Elmdor

(10)



【民家】
ザックスここがシスネの家だ。
アンジール留守みたいだが…?
ザックス大丈夫。勝手に入って良いって言われてるから。
アンジール鍵もかかっていないなんて、物騒だな…。
ザックス貧乏平民の家に泥棒に入る奴なんて、いないからな。
アンジール…そうか。
ザックスもうすぐ、シスネが帰って来ると思う。適当に座っててくれ。
クラウドシスネって人、俺は名前を聞いた事ないけど…。
ザックス俺はお前と違って、ご婦人の知り合いは多いんだ。
クラウド(ザックスは、エアリスが好きな筈なのに……)
ザックスところで、ジェネシスってどうなったんだろう。
アンジール…俺には判らん。
(セフィロスの所に行ったとは言えないな…)
ザックス幼馴染だって言ってたけど、なんであんな奴が友だちなんだ?
エアリスあんな奴…?
ザックス城下を荒らし回って金品を奪い、衛兵を何人も殺したんだ。
エアリスそんな、酷い……。
アンジールジェネシスは…昔からああだった訳じゃない。いろいろ理由があって…
ザックス理由って?
アンジールそれは……
クラウド別に良いじゃないか。ジェネシスはジェネシス、アンジールはアンジールだ。
ザックス別に、無理に聞こうとは思わないけどさ。何かあいつって、性格歪んでる気がする。
クラウド(ザックス…どうしてしつこくジェネシスの事を…?)
アンジール…子供の頃は、もっと素直な奴だった。
だが…ある頃から、両親に愛されていないと感じるようになって…
ザックスなんで?
アンジール小さい頃、あいつが肺炎に罹った時、
あいつの両親は看病を使用人に任せて旅行に…
エアリスそんな……
アンジールそれ以来、あいつは両親の愛情を疑うようになって、わざと無断外泊したりした。
それでも、あいつの両親は何も言わなかった…。
ザックスそれじゃ性格が歪む筈だ…。
アンジール…あいつはプライドが高いせいで素直になれないだけだ。決して悪い奴じゃ……
ザックス(…合図だ)
そうだ、アンジール。また、あんたの翼を見せてくれないか?
エアリス翼…?
ザックスああ。アンジールには、翼があるんだ。天使みたいに、真っ白で綺麗な翼が。
アンジール見せるような物では…
ザックス別に良いじゃん。減るもんでなし。エアリスだって、見たいよな?
エアリスえ?――う…うん……。
アンジール…判った。
 
--アンジールの翼に、ザックスが斬りつける
 
アンジール……!?ザックス、お前…剣が持てなくなった筈じゃ…
ザックス腱を切られてなんかいないさ。慈悲深い侯爵が、そんな事、する筈ないだろ?
アンジール(家を囲まれている…。会話に気を取られて、気づくのが遅れた……)
クラウドアンジールの翼を斬り落とすなんて…どうしてそんな事を…!?
ザックスごめん、アンジール…。あんたの事、好きだったし、あんたには勇気づけられた…
だけど…魔物はそうやって言葉巧みに人を誑かすんだって、司祭が…
クラウドアンジールは魔物なんかじゃない。特別な力があるのはソルジャーだから――
ザックス俺もお前も誑かされたんだ…!
侯爵を裏切るような考えを起こしたのも、きっとそのせいだ。
クラウドザックス……
ザックス魔物を捕らえて司祭に引き渡せば、俺達の罪は赦されるってシスターが言ってた。
それに侯爵も、忠誠を示せば、もう一度、チャンスをくれるって…
クラウド自分の為に、アンジールを裏切るのか…?
ザックス目を覚ませ、クラウド。そいつは魔物だ…!
アンジール……。
クラウドアンジール!俺がザックスを引き止めるから、あんただけでも逃げてくれ…!
ザックス邪魔するな、クラウド…!
エアリスやめて二人とも…!どうして二人が争わなくちゃならないの…!?
アンジール(くそ…出血がひどくて眼がかすむ……)
脱出するぞ、クラウド。走れ…!
 
