猫を見つけると『ニャー』のみで猫と会話を試みる【セフィロス】


(2)



「かくれんぼ?」
ザックスの言葉に、セフィロスは鸚鵡返しに訊き返した。
「そ。一緒にやろうぜ?」
「かくれんぼ…とは何だ?」
セフィロスの問いに、アンジールとジェネシスは顔を見合わせた。
幼い頃、セフィロスの『遊び相手』はモンスターだけだった。
普通の子供のような遊びは、したことが無いのだ。
そしてセフィロスは、自分が特別な環境で育った事を人に話すのを嫌がる。
それをアンジールとジェネシスは知っているが、ザックスは知らない。
「都会じゃかくれんぼってやらねーの?一人が鬼になって、100数えてる間にみんなが隠れて、それを鬼が探すんだ」
明るく、ザックスは説明した。
「…鬼?」
再び、鸚鵡返しにセフィロスが訊く。
「じゃんけんで負けた奴が鬼」
「じゃんけん?」
「んー、それは言葉で説明するより、実際にやった方が早いな」

子供の遊びの事など何も知らないセフィロスに、ザックスは屈託の無い態度で説明した。
そのお陰で、セフィロスは自分が『特別』だと感じずに済んだようだ。

「よく判らないが、面白そうだな」
言って、幽かに笑ったセフィロスに、アンジールは内心で安堵した。
ただでさえジェネシスが過敏になっている時期に、ザックスがセフィロスの顔を曇らせるような事を言えば、何かと厄介だ。
「お前らもかくれんぼ、やりたいの?じゃんけん、出来ないじゃん」
いつの間にか集まって来たモンスター達に、ザックスは言った。
「最初は、言いだしっぺのお前が鬼をやったらどうだ?その方が、セフィロスも馴染み易いだろうし」
「だったら、俺がセフィロスと一緒に隠れる」
アンジールの言葉に、ジェネシスが言った。
かくれんぼをする事自体に反対しなかったのはやや意外だが、ジェネシスもセフィロスに『普通』の子供らしい遊びを経験させてやりたいのだろうと、アンジールは思った。



2時間後。
「かくれんぼじゃなくて、鬼ごっこにすれば良かった…」
ここって、広すぎ__そう、ザックスはぼやいた。
その隣で、アンジールが軽く笑う。
モンスター達はすぐに見つかったのだが、元1stの3人は容易に見つからなかった。
アンジールはセフィロスとジェネシスの様子が心配な事もあって1時間くらいでわざと見つかり、その後はザックスと一緒に友人2人を探している。
が、それから更に1時間近くが経過した今も、2人の隠れ場所は判らない。
「ミッションだと思って、気合を入れろ」
ぽんとザックスの背中を叩いて、アンジールは言った。
「敵地深くに潜んでいる敗残兵狩りは、こんな生易しくなかっただろう?」
「だってオレ、腹減ったしー、屋根裏から地下まで全部の部屋をしらみ潰しにしたのにセフィ、どこにもいないしー」
「俺たちが探している間に、隠れ場所を移動しているんだろうな」
アンジールの言葉に、ザックスは首を横に振った。
「違う。セフィは、この屋敷にはいない」
「どうして判る…?」
アンジールの問いに、ザックスはニパッと笑う。
「だってセフィって良い匂いするからさ。セフィがいた場所ならすぐ判る」

お前、どれだけ嗅覚発達してるんだ__内心で、アンジールは思った。
確かに側にいれば1回に1本使い切ると言われているシャンプーの薫りがするが、それは天然のハーブを使った穏やかな薫りで、決して強い匂いでは無い。
残り香まで感じ取れるなら、犬並みだ。

「だが、外に行く筈は無いと思うが…」
言ってから、そうでもないかとアンジールは思い直した。
セフィロスはとも角、ジェネシスが真面目にかくれんぼに付き合うとは思えないし、2時間も大人しく隠れているなんて、尚更、考え難い。
「やはり、2人でどこかに行ったかも知れん」
「えー。かくれんぼなのに、そんなのずりーじゃん」
「だが、隠れるのは敷地内だけだというルールを決めた訳じゃ無かったしな…。そう言えば、ジェノバの姿も見えないな」
もしかして、また擬態して3人で出かけたのか?__そう、アンジールは訝しんだ。
さすがにもうジェネシスも、セフィロスが擬態した女の子に恋をしたりはしないだろうが、セフィロスが小さな子供に擬態すれば、彼ら3人は若夫婦と子供に見えなくも無い。
美しい夫婦と可愛いらしい子供は、周囲の目にさぞ華やかに映るだろう。
昔からナルシストの傾向のあるジェネシスなら、喜びそうなシチュエーションだ。
一方のセフィロスは、これもかくれんぼの内なのだと言いくるめられれば素直に信じるだろうし、ジェノバもセフィロスとの外出を楽しんでいるかも知れない。

その時、アンジールの視界を黒い小さな何かが過ぎった。
窓の外に舞い落ちた、1枚の黒い羽根だ。
「上か…!」







back/next