猫を見つけると『ニャー』のみで猫と会話を試みる【セフィロス】


(1)



「何、セフィ、ちっちゃくなってるー!?」
その日、神羅屋敷に遊びに来たザックスは、セフィロスの姿を見るなり歓声を上げた。
「可愛いー!超可愛いー!!」
「あ…おい、ザックス__」
セフィロスに駆け寄ろうとしたザックスをアンジールが止めかけた時、いち早くザックスを羽交い絞めにしたのはジェネシスだ。
「何すんだよ、いきなり」
「セフィロスに近づくな、駄犬」
ザックスの抗議に、低くジェネシスは言った。
いつもの事ながら、殺気を背負っている。
「あのな、ザックス。セフィロスは髪に触られるのが嫌いなんだ。だから抱きついたり撫でようとしたりしたら駄目だ」
「えー、何で?こんなに可愛いのに」
「黙れ、駄犬。嫌、このまま首の骨をへし折って永遠に黙らせてやる」
ザックスに対して相変わらず嫌悪感むき出しのジェネシスに、アンジールは溜息を吐いた。
「まあ、落ち着け、ジェネシス。騒ぐとセフィロスとジェノバの邪魔になるぞ?」

アンジールの言葉に、ジェネシスは渋々ザックスから手を離した。
当のセフィロスとジェノバは、周囲の様子など全く目に入っていないかのように見つめ合っている。
2人でそうして『会話』している時には、周囲で何が起きようが完全無視だ。

「なあ、アンジール。何でセフィ、ちっちゃくなってんの?」
ジェネシスの腕から解放されたザックスは、率直に訊いた。
アンジールはジェノバの望みと、セフィロスがそれを叶える為に数日前から少年の姿でいる事を、かいつまんで話した。
「へえ…。セフィって、本当に親孝行なんだな」
「…黙れ、駄犬。貴様などに、セフィロスの何が判る?」
感心して言ったザックスに、再び呪うようにジェネシスが言った。
幽かに、アンジールは眉を顰めた。
ジェネシスがザックスを毛嫌いするのは今に始まった事では無いが、この反応はいつもに増して過剰だ。
「ザックス…。ちょっとこっちを手伝ってくれ」
ザックスの手首を掴み、アンジールは別室に相手を引っ張って行った。

「何だよ、アンジール。ジェネシスの奴、何であんなにカリカリしてんの?」
「ジェネシスはな、ザックス。セフィロスに憧れてソルジャーになったんだ」
「オレも♪」
アンジールの言葉に、ザックスは明るく笑う。
「お前の場合、セフィロスのような英雄になれば女の子にもてると思ったのが動機の大半じゃないのか?」
「まあ、ね。それもちょっと、あったかも」
軽く笑って言ったアンジールに、ザックスは天真爛漫に答えた。
ザックスのような少年は、他にも沢山、いただろう。
だが、と、アンジールは続ける。
「ジェネシスの場合は、もっとずっと真剣だった。あいつは元々、あまり身体が丈夫じゃなかったからな。坊ちゃん育ちだし、普通ならソルジャーになるなんて、とても考えられなかった」

ジェネシスが初めて雑誌の記事で『英雄セフィロス』を知った時の事を、アンジールはザックスに話した。
ジェネシスはまるで恋に取り憑かれたかのように目を輝かせ、セフィロスへの賞賛と崇拝の言葉を滔々と語った。
その熱意にアンジールも引き込まれて時間が過ぎるのも忘れ、夜遅くに家に戻ったために、心配したジリアンにこっぴどく叱られたものだ。

「…あいつ、そんなにセフィの事、好きなんだ」
珍しく神妙な面持ちで、ザックスは言った。
アンジールは頷いて続ける。
「その雑誌に載っていたセフィロスが、お前もさっき見た通りの年頃だったんだ。だからジェネシスは、あの頃の事を思い出すんだろうな」
「セフィって、あんなにちっちゃい頃から英雄だったのか?」
幾分か意外そうに、ザックスは言った。
「実際には、あの2年くらい前から英雄と称されていたらしい」
「それって、完全に子供じゃん。オレが14で幼年部隊に入った時だって、『こんな子供を兵士にするなんて世も末だ』って、散々、おっさん達に言われたのに…」
「そうだ…な」
しんみりと、アンジールは言った。

