ニブルヘイム便り5

(2)



程なくジェネシスが自室からACのDVDを持って現れ、セフィロス、ジェノバ、アンジール、ザックスの4人と共にぞろぞろとキッチンからリビングに移動した。
その間中、セフィロスとジェノバは声も無く楽しそうに『会話』し、ザックスはそれをニコニコしながら『聞いて』いる。
『会話』の内容が判らないだけに、ジェネシスは一層、不機嫌だ。
むすっとした表情のまま、ジェネシスはDVDをセットした。
メニュー画面から、セフィロスの登場するチャプターを選択する。
『久しぶりだな…クラウド』
再生されたセフィロスの声に、ジェノバはTVに視線を向けた。
いつの間にか集まったモンスター達も、興味深そうにTVを見ている。
セフィロスが暗雲を呼び寄せ、クラウドとの戦いが始まると、モンスター達の間にどよめきのような低いうなり声が漏れた。
ジェノバもわずかに眼を細め、画面に見入っている。
「今のセフィ、かーわいー♪」
相変わらず、アンジールには理解しがたい感覚でザックスが言った。
そのザックスのおちゃらけぶりとは裏腹に、モンスター達の間に緊張が漂うのを、アンジールは感じた。

彼らにしてみれば、ジェノバもセフィロスも等しく主(あるじ)なのだろう。
そしてその主の戦う相手は、当然、彼らの敵となる。
次にクラウドがこの神羅屋敷に遊びに来た時に、もしもモンスター達がクラウドを敵と看做したら……?
一抹の不安が、アンジールの心中を過ぎる。
モンスター達はジェノバとセフィロスには絶対服従だが、常に彼らの眼の届く所にいる訳では無い。
それに、セフィロスはとも角、ジェノバもクラウドを敵と看做すかも知れない。
と言うか、セフィロスもスイッチが入ってしまうと平気でクラウドを切り刻み兼ねないが。

アンジールは、改めて画面の中の戦闘を見やった。
セフィロスが優位に戦いを進めている内は良いが、セフィロスがクラウドに倒される姿をジェノバやモンスター達に見せるのはマズイ__
「今のシーンだ」
アンジールがリモコンに手を伸ばそうとした時、いち早くそれを手にしてジェネシスが言った。
「判っただろう?」
「え?__あ…いや……」
「アンジール。まさかちゃんと見ていなかったのか?」
口ごもるアンジールに、咎めるような口調でジェネシスが言った。
「仕方の無いやつだな。もう1回だけ、見せるぞ?」
「あ…ああ、すまん……」

何で俺が謝ってるんだ?__疑問に思いながら、ジェネシスの剣幕に押される形で、アンジールは詫びた。
ジェネシスはリモコンを操作し、もう一度、再生する。
何度も謗(そし)られたくないので、アンジールは仕方なく画面に注目した。
セフィロスが何故か右手に正宗を持ち、それを左手に持ち替えてクラウドに挑みかかろうとした所で、ジェネシスは一時停止ボタンを押した。

「今度こそ、判っただろう?」
「……いいや」
ACCで差し替えられたたシーンであるのは判ったが、ジェネシスが騒ぐほど貴重だとは、とても思えない。
ジェネシスは、心底、呆れたと言わんばかりの表情で、深く溜息を吐いた。
「…お前が美術芸術方面に疎いのは知っているが、それにしてもあのシーンの貴重さが判らないとは、酷すぎだぞ、相棒?」
「そう、言われてもだな……」
てか、何でここで急に美術だの芸術だのの単語が出てくる?
疑問に思ったアンジールの脳裏に、『セフィロスは存在そのものが芸術で、特に戦う姿は至高の美以外の何ものでもない』というジェネシスの言葉が蘇った。
ソルジャーになったばかりの頃、そう言ってジェネシスがセフィロスに心酔していたのを、まだはっきり覚えている。
確かにセフィロスの身のこなしはとても軽く、2メートルもあろうかと思われる長身と相応のウエイトが信じられない位だ。
白銀の髪を靡かせて戦う姿は、動きに無駄が無くしなやかで優雅と言っても良いくらいで、ザックスがセフィロスを猫になぞらえるのも理解できなくは無い。
元々、セフィロスに憧れてソルジャーになったジェネシスが、それを芸術と呼ぶのも判る。
が、それは特にこのシーンに限ったことではあるまい。
むしろ、今、ジェネシスがリプレイした場面では、ただ剣を持ち替えただけだ。

「……やはり、俺には判らん」
なあ、セフィロス、と、アンジールはセフィロスに助け舟を求めた。
「今のシーン、何か特別な点があるのか?」
「…何が?」
アンジールの問いに、セフィロスは逆に聞き返した。
「いやだから、今のシーンなんだが」
「どの?」
「……もしかして、見ていなかったのか?」
「ああ」
あっさりと、セフィロスは言った。
「…自分が出ているDVDとか、興味ないのか?」
「無い」

再びきっぱりと、セフィロス。
何となく拍子抜けするのを感じながら、そうは言っても余り熱心になられてACCの撮影中のようにドSモードになられても困るので、これで良かったのだと思いながら、アンジールはジェネシスに向き直った。

「なあ、ジェネシス。セフィロス本人がこう言っている位なんだから__」
「仕方ない。もう1度だけ、見せてやるから、今度こそちゃんと見ろよ?」
アンジールの言葉を遮って、ジェネシスが言った。
昔からこいつは人の話を聞かなかったな……
内心で、アンジールは溜息を吐いた。
何を言っても無駄そうなので、仕方なく再びTVに向き直る。
ジェネシスがDVDをわずかに巻き戻し、もう一度、同じシーンが再生された。
何度見ても、セフィロスが右手から左手に正宗を持ち替えているだけだ。
「……すまん、ジェネシス。やはり俺には__」
「判ったー。これって『B地区チラ見せシーン』だ!」
アンジールの言葉を遮り、とてつもなく明るくザックスが言った。







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