猫を見つけると『ニャー』のみで猫と会話を試みる【セフィロス】


(3)



ザックスを抱きかかえて屋根の上に昇ったアンジールの目に入ったのは、予想もしていなかった光景だった。
「『ニャー』」
「……ミャウ…」
「『ニャー、ニャー』」
「ミャオゥ…」

……な…何じゃ、こりゃあ……!?

「可愛いー!超可愛いー!めっさ可愛いー!ごっさ可愛いー!」
愕然としたアンジールの腕の中で、ザックスがはしゃぐ。
「お…おい、暴れるな。一旦、降ろすぞ?」
「何ソレ。超可愛いんですケド?」
どこの女子高生だという台詞と共に歩み寄るザックスを__と言うより、その先にある光景を__アンジールは呆然と見つめた。
屋根の上に座ったセフィロスが、目の前にいる仔猫に話しかけている。
「『ニャー』」
「ミャウ」
「『ニャー』?」
「ミャウ、ミャウ…」

……嘘だろう…?誰か、嘘だと言ってくれ……!

脳内で、アンジールはのた打ち回った。
ジェネシスの熱心さとは比べ物にもならないが、アンジールも少年の頃はセフィロスに憧れていたのだ。
自分と同じ年頃くらいなのに、どんな手ごわいモンスターも一撃で倒し、『英雄』と賞賛されるセフィロスの強さと毅然とした雰囲気に憧憬の念を抱き、ああなりたいと思っていた。
その『英雄セフィロス』が、猫に『ニャー』で話しかけている……

「こんなにちっちぇえのに、よくこんな高い所まで昇れたな」
「モンスターの背に乗って遊んでいたら、ここで降ろされて置き去りにされたらしい」
「へー。悪い兄ちゃんだなー」
ザックスとセフィロスの会話に、アンジールは我に返った。
そう言えばセフィロスは、ぬいぐるみに話しかけて陥落と言うか屈服と言うか、とにかく服従させようとしていた。
結果は失敗だったが、ぬいぐるみに魂が宿ったのは事実だ。
(但し、翌日には元に戻った)
そんな能力を持っているなら、猫と会話が出来ても不思議ではない。
「……セフィロス。お前もしかして、猫と会話が出来るのか……?」
「ああ」
アンジールの問いに、あっさりとセフィロスは答えた。
考えてみれば、モンスター達を意のままに従える事が出来るのだから、動物と会話が出来るのは、むしろ当然かもしれない。
が。
『ニャー』で話すのは止めて欲しかったと、心からアンジールは思った。
一線を退いた今でも、セフィロスに憧れている者は多いのだ。
彼らがセフィロスのこんな姿を知ったら、どんなにショックを受ける事か……

アンジールがふと目を上げると、無言で俯いているジェネシスの姿があった。
セフィロスから少し離れた場所で、しゃがみ込んでいる。
自分がショックを受けたせいで気が回らなかったが、今、一番ショックを受けているのはジェネシスだろう。
初めて雑誌で『英雄セフィロス』の姿を目にした時から、ジェネシスの生きる目標はセフィロスになった。
誇張でも何でもなく、それほどにジェネシスのセフィロスに対する憧憬と賞賛の念は強かったのだ。
しかもここ数日はセフィロスが12歳頃の姿になっているせいで、ジェネシスはかなりナイーブになっている。
そんな時に、仔猫と『ニャー』で話すセフィロスの姿など見てしまったのだ。
そのショックがいかばかりかは、計り知れない。

「……ジェネシス」
幼馴染に歩み寄り、アンジールはそっと声を掛けた。
ジェネシスは俯いたままで、その肩が幽かに震えている。
「何と言うか……お前の気持ちは判るが…」
「…っ…」
声にならない声が、ジェネシスの唇から漏れる。
どう、慰めて良いのか判らず、アンジールは口を噤んだ。
「…んなの、無しだ……」
「ジェネシス…?」
「俺は今までセフィロスを……。それなのに、こんな……」

低く、殆ど呻くように言った幼馴染の姿に、アンジールは胸が痛むのを感じた。
多感な少年の頃から、ジェネシスは10年以上もずっとセフィロスに憧れ続けて来た。
ソルジャーになってからは人に弱味を見せまいとして、セフィロスに対する憧れを本人に対して露にはしなかったが、それでも、ずっと憧れる気持ちはあったのだ。
その事は、兄弟のようにして育った幼馴染の自分が、誰よりも良く知っている。
そしてそれが判るだけに、安易な慰めの言葉を口にする事は、アンジールには出来なかった。
ただ黙ったまま、ジェネシスの肩に手を置く。
「こんなの無しだろう、アンジール?」
殆ど反射的に、アンジールの肩を掴んでジェネシスは言った。
「親しく付き合うようになって、セフィロスが信じられないくらいに世間知らずなのも、あり得ない位に天然なのも、意外に素直なのも知るようになった。『孤高の英雄』は勝手に作られたイメージで、実は人付き合いの仕方が判らないだけだったのも…」
だが、と、ジェネシスはうわごとの様に続けた。
「それでも、セフィロスが俺の英雄である事に変わりは無かった…。呆れるくらいに天然で世間知らずでも、戦場で誰よりも強く、毅然としている事に変わりは無かったからだ。それなのに……」
「ジェネシス……」
「それなのに…可愛いなんて反則だろう…!!」

……は……?

アンジールは、自分の耳を疑った。
何かに取り憑かれたかのように、ジェネシスは続ける。
「何なんだ、あの可愛さは?仔猫と会話している?しかも『ニャー』で?セフィロス自身が仔猫以上に可愛いだなんて、そんな事が許されるのか!?」
嫌……許されるとか許されないとか、そういう問題じゃ__その言葉は、アンジールの口からは出なかった。
「セフィロスは英雄だぞ。最強のソルジャーだぞ?それなのに、何であんなに可愛いんだ?そんな事があり得るのか?俺はお前のペットのたわ言に毒されてしまったのか?」
「嫌……それは……」
ジェネシスの剣幕に押されながら、アンジールはザックスの方を見遣った。
ザックスは、セフィロスと一緒になって『ニャー』で仔猫と話している。
「『ニャー』」
「ミャウ」
「『ニャー、ニャー』」
「ミャオゥ…」

…………

最早どう、反応して良いのか判らず、アンジールは暫く呆然とその光景を眺めた。
バサっという羽音で、アンジールは幼馴染に視線を戻す。
「ジェネシス?どこに行くんだ?」
「携帯を取りに行く」
「携帯って、まさか__」
「写メ、いや、動画だ。セフィロスの超可愛い姿を記録する!」
唖然とするアンジールを尻目に、猛然とジェネシスは飛び立った。
ただ呆然と、アンジールはジェネシスを見送る。
「『ニャー』」
「ミャウ、ミャウ」
「『ニャー、ニャー』」
「ミャオゥ…」
その視界の隅で、セフィロスとザックスは飽きもせず仔猫と会話している。

マジかよ………

最早、固まるしか無いアンジールを他所に、神羅屋敷の1日は、その日も平穏に過ぎて行った。








■猫を見つけると『ニャー』のみで猫と会話を試みる【セフィロス】
ヴィジュアル的には可愛いと思います。
セフィなら動物と会話くらい、出来そうだし。
ただ、森川ボイスでやられたら、ちょっとアレかも……(^_^;)
仔セフィなら、文句無く可愛いです♪

ちなみにザックスは猫と会話できる訳ではなく、無意味に『ニャー、ニャー』言ってるだけです。


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