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【森1】 |
| エアリス | おはよう。よく眠れた? |
アンジール | あ…ああ。ちょっと仮眠の積りが、うっかり寝過ごした。 |
| 君は、ずいぶん早起きだな。 |
エアリス | 修道女だから、早起きには慣れてるの。 |
| クラウド……目を覚ましそうにないね。 |
アンジール | 聞きたいことは山ほどあるが、無理に起こさないほうが良いだろうな。 |
| それより、君に侯爵の事を聞きたい。どういう人物なんだ? |
エアリス | 戦場では強くて勇敢な騎士。慈悲深く聡明で、領民の皆に慕われている立派な方よ。 |
アンジール | もう少し具体的に、何かないのか? |
エアリス | そうね…私が知ってるのは、女神ジェノバの申し子だってことくらいかな。 |
アンジール | ジェノバの…?申し子って、どういう意味だ? |
エアリス | 先代の侯爵ご夫妻は子宝に恵まれなくて… |
| ご兄弟もいないから、そのままではお取り潰しに… |
| それで奥方様がご自身の生命を捧げる誓いを立てて、女神ジェノバに願をかけたの。 |
| 一年後、とても美しい赤ちゃんが生まれて、奥方様はそのままお亡くなりに… |
アンジール | (セフィロスも、自分を産んですぐに母親が亡くなったと言っていたが…) |
| (しかし…ジェノバというのは何だ?思い出せそうで、思い出せない…) |
エアリス | 侯爵様が慈悲深く敬虔なのも、女神の申し子だからって、言われてるわ。 |
アンジール | 慈悲深いとは、例えば? |
エアリス | 戦場では捕虜を奴隷のように扱う将軍が多いけど、 |
| 侯爵様は、敵の捕虜にも情けある扱いをなさるって話よ。 |
アンジール | だが…敵からは「銀髪鬼」と呼ばれてるんじゃないのか? |
エアリス | 捕虜になっても虐待されないって判ると、農民兵なんかは簡単に降伏してしまう。 |
| それを防ぐ為に、敵は侯爵様を鬼だって悪く言うのよ。 |
アンジール | なるほど…。 |
エアリス | それに、畑が忙しい時期には、配下の農民兵を家に帰して下さるし。 |
アンジール | 農繁期に男手が無いのは辛いから、それで農民が喜ぶのは判るが… |
| そんな事をしたら、戦力に影響を及ぼさないか? |
エアリス | その分は、侯爵様がご自身の強さで補って下さるの。 |
| もちろん、その分、侯爵様のご負担は増えてしまうけど。 |
| でもそのお陰で、戦の時もランベリーの畑は余り荒れないのよ。 |
アンジール | 領民に慕われる訳だな… |
| だが…クラウドは確か、平民はパンと水だけが当たり前だと言ってたが。 |
エアリス | それはここ数年、ずっと悪天候が続いているせいなの。 |
| 20年ぶりに贖罪の乙女を神に捧げるのは、きっとそのせいだと思う。 |
アンジール | 20年ぶり?20年前に、何かあったのか? |
エアリス | 侯爵様が、戦で生命にかかわるような重い怪我を負われて… |
| 重臣方が侯爵様の快癒を願って、神に生贄を捧げる事を進言したんですって。 |
アンジール | 君は自分が生贄に選ばれて……怨んだりしないのか? |
エアリス | 私は修道女になった時に、女神に身命を捧げる誓いを立てたもの。 |
| それに侯爵様は、領民を救おうとなさっているのよ。 |
| 私が生贄になる事で皆が救われるなら、むしろ喜んで―― |
クラウド | ううっ…… |
エアリス | クラウド?大丈夫? |
| ひどい熱…。私、水を汲んでくる。 |
アンジール | それなら俺が行くから、君はここを動かないでくれ。 |
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【城中】 |
| セフィロス | アンジールの行方は、まだ判らないのか? |
兵士 | 申し訳ございません。全力で捜索を行ってはおりますが… |
セフィロス | (選りによって、贖罪の乙女を連れ去るとは…) |
| (これには、何者かの力が関わっているのか……?) |
| 仕方が無い。城下に、触れを出せ。 |
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【森2】 |
| ジェネシス | よう…相棒。 |
アンジール | ジェネシス…!一体、今までどこにいたんだ? |
| それに、お前が城下を荒らし回ってるっていうのは本当か? |
ジェネシス | 生き延びるのに必要な物資を調達しただけだ。 |
アンジール | お前という奴は…!ソルジャーの誇りはどうした? |
ジェネシス | 誇りだと…?その様子では、お前は思い出していないようだな。 |
アンジール | 何をだ?お前は、思い出したって言うのか? |
ジェネシス | ああ…全てを、な。 |
| 俺達が本当は何者で、神羅が俺達に何をしたのかを… |
アンジール | 教えてくれ。俺達は何者で、どうしてこんな所にいるんだ? |
ジェネシス | 聞けば後悔するだろうが、それがお前の望みならば教えてやろう。 |
| 俺達は、神羅が行った人体実験で生みだされたモンスターだ。 |
アンジール | モンスター…だと? |
ジェネシス | 会社が暴利を貪る為に行った実験だ。そして、俺達は失敗作だ。 |
| もっとも…ジェノバを古代種と誤認した時点で、全ては失敗だったが…な。 |
