのか?」
「どういう意味だ」
JJは、すぐには答えなかった。
黙って、ジェネシスの顔を見つめる。
それから、口を開いた。
「あいつの友人になる積りなら、一生、付き合う覚悟でいろって事だ」
「当然、そのつもりだ」
言って、ジェネシスは奥のドアをノックした。

執務室では、セフィロスがいつもの戦闘服のまま、ライティング・デスクの向こうに座っていた。
「迎えに来たぞ。まだ着替えてなかったのか?」
極上の笑みを見せて__大概の女は、これで落とせる__ジェネシスは言ったが、セフィロスは憂鬱そうに眉を曇らせた。
「どうしたんだ。何か問題でも?」
「…俺が自分の部屋に戻ると、タークスがここの戸締りをする事になっている」
何の話だろうと思いながら、ジェネシスはそれで?と、続きを促した。
「外から鍵をかけるんだ。そうなると、中からは開けられなくなるのを忘れていた」
「…それがどうして問題なんだ?タークスと一緒に部屋の外に出れば良いじゃないか」
「そうなると、俺が今日、外出するのがタークスに知られるだろう?」

知られるとまずかったのか、と、ジェネシスは肝を冷やした。
もう既に、JJに話してしまってある。

「タークスが知ったら、宝条に報告するだろうな。そうなったら、宝条が何て言うか……」
ライティング・デスクに肘を付き、手の平に細い顎を乗せて、セフィロスは幽かに溜息を吐く。
まるで、悪戯が見つかって、どうやって取り繕うか悩んでいる子供のようだとジェネシスは思った。
「プレジデントに直通電話をかけて神羅三軍の元帥を呼びつけるあんたが、宝条博士には妙に気を使うんだな」
軽く笑って、ジェネシスは言った。
セフィロスは、むっとしたようにジェネシスを見る。
「気を使ってる訳じゃない。お前はあの男の口煩さを知らないんだ」
「判った。謝る__にしても、どうして宝条博士なんだ?あの人は確か、あんたの医療面での担当だろう。外出するのに、医療担当の許可がいるのか?」
「許可なんか、要るものか。ただ__」
途中で、セフィロスは一旦、口を噤んだ。
それから、続ける。
「…お前たちは特別だから付き合っても構わないと言っていた。だから、問題ない筈だ」
セフィロスの言葉に、口元が緩むのをジェネシスは感じた。
どうして宝条が自分たちを『特別』だと言ったのかは判らないが、科学技術部門統括からお墨付きを得られて、嬉しくないと言えば嘘になる。
「着替えてくる」
言って、セフィロスは席を立ち、踵を返した。
そして、部屋の奥のエレベータに乗り込んだ。

ほどなく現われたセフィロスは、黒いシャツのボタンをいくつか外してラフに着て、やや細身の黒のスラックスを身に着けていた。
上下黒なのでいつもと余り違わないと言えば違わないが、肩当てが無い分、荒々しさが取れてシャープな印象だ。
部屋に戻るのに専用エレベータを使ったと言う事は、あれはセフィロスの私室に通じているのだと、ジェネシスは思った。
定期健診の時も使っていたから、もう一箇所は宝条のラボという事になるのだろう。

控えの間に行くと、JJがセフィロスの姿を見て肩を竦めた。
「本当に外に行く気なんだな__宝条のオヤジには、連絡したのか?」
「俺にそんな義務は無い。お前が報告したいなら、勝手にしろ」
セフィロス、と、相手の行く手を遮ってJJは言った。
「オレはお前から言ったほうが角が立たないだろうと思って、まだ言わずにいてやってんだぞ?」
JJの言葉にセフィロスは不満そうな表情を見せたが、デスクから電話の受話器を取り上げると、ボタンをプッシュした。
「今からアンジールの家に夕食を食べに行く。終わったら帰る」
それだけ言うと、いきなり電話を切った。
すぐに執務室で電話が鳴り始めたが、無視して部屋から出る。
「…ったく。オレは知らんぞ」
ぼやいてJJは執務室の灯りを消し、外からドアの鍵をかけた。
「これは渡しておくぜ。戻ってくる積りなんだろう?」
言って、JJは執務室の鍵をセフィロスに渡す。

奇妙な話だと、ジェネシスは思った。
執務室内のエレベータはセフィロスの私室と宝条のラボには通じているが、1階のエントランスには通じていないらしい。
61階に来るのに使った高層階専用エレベータにも、67階の階床ボタンは無かった。
つまり執務室を通らなければ、セフィロスは自室に戻ることも、ビルの外に出る事も出来ない。
そしてその執務室の控えの間には、タークスが『護衛』として張り付いている。
それに執務室に外から鍵をかけると、中からは開けられなくなるとセフィロスは言っていた。
これではまるで、軟禁されているかのようだ。

まさか、と、ジェネシスはその考えを打ち消した。
セフィロスは任務以外で本社ビルの外に出た事は無いと言っていたが、出るのを禁じられている訳では無い。
ただ、今まで出ようとしなかっただけだ。
セフィロスは、6年も前から英雄として勇名をはせているし、そうでなくとも目立つ存在だ。
だからセフィロスが外に出たがらないのは、人々の好奇な視線に晒されるのが嫌なだけなのだろう。
歩いても行ける距離だが、タクシーを使おうと、ジェネシスは思った。






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