 
【洞窟】
クラウド何とか追っ手はまいたけど…大丈夫…か?
アンジールああ…。出血は、止まったようだ…。
クラウドザックスの事……悪く思わないでくれ…。
アンジール…判ってるさ。翼のある人間なんて、魔物だと思われて当然だ。
それに…俺は……モンスターなんだ。
セフィロスやジェネシスと同じ、神羅が行った人体実験で生みだされたモンスター…
クラウド……。俺達を育ててくれたシスターが、いつも言ってた。
人と魔物の一番大きな違いは、外見でも力でもなく、心だって。
アンジール心……?
クラウド悪い感情が、人の心に魔物を生み出す。憎しみや慢心や怠惰な気持ち…
それに負けてしまう事で、人は魔物になってしまう。
だから毎日、神様にお祈りして、誘惑と戦う強い心を育てなさいって。
アンジールこの世界の神というのは、ジェノバの事だろう…?
クラウドああ…。だけど、この世界の人々が信仰している女神は、
他の世界の神と変わらない。
禍々しいものでも星の敵でもなく、人知を超越した偉大なもの、
自然を具象化したような、そんな存在だ。
アンジール(それはまやかしなのか?それとも…それこそがジェノバの本当の姿なのか…?)
クラウドあんたには人間としての感情が、人の心がある。
だから…モンスターなんかじゃない。
 
--ジェネシスの言葉が、アンジールの脳裏に蘇る
ジェネシスモンスターであるという事実が、俺達を変えたんだ。
ある意味、あるべき姿に戻ったと言うべきか…。
 
アンジールお前は…セフィロスは人の心を捨ててしまったのだと言ったな。
クラウド今のセフィロスに取って、全ての人間は裏切り者でしかないんだ…
アンジール俺とジェネシスが…セフィロスを裏切ったせい…なのか?
クラウド…あの時、ジェネシスがあそこまでセフィロスを追い詰めなければ、
あんな事にはならなかった可能性はある…と思う。
アンジールジェネシスがそんな事をしたのは多分…セフィロスに殺されたかったからだろうな…
クラウド殺されたかった…?
アンジール俺達はソルジャーだからな。死ぬ時は、戦って死にたい。
あいつは子供の頃からずっとセフィロスに憧れていたから、
セフィロスの手にかかって死ねれば本望だったろう…。
クラウドわざと酷い事を言って、セフィロスを怒らせようとした…と?
アンジールセフィロスがそんな挑発に乗るような男じゃないのは、あいつも判ってたろうが
あいつ自身、かなりギリギリの精神状態だったんだろう。
セフィロスを追い詰めたのがジェネシスなら、ジェネシスを追い詰めたのは俺だ…
 
--ジェネシスの言葉が、アンジールの脳裏に蘇る
ジェネシスだったらどうして勝手に一人で死んだ?どうして俺を殺してくれなかった?
どうして一人だけ、運命から逃げようとしたんだ…!?
 
アンジールあいつは子供の頃…何でも俺に相談していた。
ソルジャーになるって言い出した時は、反対したが…
クラウドどうして、反対したんだ…?
アンジール子供の頃、あいつは身体が弱かったんだ。
だけど雑誌の記事でセフィロスを知って憧れ、どうしてもソルジャーになる…と。
 
--ジェネシスの言葉が、アンジールの脳裏に蘇る
ジェネシス判らないのか?やっと…夢が叶うんだ。
リユニオンによって、俺はセフィロスと一つになれる。
セフィロスに、なれるんだ。
 
アンジールあいつはセフィロスの強さと、孤高さに憧れていた。
クラウド俺も…同じだ。子供の頃、友だちがいなくて…自分の弱さが嫌だった。
セフィロスに憧れたのは、あんな風になれれば、
弱さも孤独も克服できると思ったから…
あの時、セフィロスの哀しみが判っていて何もしなかったのは
セフィロスならきっと大丈夫だって、過信していたからかも知れない…
アンジール多分…ジェネシスも同じだ。
あいつに取って、セフィロスは自分の理想が具現した存在だから
セフィロスにも感情があって傷つく事もあるんだと、認めたくなかったんだろう…
クラウドだけど…いくら最強のソルジャーでも、人間だ。
アンジールああ…。だから深い哀しみに、耐えられなくなる時もある。
クラウドだから…記憶と共に、感情を捨ててしまったのか…?
アンジール……。俺は、セフィロスを信じると言った。
セフィロスが人の心を取り戻せば、皆が救われるのだと思ったから…
だがもし、セフィロスが記憶を取り戻すことで、
再び耐え難い哀しみを負ってしまったら…
クラウドランベリーで、ニブルヘイムの悲劇が再現されるかも知れない……






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