ニブルヘイム便り2
(1)
「アンジール、いる?」
その日も明るく元気一杯に、ザックスは神羅屋敷の扉を開けた。
「ザックス。良く来たな」
そしてその日も朗らかな笑顔で、アンジールはザックスを迎える。
「今日はお土産があるんだ。はい、コレ」
「これは……」
手渡されたのはブルーレイ・ディスク。
そのパッケージ中央にはクラウド、背後に両腕を広げたセフィロスの姿がある。
「もしかして、最新作の奴か?」
「そ。オレが活躍しててカッコ良いから、アンジールにも見てもらおうと思って」
そうか…とアンジールは口元を綻ばせた。
ザックスは今では立派なクラス1stのソルジャーなのだが、アンジールに取っては将来有望な2ndの少年という印象が強い。
幾つになっても親にとって子供が子供であるように、アンジールに取ってもザックスはいつまでも可愛い『仔犬』なのだ。
とは言っても、ザックスの成長が嬉しいのもまた事実だ。
「お前の活躍は是非、見てみたいが……」
言いよどんで、アンジールは眉を顰めた。
そうやって眉を顰めると益々老け顔になるのだが、本人は気付いていない。
「最新作は、セフィロスが物凄くサディスティックな話じゃないか?」
帰宅した後も撮影現場の雰囲気を引き摺るから、こっちは大変だったとアンジールはぼやく。
「そうそう。クラウドのことザクザクに切り刻んじゃったりして、アレは凄かった。クラウド、血だらけで泣きそうになってたもん」
「…で、どうなったんだ?」
アンジールの問いに、ザックスは二パッと笑う。
「そこでオレがカッコ良く登場して__」
「騒々しいと思ったら、また貴様か」
ザックスの言葉を遮ったのはジェネシスだ。
相変わらず、手にはバノーラ・ホワイトと、LOVELESSを持っている。
「まあ、とにかく上がれ。今、ちょうどスコーンが焼けたところだ。一緒にお茶にしよう」
「アンジール、大好きだ〜」
アンジールに抱きつこうとしたザックスのスネに、ジェネシスは無言で蹴りを入れた。
「うわあぁっ!」
「危ない…!」
が、却って勢い良くアンジールの胸に飛び込む形となり、ジェネシスは思い切り眉を顰める。
「20代の男2人が何をやっているんだ。みっともない。今すぐ離れろ!」
「ジェネシス、お前……ザックスが来るたびに突っかかるのは止めにしないか?」
半ば呆れつつアンジールは言ったが、ジェネシスはつん、と顔を背ける。
そしてザックスが落としたACCのBDを拾い上げた。
「これは受け取っておいてやる。セフィロスの優美な姿を見るのは、眼の保養になるからな」
「アンタにやったんじゃねーよ。アンジールとセフィと一緒に見ようと思ったのに」
文句を言ったザックスを、アンジールは宥めた。
「セフィロスに見せるのは止めておいた方が良いだろう。またドSモードになられても困る」
「……そんなにスゴイの?」
ザックスの問いに、アンジールは溜息を吐いた。
「家の中でも暗雲しょって登場するし、翼は大きいから邪魔だし、何かと言うと絶望、贈りたがるし」
「へえ。可愛いじゃん」
……は?__アンジールは、耳を疑った。
「贈り物してくれるなんて、親切なんだな」
「フン。貴様のような駄犬でも、セフィロスの美点が判るのか」
違うから。それ、思いっきり、違うから。てか、何でジェネシス、話を合わせてるんだ?__内心でアンジールは思ったが、口には出さない。
「と…にかく、残念だが、うちにはブルーレイを再生する機械が無いんだ」
「えー、マジ?うちにも無いからここで見ようと思って持ってきたのに…」
こんなデカイ屋敷に住んでるのに、そんなのも無いの?__ザックスの問いに、アンジールは眉を顰めた。
「無理を言うな。俺とジェネシスは会社から免職扱いで、退職金も出なかった。セフィロスは表向きは負傷で休職扱いだが、医師の診断書が取れないから傷病手当が出ない」
ちなみに、神羅はセフィロスを殉職扱いにしようとしていたが、それまで散々、英雄と持て囃してきたので、死んだとなると盛大に社葬を執り行わなくてはならない。
が、世界的不況の煽りを受けて業績が悪化している神羅に、そんな予算は無かった。
そして、英雄の社葬がショボイのではソルジャーや兵士たちの士気にかかわる。
なので何年もずっと休職扱いのままだ。
この神羅屋敷は会社から無償で提供されているが(元々、使っていなかった)、生活費はジェネシスが芸能活動で稼ぐ分と、セフィロスがコンピ作品等で得るギャラだけに頼っている。
ついでに言うと、宝条は研究費の一部を仕送りしようと申し出ているが、セフィロスはそれを拒んでいる。
「……という事情があるんだ」
「ふーん。じゃ、これ、どうしよう」
ジェネシスの手からBDを取り返し、ザックスは言った。
「俺の芸能界の友人なら、再生機もハイビジョン対応のTVも持っている筈だ。今度、一緒に彼の家に見に行こう」
ザックスの手からBDを奪い取り、ジェネシスはアンジールに言った。
「すげー。じゃ、オレ、エアリスとクラウドも誘うv」
「俺は貴様などに同行を許していない」
「カンセルとルクシーレも声かけてやったら喜ぶな♪」
ジェネシスの言葉を無視して、明るくザックスは言った。
「ヤな奴かと思ってたけど、アンタって意外と親切なんだな」
「……」
アンジールは、思わず口を噤んだジェネシスと楽しそうに笑うザックスを交互に見た。
今回は、ザックスの勝ちのようだ。
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