セフィロスが初陣の時には、まだ声変わりもしていない子供だった。
そもそもセフィロスがソルジャーになったのは、本人の意思とは無関係だ。
神羅カンパニーの利益追求の為の実験によって生み出され、その高い戦闘能力の故にソルジャーとして利用された。
アンジールとジェネシスも同じ実験で生まれたが、失敗作と看做された為に自由の身となったのだ。
それなのに神羅のソルジャーとなる道を自ら選んでしまったのだから、皮肉なものだ。
もしも神羅カンパニーに関わる事無くずっとバノーラにいたら、自分たちが何者であるか、一生、気づかずに過ごしたかも知れない……

「セフィがあれよりももっとちっちぇえ時からソルジャーだったなんて、そんなの…」
俯き加減に、ザックスは言った。
握り締めた拳が、心なしか震えている。
「そんなのって……」
「…ザックス」
「可愛い過ぎるじゃないかー!!」
……は……?
全く予想外の言葉に、アンジールは唖然としてかつての後輩を見た。
ソルジャー特有の蒼い瞳が、一昔前の少女漫画のようにキラキラと輝いている。
「アンネロッテは大きくなってからも可愛かったケド、仔猫の時なんかめちゃくちゃ可愛くってさー。でもちっちぇえセフィって、アンネロッテが仔猫だった時より可愛い♪」
「……ザックス……?」

半ば固まりつつ、アンジールは相手の名を呼んだ。
さっきの『世も末』発言の時のシリアスな雰囲気は、どこに行ってしまったんだ…?

「10歳くらいでもう、あの正宗使ってたのか?ちっちぇえのに?それって超かわいくね?」
「さあ…。さすがに10歳であの長刀を扱うのはかなり無理があるんじゃ無いかと……」
「何か童話に出てくる一寸法師みてぇ。うわー、可愛い過ぎ〜v」
嫌……いくら10歳でも、そこまで小さくないだろう__内心で、アンジールは突っ込んだ。
「んで?10歳の時にも素肌に革のロングコート着てたのか?」
「嫌…あの頃はもう少し露出度が低__」
「うっわー、ヤベー。児童ポルノみてぇ」

ヤバイのはお前の発想だ__再び内心で、アンジールは突っ込む。
何より、こんな台詞がジェネシスの耳に入ったら、血を見るのは間違いない。

「あのなあ、ザックス。俺の話を、ちゃんと聞いていたのか?」
「セフィが昔から可愛かった、ってのは判った」
「そうじゃ無くてだな。ジェネシスに取ってセフィロスは、崇拝に値する程の憧れの的なんだ」
「セフィの可愛さを判ってもいない癖に?」
アンジールは、思わずこめかみを押さえた。
どうして俺の友人たちは皆、人の話をまともに聞かずに突っ走るのだろうと、内心で溜息を吐く。
「…俺が言いたいのは、今のジェネシスはセフィロスに関してちょっと過敏になっているって事だ。お前がセフィロスを可愛いだの何だの言えば、本気で怒るだろう」
「いつだって本気で怒ってるじゃん」
アンジールは、首を横に振った。
「あれでも、手加減している__今までは…な」
「そうなんだ…」
言って、ザックスは何度か瞬いた。
「判ったら、ジェネシスを刺激するような言動は謹んでくれ。頼む」
「アンジールの頼みなら、断れないな」
にぱっと笑って、ザックスは言った。
判ってくれたかと、アンジールはほっと胸を撫で下ろす。
「んじゃ、オレ、セフィと遊んで来る」
「遊ぶって、お前__」
「子供の姿になったんなら、子供らしく遊ばなきゃ、な?」
「ちょっと待て、ザックス…!」
足取りも軽く出て行ったザックスを、アンジールは追った。







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