相手からのメールの返信が遅いとソワソワする【セフィロス】
(1)
「何だ、カンセルからか…」
夕食の後、片づけを手伝っていたザックスは、着信したメールの送信者を見てがっかりしたようにぼやいた。
「誰かからの連絡を待ってるのか?」
「んー。今朝、エアリスにメールしたのに、まだ返事が無いんだ。電話してもずっと繋がらないし…」
憂鬱そうなザックスに、アンジールは軽く笑った。
ザックスには友人が多い__男女を問わず。
女友達は沢山いるが、エアリスは特別なのだ。
「オレ、今からミッドガルに戻ろうかな。なんか心配だし…」
「今から?」
そう、アンジールは訊いた。
「今からこっちを出たんじゃ、野生のモンスターが出没する荒野を、真夜中に突っ切る羽目になるぞ?幾らソルジャーでも危険すぎる。大概のモンスターは、夜の方が獰猛になるからな」
止めた方が良いと、アンジールは言った。
「でも…オレ、やっぱ帰るわ。エアリスの身に何かあったかも知れないし」
「心配する気持ちは判るが…束縛しすぎは嫌われるぞ?たった1日、連絡がつかないだけだろうが」
アンジールの言葉に、ザックスは迷うような表情を浮かべ、携帯を見つめた。
そう言えば…と、アンジールが口を開く。
不意に、何年も前の記憶が蘇ったのだ。
「メールの返事が遅いからって、セフィロスが戦場にまで来た事があったな…」
「セフィが?」
訊き返したザックスに、アンジールは頷いた。
その時のミッションでは、アンジールはジェネシスと組んでウータイに潜入していた。
ウータイ軍の捕虜となった2ndのソルジャー3名を救出するのが目的で、救出までは順調だった。
が、乗ってきたヘリが帰還途中で故障し、ウータイの山の中に墜落してしまったのだ。
間の悪いことに、そこは野生のモンスターの生息地でもあった。
救援を呼ぼうにも無線は故障し、山の中なので携帯は使えない。
アンジールたちは、時折、襲ってくるモンスターと戦いながら、神羅が捜索部隊を派遣してくれるのを待っていた。
最後に報告した場所からは数十キロ、離れてしまったが、何とか見つけ出してくれる筈だ__そう、信じて待った。
だが、1日が経ち、2日が過ぎても神羅のヘリは現れなかった。
持参した食料は底を尽き、周囲で食べられる物を探さなければならなくなった。
無線とヘリの修理も試みたが、どうにも部品が足りない。
そうこうする内に、3日、4日と時は流れ、ついに1週間が過ぎた。
「幾らなんでも、遅すぎないか?」
2ndのソルジャー達を動揺させぬよう、彼らから離れた所にアンジールを連れ出して、ジェネシスは言った。
「最後に連絡した場所から、数十キロしか離れていない筈だ。半径数十キロ圏内を捜索するのに、こんなに時間がかかる訳が無い」
「だが…ここは敵地だしな」
眉を寄せて、アンジールは言った。
「捜索隊がウータイ軍と交戦になって、一時、退却したのかも知れないし…」
退却ではなく撃墜された可能性もあるが、それをアンジールは口にしなかった。
ただでさえ気持ちが滅入っているのだ。
否定的な言葉は、なるべく口にしたく無い。
「このままここでじっとしていても、埒が開かない」
幾分か苛立たしげに、ジェネシスが言った。
「いっそヘリを捨てて山を降りないか?」
「それは無理だ。幸い、俺たちは無事だったが、2ndの3人もヘリを操縦して来た神羅兵も、負傷しているんだぞ?」
「怪我ならばケアルで治しただろう?完璧な治療じゃないが、山を降りるくらいは出来る筈だ。4人とも戦闘訓練を受けた兵士だ。一般人じゃない」
ジェネシスの言葉に、アンジールは一旦、口を噤んだ。
それから、改めて口を開く。
「だが…たとえ山を降りられたとして、それからどうする積りだ?」
「どこかで車を手に入れる」
「車で越境なんて不可能だ」
そんな事は判っている、と、ジェネシス。
「ここからそう遠くない所に、ウータイの空軍基地がある。車でそこまで行って、ヘリを奪って__」
「無茶だ。空軍基地でヘリを奪う…だと?」
「俺たち1stを含めてソルジャーが5人もいるんだ。不可能じゃない」
2人はその後も暫く議論を交わしたが、結論は出なかった。
来ないかも知れない救援部隊を待ち続けるべきか、多少のリスクを冒してでも自力で脱出を試みるか__
そのいずれにも、危険が付きまとっている。
「救援部隊が来れないって事は、それだけ周囲の状況が危険だという事だろう?自力で脱出なんて、やはり無謀だ」
「セフィロスだったら、こんな所でじっと救援を待ってなどいない筈だ」
アンジールの言葉に、ジェネシスは言った。
アンジールは首を横に振った。
「セフィロスなら…な。だが、俺たちはセフィロスじゃない」
「見損なったぞ、アンジール」
むっとした表情で、ジェネシスは言った。
「俺だって、今の自分たちとセフィロスの実力の差は判っている。だが俺たちは__少なくとも俺は、セフィロスを目標にしているんだ。時には実力の120%を出すような事もしなければ、向上はあり得ない」
「俺たち2人だけならば、賭けに出ても良い。だが、2ndの3人も一緒なんだぞ?あいつらを救出するのが、今回のミッションだ。彼らを危険に晒すようでは、本末転倒だ」
「…判った」
短く、ジェネシスが言った。
「お前はここで2ndと一般兵のお守りをしていてくれ。俺が一人で山を降りて、ヘリを調達して来る」
「なっ…!バカな事を言うな。一人で空軍基地からヘリを盗み出すなんて、それこそ無謀だ」
「神羅は俺たちを見捨てたかも知れないんだぞ?だとしたら、救援なんて永遠に来ない」
それに、と、ジェネシスは続ける。
「こんな山の中で燻ってるようじゃ、英雄には__」
途中で、ジェネシスは言葉を切った。
その表情に、アンジールも耳を澄ます。
幽かに、ヘリの音がしたのだ。
「…ウータイのヘリか?」
「嫌、神羅のマークだ」
双眼鏡で確認し、アンジールは言った。
「助かった…!こっちは山の中で物陰になってるが、救援機なら探査装置を積んでる筈だ」
嬉しそうにアンジールは言ったが、ジェネシスは浮かない顔だった。
「…どうした、ジェネシス?」
「救援隊に拾ってもらうまで何も出来なかっただなんて、事実上のミッション失敗だ」
アンジールは、軽く肩を竦める。
「英雄には、なり損ねたがな。当初の目的は果たせるんだ。素直に喜べ」
やがて降下してきたヘリに、アンジールは両手を振った。
森のはずれの開けた場所に、ヘリが着陸する。
「……嘘だろう……?」
ヘリから降り立った相手の姿に、呆然とジェネシスは呟いた。
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