ニブルヘイム便り7
(1)
「おかわり行くか、セフィロス?まだあるぞ」
「ああ、もらおう」
今日も平和な神羅屋敷。
その日の昼食メニューはチキンのクリーム煮だ。
「オレもオレも〜。オレもおかわり♪」
「ザックス・・・。お前それ、4杯目だぞ」
「だってアンジールの作るクリーム煮って、すっげー美味いんだもんv」
満面の笑みのザックスにつられるように、アンジールも笑った。
誉められれば、悪い気はしない。
対照的に不機嫌そうなのはジェネシスだ。
「馬鹿犬はどうでも良いが…。セフィロス、そんなに食べて大丈夫なのか?」
「もう、子供の身体じゃないから大丈夫だと思う」
ジェネシスの問いに、おっとりとセフィロスは答えた。
セフィロスが子供の頃から側にいてやりたかったというジェノバの望みを叶える為に、セフィロスは暫くの間、少年の姿に擬態していた。
再びジェノバの望みで元の姿に戻ったのが、二ヶ月くらい前の話だ。
セフィロスが少年の姿に擬態している間、ジェネシスがセフィロスに恋をして何かと騒動続きだったが、やっと落ち着いて元の生活に戻った事を、アンジールは心の底から喜んでいた。
「そうじゃなくて、鶏のもも肉はささ身の2倍のカロリーがあるんだぞ?それにクリーム煮だってかなりの__」
「食った分は運動して消費すれば良いだろう?何より、セフィロスは子供の姿だった時に殆ど食ってなかったからな。食える時にちゃんと食って、栄養をつけないと」
ジェネシスの言葉を遮って、アンジールが言った。
少年の姿の時、セフィロスは余りものが食べられず、かなり少食だった。
それでアンジールは、セフィロスがきちんと栄養を摂れているのか、ずっと心配していたのだ。
なので元の姿に戻ったセフィロスが旺盛な食欲を見せるのを、誰よりも喜んでいた。
「…俺の英雄がメタボになった姿を見るくらいなら、死んだほうがマシだ…」
おかわりしたクリーム煮を口に運ぶセフィロスを見つめ、ジェネシスは言った。
セフィロスが元の姿に戻り、ジェネシスのセフィロスに対する恋愛感情は憑き物が落ちるように消え失せたが、少年の頃からの憧れの気持ちはずっと残っているのだ。
「それに、あんたは元々そんなに食べる方じゃ無かっただろう?少年の姿になる前だってそんなに食べてなかったのに、一体、どうしてしまったんだ?」
「どうしたと言われても…」
ジェネシスに問われ、セフィロスは幾分、困惑したように相手を見た。
「セフィ、気にする事ないって。アンジールの料理はすっごく美味いから、たくさん食いたくなるのは当然の事だぜ?」
ザックスの言葉に、「そうか?」とセフィロス。
ザックスは4杯目のクリーム煮を頬張りながら、笑って頷く。
「せっかくこんなに美味いのに、カロリーがどうこう文句言って碌に食わないヤツの気が知れ無いぜ」
「…俺は別に文句を言っている訳では__」
途中で、ジェネシスは言葉を切った。
セフィロスがスプーンを取り落とし、口元を押さえたからだ。
「セフィロス?どうし__」
何も言わず、セフィロスはそのまま席を立ってダイニングから走り出た。
その後を、すぐにジェノバが追う。
「……急にどうしたんだ」
「お前があんなに食べさせるからだ」
心配そうにセフィロスの出て行った扉を見遣るアンジールに、幾分か怒ったようにジェネシスが言った。
「昔、初めてお前の手料理をセフィロスに振舞った時も、食べすぎで具合が悪くなったじゃないか」
「あれはお前が飲ませたワインのせいだろう?」
「…なんか今のって、つわりみたいだ」
言い合うジェネシスとアンジールの傍らで、ぼそりとザックスが言った。
その言葉に、ジェネシスが凍りつく。
対照的に、アンジールは笑った。
「つわりな訳がないだろう。セフィロスは男だぞ?」
「……まさか…あの夜……か?」
「__え?」
蒼褪めて呟くジェネシスに、アンジールが訊き返す。
ザックスも、いつになく真剣な表情だ。
「最近、妙にたくさん食べるのも、そのせいじゃ……」
「ちょっ…と待て、ザックス。そのせいって__」
アンジールの言葉は途中で遮られた。
テーブルをひっくり返さんばかりの勢いで、ジェネシスとザックスが同時に剣を抜いたからだ。
「やはり貴様、あの時、セフィロスに…!」
「よくもセフィに手を出しやがったな、この馬鹿リンゴ野郎…!」
「今日と言う今日は絶対に許せん!!その小汚い首を斬りおとしてやる…!」
「今日という今日は絶対に許せねぇ!!その邪魔な羽根ごと叩き斬ってやる…!」
