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「そろそろ打開策を講じるべきだ」
その日、アンジールの部屋__ソルジャーの寮を出て、本社ビルから近い場所に部屋を借りていた__を訪れたジェネシスは、開口一番にそう言った。
「…セフィロスの事か?」
ジェネシスが話題にするのは殆どそればかりなので、そう、アンジールは訊いた。
当然だ、と、ジェネシス。
「俺たちが最初にセフィロスに会って任務に同行してからちょうど一年だぞ?3ヶ月後に次の任務に同行。その10週間後に初めてセフィロスの執務室に行って、それからは度々セフィロスの執務室を訪問するようになってはいるが、何も進展していない」
「進展?」
鸚鵡返しに、アンジールは訊いた。
「そうだ。進展だ。俺たちはセフィロスの執務室で何をしている?チェスやらカードゲームやらでセフィロスの暇潰しの相手をしてはいるが、それだけだ」
「それ以上の何を、お前は求めているんだ?」
じゃが芋を切りながら、アンジールは訊いた。
隣ではジェネシスが人参の皮むきを手伝っているのだが、さっきから手が止まっている。
「俺はセフィロスの理解者になるんだ」
むっとしたように、ジェネシスは言った。
「お前だってセフィロスの友人になりたいと言っただろう。ただ一緒にポーカーをやって当たり障りの無い任務の話をするだけじゃ、俺たちとセフィロスの間の溝は、少しも埋まらない」
「そうは言ってもな……」

暇を持て余しているセフィロスと違って、アンジールとジェネシスはたびたびウータイ遠征に狩り出され、モンスター退治の任務も命じられる。
夜はセフィロスも自宅に帰ってしまうし、任地に赴かない時でも勤務時間中はソルジャー控え室で待機していなければならないので、アンジールとジェネシスが揃って休みで、なおかつセフィロスが休みでない日の昼間にしか、セフィロスを訪問する事が出来ない。
そうなるとセフィロスの執務室を訪れるのもせいぜい月に2,3度。
セフィロスの任務に同行したのは、この1年で全部で5回だ。
他のソルジャーが聞けば羨ましがるが、この程度しか会わないのでは__しかもセフィロスは執務室ではゲームに熱中して余り話さないし、任務の時は他のソルジャーや神羅兵がいるせいか寡黙になる__親交を深めるにしても限界がある。
その上、セフィロスにプライベートな質問をするのはタブーだと、ソルジャー統括に念を押されてもいる。

「おい。手が止まっているぞ」
人参と皮むきを持ったままのジェネシスに、アンジールは言った。
「今はシチューよりセフィロスの方が重要だろう」
「だったら腹が減ったとか、文句を言うなよ?」
アンジールの言葉に、ジェネシスは口を噤んだ。
そして、大人しく人参の皮を剥き始める。
ジェネシスは殆ど外食かデリバリーを利用しているが、アンジールは節約の為もあって、時間の許す限り自炊するようにしている。
母親のジリアンに教わったと言う料理はいわゆる家庭の味で、プロのシェフが作る料理のような華やかさは無いが、アンジールを慕って部屋に遊びに来るソルジャー達には人気があった。
他ならぬジェネシスもアンジールの料理に目が無い一人で、時間の空いた夜などこうしてアンジールの部屋に寄って夕食を食べてゆく事が少なくない。

「なあ。今度セフィロスを、食事に誘わないか?」
皮を剥いた人参をアンジールに手渡し、ジェネシスは言った。
「どこかに食いに行くのか?」
「そうじゃない。ここに呼んで、お前の手料理を振舞うんだ」
俺の?と、アンジールは訊き返した。
「あのセフィロスが、そんなものを食いたがるかな…」
「俺はミッドガルに来てから色々食べ歩きをしたが、お前の料理が一番だと思う」
ジェネシスの言葉に、アンジールは軽く笑った。
「それはお前もバノーラ出身の田舎者で、見た目ほど垢抜けて無いからじゃないか?」
「たまに誉めたのに、そういう事を言うのか、お前は」
むっとしたジェネシスに、すまん、と、アンジール。
「だがあの執務室の造りからして、普段から豪華なものを食べてそうだがな」
「だからこそだ。豪華な食事を食べ慣れていれば、お前の田舎風の料理が却って新鮮に思えるだろう」
「しかし…ここに呼ぶのか?」
言って、アンジールは部屋を見回した。
アンジールの住まいはこじんまりした1LDKだ。
本人はワンルームでも充分だと思っていたが、アンジールが引っ越すなら遊びに行くと言うソルジャー達が少なく無いので、皆で集まれるようにリビングのある部屋にしたのだ。
それに自炊をしたかったので、ちゃんとしたキッチンが欲しかったというのもある。

「お前が引っ越したらセフィロスを呼ぼうと、俺は前から考えていた」
「何で俺の家に。って言うか、お前まさかその為に俺に引っ越せとしつこく勧めた訳じゃないだろうな」
アンジールがソルジャーの寮を出たのは、バスターソードの支払いが終わったからもう沢山の仕送りはいらない、もっと自分の為に使いなさいとジリアンに手紙で言われたのと、ジェネシスに熱心に引越しを勧められたのが大きな理由になっている。
「お前の家の方が会社に近いし。何より落ち着く」
「…そうか?」
そう、アンジールは訊き返した。
ジェネシスの住まいはアンジールのそれの2倍は広く、クラシカルな家具調度で設えられてある。
考えてみれば自分がジェネシスの部屋に行ったのは1回きりで、後はジェネシスの方が自分の所に来ていたなと、アンジールは思った。
ジェネシスの部屋は言うならば高級ホテルのようにきちんとしていて豪華で、高級ホテルのようにどこか取り澄ました雰囲気があるのだ。
自分の家が落ち着くのかどうかは判らないが、遊びに来たソルジャーたちが大概、長居をするのは確かだ。

「そうと決まれば、早速、今度の週末にでもセフィロスを誘おう。俺たち2人とも休み前だから、都合が良い」
「…いつ、決まったんだ?」
「セフィロスを誘う算段は、俺が考える。お前はメニューを考えておいてくれ。材料はケチるなよ?材料費は俺が持つから」
勝手に話を進めるジェネシスに、アンジールは軽く肩を竦めた。






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