ニブルヘイム便り2

(2)



「とにかく、お茶にしよう」
2人を促して、アンジールはキッチンに入った。
焼きたてのスコーンの美味そうな匂いが、キッチンに満ちている。
「俺はセフィロスを呼んで来るから、ジェネシスはお茶を淹れておいてくれ。ザックスはジャムと食器の用意」
「うん!」
「判った」

この家の家事全般はアンジールが任されている__と言うか、押し付けられている__が、お茶を淹れるのだけはジェネシスの役目だ。
紅茶は勿論、緑茶や中国茶も正式な作法にのっとって淹れる。
無論、吟味しつくした茶葉を使うのは言うまでも無い。
財政が豊かな訳でもないのにそういう贅沢をするのは如何なものかと貧乏性のアンジールは常々思っているが、稼いでいるのはジェネシスとセフィロスなので、黙っている。
言うまでも無く、普段の食費やら生活費やらを色々工面して、貧乏臭くならない範囲で節約するのはアンジールの役目だ。

喧嘩するなよ?と念を押して、アンジールは2階に上がって行った。
「すげー。手作りのジャムが沢山ある」
冷蔵庫を空け、嬉しそうにザックスは言った。
アンジールは趣味と実益を兼ねてラズベリーやクランベリーを育てていて、時々それで甘さ控えめのジャムを作る。
セフィロスは甘いものは苦手だが、アンジールの作るジャムだけは好物だ。
ジェネシスもアンジールのジャムは好きなのだが、太りたくないので量は控えている。

「こういうの、エアリスも好きそうだなー。沢山あるから、少しお土産に貰って行こうかな」
「…勝手な事をほざくな、駄犬。そのジャムはセフィロスの好物なんだぞ」
「えー、何ソレ。すっげぇ可愛いじゃん」
ザックスの言葉に、ジェネシスのこめかみにピキッと青筋が立つ。
「また貴様は性懲りも無く、セフィロスが可愛いなどと戯言をほざくか」
「だって甘いもの好きとかって、可愛いじゃん」
「甘いものが好きなんじゃない。アンジールのジャムは特別なんだ」
「だよなー。暇してるおかげでアンジールの料理のレパートリーがどんどん増えて、すっげ嬉しい」
ジェネシスの言葉を半ば無視して、ザックスは言った。
「ここに来るといつも美味いもの食わせてもらえるし。オレもう、エアリスと一緒にここに住んじゃおっかな」
ガチャリ、と、音を立ててジェネシスはティーポットを置いた。
ゆらりと、怒気のオーラが立ち上る。
「…やはり貴様には我慢がならん。二度とその能天気な顔を見なくて済む用にすべきだな」
「えっ、何?アンタここから出て行くの?」

ぶちっ。
盛大な音を立てて、ジェネシスの何かがキレた。

「駄犬、そこに直れ!今日こそその小汚い首を斬り落としてくれる」
どこから取り出したのか、レイピアを構えるジェネシス。
ザックスも、どこから取り出したのか、ロングソードで応戦の構えを見せた。

その時、キッチンのドアが開き、アンジールが姿を現した。
慌てて剣をしまうジェネシスとザックス。
今ここで喧嘩などすれば、明らかにおやつ抜きだ。
が、小言を言い始めるかと思ったアンジールは、意外にもジェネシスたちの諍いに気付いていないようだ。

「…どうした、相棒」
俯き、口を噤んでいるアンジールに、ジェネシスは訊いた。
「嫌…その……」
「アンジール。何か顔が赤いぜ?熱でもあんじゃない?」
ザックスの言葉に、心なしかアンジールの頬の赤みが増す。
「セフィロスは?」
答えない幼馴染に、ジェネシスは重ねて訊いた。
「どうしたんだ。部屋にいなかったのか?」
「いや……いる事はいるが、その……一人じゃなかったんで…」
「来客か?」

不審そうに、ジェネシスは言った。
この神羅屋敷を訪れるのは、ザックスくらいのものだ。
モンスターを飼っているせいもあって、一般の村人は近づかない。

「まさか、神羅から誰か来たのか」
「嫌…その手の来客ではなさそうだ…」
アンジール、と、尚も口篭る相手に、幾分か強い口調でジェネシスは言った。
「お前らしくも無い。もっとはっきり言ったらどうだ?俺たちはもう、互いに隠し事はしないって決めた筈じゃないか?」
親友の言葉に、アンジールは俯いていた顔を上げて相手を見た。

劣化が発覚し、自分が『モンスター』なのだと気づいた時、ジェネシスは全てに絶望し、友を棄てて出奔した。
だがザックスのお陰で破滅は免れ、同じく実験体であるアンジールやセフィロスと、心を割って話し合った。
破滅は免れたとは言え、3人の苦悩は計り知れなかった。
その苦しみの中で、自分たちの間の友情だけは失わずにいようと、3人は決意し、誓ったのだ。
隠し事は、しない。
そして何があろうと、自分たちの友情だけは失うまい…と。

「判った。包み隠さず、言おう」
そう、アンジールは言った。
「セフィロスは、全裸の女性と一緒にベッドにいた」







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