「ジェネシス!ザックス!やめ__ぐああぁぁぁぁぁっ!!」
2時間後。
「……で、何があったんだ?」
例によって例の如くジェネシスとザックスが大喧嘩になり、それを止めようとしたアンジールが顔面ファイガを喰らい、それでも止めずに乱闘を続けたジェネシスとザックスだったが、さすがに2時間も戦い続けたせいで激しく疲労し、ようやく大人しくなった。
「…話をする前にその馬鹿犬を始末させろ」
「それはこっちのセリフだ、馬鹿リンゴ野郎」
「いい加減にしてくれ。これ以上、騒ぐとまたジェノバを怒らせることになるぞ?」
2人を宥め、それからアンジールは改めて何があったのかと問うた。
「……2ヶ月前、セフィロスとその馬鹿犬の3人で出かけた時の事だ」
むすっとした表情のまま、ジェネシスが語り始めた。
2ヶ月前、クラウドがエアリスに頼まれてザックスの着替えなどを持ってこの屋敷を訪ねて来た。
その時、クラウドが屋敷から急に飛び出してモンスター達を驚かせてしまい、モンスター達がクラウドを攻撃。止めようとしたアンジールも含めてモンスターたちと乱戦状態になった。
炊事係がそんな状態なので、ジェネシス、セフィロス、ザックスの3人は昼食を食べようと外出したが(誰もアンジール達を助けようとしなかったのは、モンスターとじゃれているのだと思ったから)、お忍びで外出する時の常で、セフィロスはチャイナドレス姿の美女に擬態していた。
久しぶりの外出だったのでセフィロスもジェネシスもテンション高めで(ザックスは常にテンションMAX)、せっかくなので買い物をして夕食も外で食べてから帰ろうという事になった。
「ああ、あの時か。夕飯も外で食ってから帰るってメールを寄越したきり、次の日の昼すぎまで帰って来なかったから心配したぞ」
その時の事を思い出し、眉を顰めてアンジールは言った。
「電話しても通じないし、ジェノバがセフィロスを探しに行こうとして、宥めるのに俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ?」
「…蒸し返して小言を言うのは止めてくれ。あの時、4時間も説教しただろうが」
不満そうな表情で、ぼそりとジェネシスが言った。
その傍らで、ザックスも頷く。
ちなみに、ジェノバが側を離れなかった為に、セフィロスはアンジールの説教を免れている。
とは言っても、セフィロスはセフィロスで、ジェノバから叱られたらしい。
「あの夜は夕飯の後、バーに行って、お前たち2人が飲み比べなんかして酔い潰れたんだったな」
「そうだ。その馬鹿犬が生意気にもこの俺を挑発したのが悪い」
アンジールの問いに、ジェネシスが憎々しげにザックスを睨む。
「あんたがセフィの前で良いトコ見せようとして、勝手に盛り上がっただけダロ?」
「そういう貴様こそ、擬態したセフィロスの美貌にのぼせ上がって__」
「いい加減にしないか、二人とも」
ジェネシスの言葉を遮って、アンジールは2人を窘めた。
「それで2人とも意識を失くす位に酔い潰れて、セフィロスも結構、酔っていたから帰って来れなくなってホテルに泊まったって話はあの時、聞いたが…」
途中で、アンジールは言葉を切った。
そして、眉間に縦皺を寄せる。
「もしかして…3人、一緒の部屋だったのか?」
「そう。FF7では宿屋は3人部屋っていうのが定番だし」
ただ、と、ザックスは続ける。
「定番の3人部屋じゃなくて、ダブルベッド一つだったんだよね…」
「つまり…3人で一緒のベッドだったのか。まさかとは思うが__」
途中で一旦言葉を切ってから、アンジールは続けた。
「セフィロスは…ずっと擬態した姿のままだったの…か?」
「そうだ」と、ジェネシス。
「翌日、目覚めた時にも、女性に擬態したままだった。しかも…一糸まとわぬ姿で……」
ジェネシスの言葉に、アンジールは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
セフィロスの擬態した女性がいかに美しいか、今まで何度か見て知っているのだ。
「…じゃあ…まさか、お前たち……」
「セフィロスを酔い潰して手篭めにするとは…許せんぞ、この狂犬が……!!」
「オレンジジュースだと思わせてカクテル飲ませるなんて卑怯だぞ、この変態馬鹿リンゴ……!!」
「……嘘だろ……?」
再び乱闘を始めたジェネシスとザックスの傍らで、呆然とアンジールは呟いた。
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