ニブルヘイム便り4

(2)



「その安易な発想が愚かだと言うんだ、駄犬」
言ったのは、ちょうどダイニングに現れたジェネシスだ。
お茶の用意が出来たのでセフィロスを部屋に呼びに行き、セフィロスとジェノバと共に2階から降りて来たのだ。
ジェノバは初めはセフィロスのガウンを着ていたが、今ではパール・グレイのドレスを身に纏っている。
買って来たのはジェネシスだ。
言うまでも無く、少しでもジェノバと親しくなって、ジェノバの『言葉』を理解できるようになりたいからなのだが、余り__と言うか全く__功を奏していない。

それはとも角、髪と同じ色のドレスは、ジェノバに良く似合っている。
一方のセフィロスは洗いざらしのコットン・シャツにシンプルなスラックスというラフな__と言っても、既製品はサイズが合わないので全てオーダーメイドだ__格好だが、そのシンプルさは均整の取れた長身と、非の打ち所の無い美貌を却って際立たせている。
セフィロスに寄り添うジェノバはどちらかと言うと小柄で体つきも華奢だが、女神のような風格がある。
一緒に暮らし始めて数週間経つが、いつ見ても美しい母子だと、アンジールは思った。
初めの頃こそジェノバのこの世の者ならざる雰囲気に威圧感を覚えていたが、今はもう、そんな風に感じる事も無い。

「何でダメなのさ。せっかく羽根があるんだから、飛べば良いじゃん」
「俺とアンジールは神羅から抹殺命令を出された身だぞ」
「それは今、アンジールから聞いた」
「それなのに事態の深刻さが理解できないのか。やはり貴様は犬畜生だな」
そしていつ顔を合わせても、険悪になるジェネシスとザックス。
頼むからいい加減にしてくれと、内心でアンジールは思った。
「なあなあ。セフィも飛べるんだよな?」
ジェネシスを無視して、わくわくした表情でザックスはセフィロスに訊いた。
「ああ。飛べる」
「スゲー。オレ、それ見たい」
「……ザックス……」
ザックスの言葉に、青くなってクラウドは相手のシャツの裾を引っ張った。
「ん?どしたクラウド。お前もセフィが飛ぶの、見たいよな?」
ぶんぶんと、激しく首を横に振るクラウド。
「何で?絶対に可愛いと思うんだケドな」
真っ青になって、ぶんぶんと、更に激しく首を横に振るクラウド。
「…多分それ、ACCの後遺症じゃないのか?」
見るに見かねて、アンジールが口を挟んだ。
「あー、そっか。でも大丈夫だって。ACCの撮影はもう終わったし。もしまたお前がセフィに切り刻まれたら、オレが助けてやるって」
切り刻まれてから助けられても嬉しくないぞ__内心で、アンジールは突っ込んだ。
「ACCのあれもあるけど…セフィロスさんに翼が生えると、DFFのEXモードを思い出して……」
「なるほどねー。コンピとかじゃ主役チートで必ずお前が勝つけど、DFFじゃプレイヤーの腕次第でフルボッコにされる可能性、あるもんなー」

要するに、負け慣れてないので打たれ弱いのか……
アンジールは内心で思ったが、口には出さなかった。
主役には、脇役には判らない主役ならではの苦労というものがあるのだろう。

「セフィが飛べるって事はさ、オフクロさんも飛べんの?」
ジェノバに向き直って、ザックスは訊いた。
その言葉に、クラウドが硬直する。
どうやらザックスの言葉を聞くまで、そこにいるのがジェノバだと気づかなかったらしい。
「へー。スゲー。そんな事もできるんだ。超かっけー。さすがセフィのオフクロさんだなー」
感心するザックスと、誉められてまんざらでもなさそうなジェノバ。そしてその様子に満足そうなセフィロス。
一方で、思いっきり不機嫌なのはジェネシスだ。
言うまでも無く、ジェノバの『言葉』が判らないからなのだが、判らないのはアンジールも一緒だ。

「…全く。忌々しい駄犬だ」
「まあ、そう言うな」
むすっとしてぼやいた幼馴染を、アンジールは宥めた。
「俺たちが今、こうして平和にお茶を飲んでいられるのはザックスのお陰だ。忘れた訳じゃあるまい?」
「あんな犬畜生のお陰であるものか…!」
吐き捨てるように言ったジェネシスに、セフィロスが視線を向ける。
「どういう事だ?」
「お前はバノーラには来なかったから、詳しい事は知らなかったな」
ジェネシスの代わりに、アンジールが口を開いた。
「良い機会だから、お前も聞いておいてくれ」
そう、前置きして、アンジールは話し始めた。

ジェネシスに続いてアンジールも任務中に失踪し、神羅は2人に対する捕縛命令を下した。
セフィロスは友人たちと戦うのを嫌って__それ以上に、2人の裏切りに深く傷ついていたせいもあるが__命令拒否。
代わりに、ザックスがバノーラに派遣された。
そこでザックスは、ジェネシスの『モンスター』としての姿を初めて目の当たりにしたのだった。
闇の色をした翼。
歪んだ骨格。
予想もしていなかったその姿に、ザックスの目が大きく見開かれる。
そして__







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