ニブルヘイム便り4

(1)



「今月も、赤字か……」
家計簿を前に、アンジールは溜息を吐いた。
ジェノバが復活し、アンジールたちと一緒に暮らすようになった。
セフィロスもジェノバもとても幸せそうで、それ自体は本当に喜ばしい事だとアンジールも思っている。
が、問題が一つあった。

ジェノバ復活の早くも翌日から、大小さまざまなモンスター達が集まり始めたのだ。
どうやらそのモンスター達は、ジェノバの使い魔のような存在らしい。
主人であるジェノバが復活したので、主(あるじ)の許に集まったという訳だ。
そのモンスター達はジェノバとセフィロスには絶対服従で、周囲の人間に危害を加えるような事はしない。
元々、神羅屋敷に棲みついているモンスター達同様、何故かザックスには懐き__と言うか、トモダチ扱い__アンジールには徐々に慣れ、ジェネシスには全く懐かないが、前からいたモンスター達と一緒に今ではこの屋敷のペット扱いだ。
相変わらず世話をするのはアンジールの役目だが、アンジールは元々動物や植物の世話が好きなので、苦にならない。
むしろ、楽しいくらいだ。

問題は、餌代だ。
モンスター達は大量の生肉を消費するので、餌代がバカにならない。
しかも、いつの間にか数が増えていたりする。
これには、アンジールもほとほと頭を悩ませた。
今では専業主夫であるアンジールに収入は無く、セフィロスとジェネシスの稼ぎに頼っている。
が、つい最近、スタッフが「コンピは打ち止め」宣言をしてくれたので、セフィロスの今後の出演料はあてに出来ない。
後はジェネシスが『芸能界の友人』の影武者として稼ぐ分と、セフィロスのフィギュアの売り上げから入るキャラクター・イメージ使用料くらいだが、マスター・アーツの発売が2年以上も延期されていて、そちらも余り期待できない。



「…という訳なんだが、ジェネシス」
仕方なく、アンジールは幼馴染に相談した。
「赤字分はどうしてるんだ?」
「俺たちの貯金を崩している。が、この分だと余り持ちそうにないぞ」
「そうか……」
それじゃ仕方ない、と、ジェネシス。
「あのモンスターども、捨てよう」
「出来る訳ないだろうが、そんな事」
即座に、アンジールは言った。
「今はジェノバとセフィロスが抑えてるから大人しくしてるが、野に放たれたら人を襲うに決まっている」
「確かに、捨てるのは無責任だな。保健所に連絡しよう」
「だ・め・だ。お前、自分が懐かれてないからそんな酷い事を言うんだろう」

かつてはソルジャーとして多くのモンスターを倒したアンジールだが、元々動物好きだ。
ペットとして世話をし、自分にも懐いているモンスター達には愛着がある。
そうでなくとも彼らはジェノバの使い魔なのだから、殺す訳には行かない。
てか、保健所でモンスターの処分は出来まい。

「…じゃあ、どうしろと?」
「餌代を稼ぐしかないだろう、俺たち3人でバイトでもして」
セフィロスは当分、コンピなどに出演は無さそうだし、お前もそんなに忙しい訳じゃないだろう?と、アンジール。
その言葉に、ジェネシスはあからさまにむっとした表情を見せる。
「見損なったぞ、相棒。お前、英雄セフィロスにマクドナルドでポテトを売らせる気か?」
「い…いや、何もマクドナルドと決まった訳では__」
「だったらモスバーガーか?確かにマクドナルドより客単価は高いが、それでもハンバーガー・ショップである事に変わりはなかろう」

いやだから、どうしてハンバーガー・ショップ限定なんだ?
言いたいのを、アンジールはぐっとこらえた。
そもそも、坊ちゃん育ちで金の苦労などした事の無いジェネシスに相談したのが間違いだった。
そしてその点で言えば、セフィロスも同様__と言うか、おそらくジェネシスより当てにならない。

「あと、ホストとかもダメだぞ。俺なら3日で銀座のナンバー・ワンになる自信があるが、セフィロスを店に出すのは絶対に許せん」
どうしてハンバーガー・ショップから、ホストに話が飛ぶんだ?
それに、ギンザってどこだ?
言いたいのを、アンジールは再びぐっとこらえた。
「…もちろん、あんな世間知らずをホストクラブなんかで働かせる積りは無いから安心しろ」
てか、セフィロスがホストになんかなったら、3日でナンバー・ワンどころか3時間で大変な騒ぎになりそうだ……
まだ何も始めていないのに胃が痛くなるのを感じながら、アンジールは窓の外が何やら騒がしいのに気づいた。
窓際に歩み寄って外を見ると、案の定、遊びに来たザックスがモンスター達と戯れている。
仔犬のように楽しそうに転げまわっているザックスの側でおろおろしているのは、数ヶ月前にこの屋敷にセフィロスを訪ねてきた青年だ。
「ザックス。いつまでも遊んでないで上がれ」
窓から呼ぶと、ザックスはモンスターとじゃれながら手を振った。



「…という訳で、バイト先を探しているんだがな」
ザックスとクラウドにお茶を振舞いながら、アンジールは言った。
「またソルジャーやれば良いじゃん」
アンジールの手作りクッキーを頬張りながら、あっけらかんと、ザックスは言った。
「……あのなあ。俺たちは神羅から抹殺命令を出された身だぞ?」
「それって無断で作戦中に失踪したからだよな。始末書書いて、謝れば?」
「…謝れば済むとかそういうレベルじゃなくて、俺とジェネシスは表向き、死んだ事にされてるんだ」
「そっか。深刻だな」

ちっとも深刻では無さそうに、ザックスは言った。
ザックスが言えば癌の余命宣告すら深刻には聞こえないだろうなと、内心でアンジールは思った。

「でもオレ、ゴンガガ以外の知り合いってソルジャーくらいだからな。あとエアリスと。バイトって言っても、アンジールに花売りは無理だろうし」
何気にさらっと酷い事を言って、ザックスはクラウドを見た。
「お前、何か良いバイト先、知ってる?」
「バイトって言うか……。もし良かったら、俺のやってるデリバリー・サービスを手伝って貰えれば……」
ザックスとは対照的に控えめな態度で、クラウドは言った。
「その申し出は有難いが、うちにはバイクも車も無いんだが」
「そんなの問題ないじゃん」
言ったのは、ザックスだ。
「だってアンジール、空、飛べんだから」
肩の後ろを指差され、アンジールは改めて自分の翼を見た。
普段は邪魔なだけだが、移動には便利かも知れない。
「だが、それには問題が__」
アンジールが言いかけた時、ドアが開いた。







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