ニブルヘイム便り

(1)



ニブルヘイムのはずれにある神羅屋敷。
セフィロス・アンジール・ジェネシスの3人が住むその屋敷に、その日、訪問者があった。
「ザックス!よく来たな」
久しぶりに会えた昔馴染みを、アンジールは嬉しそうに出迎えた。
その背中には、大小2つの純白の羽が生えている。
「アンジール!久しぶり〜」
「ちっとも顔を見せないで。どうしてた?元気にやっていたのか?」
アンジールの問いに、ザックスはうん、まあと笑う。
「エアリスと一緒に花売りワゴン作ったり、エアリスと一緒に花を売ったり、エアリスと一緒に買い物に行ったり、エアリスと一緒に花の世話をしたり、エアリスと一緒に__」
「もう良い。判った」

途中で、アンジールは止めた。
止めなければ、永遠に惚気ていそうだ。

「で?今日はそのエアリスと一緒なのか?」
扉の外に誰か立っているのに気づき、アンジールは訊いた。
「今日は違うんだ__入れよ」
「…エアリスはもう、喋らない。笑わない。怒らない…」
ブツブツ呟きながら現れた青年の姿に、アンジールは思わず眉を顰めた。
そこだけどんより、雨雲がかかっているかのように、雰囲気が薄暗い。
「こいつ、クラウドって言うんだ。オレのトモダチ」
クラウドの肩に腕を回し、ニパッと明るく笑ってザックスは言った。
ザックスが明るいだけに、クラウドの暗さが際立つ。
なるほど確かにクラウド(雲)だと、アンジールは内心で思った。
「こいつがセフィに頼みたいことがあるって言うから連れて来たんだけど、セフィ、いる?」
「いる事はいるが……」
再び、アンジールは眉を曇らせた。
「何やら職場で嫌な事があったらしくてな。ここ数日、引き篭もっている」
「騒々しいな」

その時、現れたのはジェネシスだ。
左肩には黒い翼。
そして、手にはバノーラ・ホワイトを持っている。

ザックスの姿を認めるや否や、ジェネシスは不機嫌そうに眉を顰めた。
「やはり貴様か、駄犬。どうりで騒々しいと思った」
「お前も一緒に来いよ__ってぇ…」
ジェネシスを無視し、クラウドを連れて階段のほうに歩み寄ったザックスは、ジェネシスに思い切りむこうずねを蹴られて蹲った。
「何すんだよ…!」
「貴様こそ、人の家に勝手に入るな」
「ここはセフィんちだろーが」
ザックスの言葉に、ジェネシスのこめかみがピクピクと痙攣する。
「…その馴れ馴れしい呼び方を止めろと、何度言わせたら気が済むんだ?」
「えー、別にいいじゃん。可愛い呼び方だって、エアリスも言ってたし」
「セフィロスに対して『可愛い』とかいう発想をする事自体が間違っているんだ」
「アンタこそセフィの可愛さが分かんないなんて、トモダチとは言えないんじゃないの?」

ブチっと、何かがキレる音がした。

「駄犬、そこに直れ!その小汚い首を斬り落としてくれる」
どこから取り出したのか、レイピアを構えてジェネシスが言うと、ザックスも背中のロングソードを抜いた。
「勝負なら、いつでも受けて立つぜ?」
「いい度胸だな、駄犬。劣化の治った今、貴様ごときは俺の敵では無いぞ」
「……二人とも、いい加減にしないか……」
「悪いな。今回もオレの勝ちだ」
「主人公チートの無い貴様など、一撃で__」
「晩飯、抜きにするぞ?」
ぼそりと言ったアンジールの言葉に、ジェネシスの動きが止まる。
「……親友を裏切る気か、相棒?」
アンジールは、盛大にため息を吐いた。
「家の中で暴れるなと、何度同じ事を言わせれば気が済むんだ?この前、ザックスが来た時に屋敷を破壊しまくって、反省した筈だったよな?」
「あれは俺が悪いんじゃない。大体、お前はペットに甘すぎだ」
「また、セフィロスをキレさせたいのか?」

アンジールの言葉に、ジェネシスはぐっ…と詰まった。
数ヶ月前にザックスが遊びに来た時、些細なことが原因でジェネシスと喧嘩になった。
アンジールが留守だったので止める者もなく二人はエスカレートし、魔法を使いまくって屋敷を破壊した。
そのせいでジェノバが安置されているカプセルにヒビが入り、キレたセフィロスがメテオを呼んでしまったのだ。
危ういところでアンジールが帰宅して何とか星の滅亡は免れたが、屋敷の修理には二ヶ月近くかかった。
ちなみに、修理をしたのはアンジールほぼ一人である。
セフィロスは不器用なので手伝わせると却って破壊が進み、ジェネシスは坊ちゃん育ちなので大工仕事は役に立たず、ザックスは「エアリスと一緒に花売りワゴン作ったり、エアリスと一緒に花を売ったり、エアリスと一緒に買い物に行ったり、エアリスと一緒に花の世話をしたり、エアリスと一緒に(以下略)」という用事があって、殆ど修理を手伝わなかった。
そんな事があっても喜んでザックスを迎えるあたりが、アンジールのアンジールたる所以である。

「セフィロスには悪い事をしたと思うが……。だがしかし、悪いのはお前のペットであって俺じゃない」
「俺はあの時、喧嘩両成敗だとちゃんと説明したよな?ザックス。お前も__」
振り向いたアンジールの視界に、ザックスの姿は無かった。
改めて首を巡らせると、ザックスはクラウドを伴って2階の奥の部屋に入ろうとしている。
「しまった……!」







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