ニブルヘイム便り4

(3)



「スゲー!かっけー!それマジ、本物?」
「……」
ソルジャー特有の青い瞳を輝かせて近寄って来たザックスに、ジェネシスは文字通り、固まった。
「うぉお、すげー。ホントに背中から生えてるー」
「引っ張るな、バカ犬!」
羽根の付け根を力任せに引っ張られ、ジェネシスはザックスの手を振り払った。
身の危険を感じてレイピアを鞘から抜き払ったが、ザックスはひるむどころかますます目を輝かせる。
「んで?んでんでんで?それって、飛べんの?」
「……貴様、この状況で何を__」
「そっかー。片方だけじゃ、飛ぶのは無理かぁ。なーんだ」
ザックスの言葉に、ジェネシスは思わず舌打ちした。
「無理な訳があるか。言うまでも無く、飛行も可能だ」
「マジ?すっげー。んじゃ、証拠に飛んで見せてよ」
ここで断れば、「なんだー。やっぱ飛べないんじゃん」とバカにされるのは眼に見えている。
「良く見ていろ」

その後、ジェネシスは、ザックスに求められるままにバノーラの空を飛び回り、仕舞いには空中で踊ってみせたりした。
ザックスは大喜びではしゃぎまくり、ジェネシスの姿を写メしまくって動画に撮り、それを友人知人__アンジール、セフィロスを含む__に送りまくったのだった。

「あの時のメールなら、よく覚えている」
くすりと笑って、セフィロスは言った。
「お前が何も言わずに失踪したのは酷い裏切りだと思っていたが、楽しそうに飛んでいる姿を見て、怒る気が失せた」
「……楽しんでやっていた訳では……」
ぷるぷると震えながら、ジェネシスは言った。
プライドの高いジェネシスに取って、それがどれほどの屈辱か判るだけに、アンジールは小さく溜息を吐いた。
ザックスからメールを受け取った時には、ジェネシスはショックの余り気でも触れたのかと思ったくらいだ。
一体、何があったんだと本人に訊いても堅く口を閉ざすだけだったが、要するに「出来ないのー?」とバカにされたく無いがためにやってしまったのだと、想像はついた。
「…まあ、そんな訳で、後はお前も知っている通りだ、セフィロス」
アンジールの言葉に、セフィロスは軽く頷く。

「俺が滅ぶのなら、世界を道連れにしてやる」と暗い決意をしていたジェネシスは、激しく落ち込んで部屋に閉じこもり、「モンスターの目的など復讐か世界征服しか思いつかない」とまで思いつめていたアンジールは、幼馴染を宥めるのに一生懸命で、自分の悩みなどどうでも良くなってしまった。
そして何とかジェネシスを元気付けようと、セフィロスに頼んで細胞を分けて貰って劣化を止め、それから3人で神羅屋敷地下の資料室に篭ってジェノバ・プロジェクトの全貌を調べた。
そこで知った事実は衝撃的だったが、ジェネシスはそれよりも自分の恥ずかしい姿をメールでばら撒かれた方が耐え難いと嘆き、セフィロスはその嘆きを聞いて思い出し笑いをし、アンジールはジェネシスを宥めながらも仕舞いにはセフィロスと一緒に笑ってしまった。
そして最終的には、「別に『モンスター』だって良いじゃん、楽しいんだから」的なノリに収まったのだった。

「つまり俺たちは、ザックスの明るさに救われたって事だ」
「…救われるどころか、どん底に突き落とされたぞ」
アンジールの言葉に、ジェネシスは恨めしそうに言った。
「お前の空中バレエ。中々、傑作だったぞ」
ジェネシスの落ち込みなど眼に入らないように、軽く笑ってセフィロスは言った。
「あれを見て、3人で笑ったな」
「……そうだ…な…」
ひくつきながら、ジェネシスは言った。
恥ずかしさを隠そうと無理して一緒に笑ったのだが、それに気づくようなセフィロスでは無い。
それからセフィロスは、ジェノバに向き直って軽く笑う。
それに答えて、ジェノバは頷いた。
「……もしかして今、『母さんにも見せてあげる』とかそんな事を言ったのか……?」
「ああ」
ジェネシスの言葉に、あっさりとセフィロスは言った。
「あのメール、まだ消して無かったのか……」
「PCに落として、保存してある」
落ち込むジェネシスに追い討ちをかけるように、セフィロスは言った。
無言のまま、アンジールはポンとジェネシスの肩を叩いた。
慰めの言葉も無いとは、この事だ。

「それで、どうしてこんな話をしていたんだ?」
落ち込むジェネシスなど眼に入っていないかのように、おっとりとセフィロスが訊いた。
「あ…いや、ちょっとバイトでもしようと思ったんだが」
「バイト?何の為に?」
「それは……」
「モンスターの餌代を稼ぐ為だってさ」
セフィロスに気を遣って言い淀んだアンジールに代わって、ザックスが言った。
その言葉に、セフィロスは周囲を見回した。
いつの間に入り込んだのか、モンスター達がセフィロスとジェノバの側に侍っている。
もう慣れてしまったので他の3人は平気だが、クラウドは再び固まった。
「餌代が、かかるのか?」
今、初めて知ったとばかりに、セフィロスが訊いた。
神羅時代は特注のロングコートから最高級品のシャンプーまで、すべてを会社から支給されていたセフィロスに、金銭感覚は、無い。
「プレジデントに言えば良いんじゃないか?」
「……あのなあ、セフィロス。お前が神羅時代はそうやって、全て会社支給でまかなってたのは知っているが__」
「これだけの数のモンスターがミッドガルに現れたら、今の神羅では対処し切れないだろうな」
それを考えたら、餌代なんて安いものだろう?__にっこり笑って、セフィロスは言った。

それってもしかして『脅迫』ってヤツでは……?
内心でアンジールは思ったが、口には出さなかった。
思えば、この屋敷に元々棲みついていたモンスター達も、最初からセフィロスには従順だった。
おそらく、彼らもジェノバの使い魔なのだろう。
今ではセフィロスとジェノバは仲睦まじく暮らしているからジェノバ・プロジェクトに対する恨みや怒りは無いかも知れないが、ジェノバをモンスター扱いして実験対象にした人間に対する憤りはあるかも知れない。
そしてその憤りを晴らす為の手駒は、充分に揃っているのだ。
今のところモンスター達は大人しいペットのように振舞っている。
ならば、余計な波風は立てないに越した事は無い。

「お前たち、飯の心配が無くなって良かったなー」
モンスターにじゃれついて、明るくザックスは言った。
その姿に卒倒しそうになるクラウド、消してしまいたい過去がしっかり保存されている事を知って激しく落ち込むジェネシス。
その2人を軽く無視して、神羅屋敷の一日は、今日も平穏に過ぎて行った。









CCのザックスは「人間に翼が生えたら、それはモンスターだ」って言ってましたが、ヴィンセントの異形っぷりを見ると、羽根が生えたくらいでモンスター扱いしなくても良いじゃないかと思う今日この頃です。
FFの世界だったら、羽根の生えた人間くらい、いくらでも(?)いそうだし。
#てかKHのクラウドって、どう見ても悪魔の羽根だ…;

ちなみにセフィはあくまで休職扱いなので、未だにシャンプーとコンディショナーは神羅製の最高級品を支給されてます。

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