アンジール | ジェノバとは何だ? |
ジェネシス | 二千年前の地層から発見された、モンスターだ。 |
| そしてセフィロスは、ジェノバの能力を全て受け継いだ、完璧なモンスター… |
アンジール | ばかな…。俺達が…モンスター……だと? |
ジェネシス | 信じられないのなら、これを見ろ。 |
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--ジェネシス、翼を発現させる |
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アンジール | その翼…俺は…俺達は…… |
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--アンジールの脳裏に、モンスター化した自分の姿が蘇る |
| --アンジールの最期の回想 |
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アンジール | ……そんな…… |
ジェネシス | …どうやら、思い出したようだな。 |
アンジール | 何故だ…?俺は…死んだ筈だったのに…… |
ジェネシス | ああ…。お前は死ぬ事で、運命から逃れようとした。 |
| だが、逃れる事など出来はしない。 |
アンジール | 俺が逃げようとした…だと? |
ジェネシス | そうだ。お前は一人で先に勝手に死んだ。俺を、裏切ったんだ。 |
アンジール | 裏切ったのはお前だろう…?何も言わず失踪して、バノーラを滅茶苦茶に…… |
ジェネシス | お前が俺を追って来るのは判っていた。俺達は、子供の頃からずっと一緒だからな。 |
| お前はいつだって、『良い奴』を演じていた。そして、俺はお前の引き立て役だ。 |
アンジール | ジェネシス…… |
ジェネシス | 俺が我儘で横暴に振舞うほど、お前の『良い奴』ぶりが際立つ。 |
| お前は俺と一緒にいる事で、自分の評価を高めようとしていたんだ。 |
アンジール | 俺はただ、お前を放っておけなかったから―― |
ジェネシス | 何故だ?俺が友人のいない、『可哀想な奴』だからか? |
| お前はいつだってそうやって自分より惨めな奴を見つけ出しては世話を焼いて、 |
| そうして自分の惨めさを誤魔化していたんだ。 |
アンジール | ……俺がお前の為だと思ってしていた事が、お前には気に入らなかったのか…? |
ジェネシス | 気に入らないどころか感謝していたさ。 |
| お前がいなければ、俺は話し相手もいなかった。 |
| 俺はお前に感謝し、頼り、いつの間にかお前に依存していた。 |
| そしてそれこそが、お前の望みだったんだ。 |
アンジール | 何が言いたい…? |
ジェネシス | 地主の一人息子の俺が、村で一番貧しい家の子のお前に依存する。 |
| お前の父親は、さぞ、お前が誇らしかっただろうな。 |
アンジール | …親父の話をするのは止めろ… |
ジェネシス | お前の父親はろくに稼げもしないのに理想ばかりが高くて、 |
| 誇りと夢を持つ事に執着していた。 |
アンジール | …誇りを大切にする事の何が悪い? |
ジェネシス | 俺のレイピアに負けまいと、無理に高価なバスターソードなんか買って過労死した。 |
アンジール | それは…… |
ジェネシス | お前はそれが負い目になって、誇りと夢を持ち続ける事にこだわった。 |
| 取り憑かれていたと言っても良いくらいに。 |
アンジール | お前にだって、ソルジャーの誇りと英雄になるという夢があった筈だ。 |
ジェネシス | あったさ…。偽物だったがな。 |
アンジール | 偽物…? |
ジェネシス | 俺はセフィロスに憧れていた。セフィロスがソルジャーだからソルジャーになり、 |
| セフィロスが英雄だから、英雄になりたかったんだ。 |
アンジール | 偽物なんかじゃ無いだろう?他の少年たちだって、セフィロスに憧れて―― |
ジェネシス | セフィロスは孤高の英雄だった。親もいず友人もおらず、それでも毅然としていた。 |
| 初めて雑誌でセフィロスの記事を読んだ時、ああなりたいと思った。 |
アンジール | お前には、両親も友人もいただろう… |
ジェネシス | 俺を、神羅から押し付けられた厄介なお荷物としか思わなかった養父母が…な。 |
アンジール | …お前は、ラプソードス夫妻に可愛がられていた筈だ。 |
ジェネシス | 甘やかされてはいた。愛は、かけらほども無かった。 |
アンジール | ……。 |
ジェネシス | 俺は偽物の両親と、偽物の誇りと夢を神羅に与えられた。 |
| そしてお前からは、偽物の友情を。 |
アンジール | 偽物なんかじゃない。俺は―― |
ジェネシス | だったらどうして勝手に一人で死んだ?どうして俺を殺してくれなかった? |
| どうして一人だけ、運命から逃げようとしたんだ…!? |
アンジール | ……俺は…… |
ジェネシス | …判ってるさ。お前は、夢と誇りに取り憑かれていた。 |
| その両方を失って、生きていけなくなったんだ。 |
アンジール | ………。 |
ジェネシス | だが残念だったな、相棒。一度や二度、死んだくらいでは、運命からは逃れられない。 |
アンジール | …どういう事だ…? |
ジェネシス | 俺達は、セフィロスの意思でこの世界に呼び寄せられたんだ。 |
| リユニオンの為の、生贄として。 |