ツンデレな【セフィロス】


(1)



アンジールは悩んでいた。
ジェネシスがセフィロスに恋をし、想い煩う余り部屋に引き篭もって食事も咽喉を通らなくなってしまったのだ。
恋をしたと言っても本人にその自覚は無く、ジェノバ細胞の暴走のせいで体調不良になっているのだと思っている。
「ジェネシスのヤツ、また食わなかったのか?」
ジェネシスの部屋から手付かずの食事を下げてきたアンジールに、ザックスは訊いた。
アンジールは頷いて、溜息を吐く。
「参ったな…」
「オレが代わりに食ってやるから大丈夫♪」
ニパッと笑ったザックスに、俺は残り物の心配をしているんじゃない、とアンジール。
「一昨日の昼から、丸二日、何も口にしていないんだ。さすがにどうにかしてやらないと…」
「んで?アイツ、風邪でも引いたんか?」
ジェネシスの分の朝食を平らげながら、ザックスが訊いた。

もう一度、アンジールは溜息を吐いた。
どうにかしなければならないとは思うが、どうしたら良いのか見当も付かない。
以前、ジェネシスに指摘された通り、アンジールは『おくて』で『恋愛下手』なのだ。
この手の事ならば、ザックスの方が得意かもしれない__そう、アンジールは思った。

「実は……どうやらジェネシスは、恋煩いをしているらしい」
「へー。病気でないなら、ほっとけば?」
思い切って打ち明けたアンジールに、ザックスは素っ気無く言った。
「…相手は、セフィロスだ」
「セフィ!?マジ!?」
やはり話さない方が良かっただろうかと後悔しながら、アンジールは頷いた。
「あー、でも判る気がするわ。ちっちゃくなったセフィを見るアイツの眼、ふつーじゃ無かったもん」
「だが…それは子供の頃からずっと憧れていたからで__」
「憧れとかだけじゃ無いな。あれは明らかに、サカリのついた猫の眼だった」
ザックスの言葉に鈍い頭痛を感じ、アンジールはこめかみを押さえた。
「でも心配すんなって。セフィはちゃんとオレが護るから」
「嫌……俺はジェネシスの方をどうにかしてやりたいんだが…」
「じゃ、失恋させよう」
即座に言ったザックスに、アンジールは眉を顰める。
「いきなりそれは乱暴すぎないか?そもそもジェネシスは、まだ自分が恋をしていると自覚もしていないのに」
「ソレって、どういう事?」

訊き返したザックスに、アンジールは前日の出来事をかいつまんで話した。
そして、少し前に5歳の女の子に擬態したセフィロスに、ジェネシスがプロポーズすると言い出した事も話す。

「下手に本人に自覚させると、またプロポーズとか言い出しかねないしな…」
それに、セフィロスが誰かに恋をして告白の練習をしているのだと思い込んだ時には、相手を切り刻んで焼き尽くしたいと物騒な事を言っていた。
だから本人に自覚させたものかどうか悩んでいるのだと、アンジールは説明した。
「じゃあ、『セフィに他に好きな人がいるから諦めさせる作戦』は使えないな。セフィは何したって可愛いから、『幻滅させる作戦』も無理だし」
となったら、と、ザックスは嬉しそうな笑みを浮かべて続ける。
「『セフィがジェネシスを嫌いだってはっきり判らせて諦めさせる作戦』しか無いよな」
「嫌…友情まで壊れるのは困る」
「大丈夫だって。オレに全部、任せてくれよ」
「本当に、大丈夫なのか…?」
「大丈夫。問題ないって」

念を押したアンジールに、ザックスは明るく笑った。
明るく笑ってはいるが、何故か悪魔の翼と尻尾が見える。

「ザックス…。やはり、もう少し様子を見てからの方が__」
「このまま放っておいたら、ジェネシスのヤツ、本当に病気になっちまうぜ?それにこーゆー事は、早い内に諦めさせた方が、傷が浅く済むんだ」
「……まあ…それはお前の言う通りかも知れんが…」
悩むアンジールに、ザックスはもう一度、「大丈夫♪」と明るく言った。
「オレがセフィにどうしたら良いか話して来るから、アンジールはジェネシスに、自分が恋をしてるんだって自覚させて来てよ」
「自覚させてしまって大丈夫なのか?」
「まずは自覚させなきゃ、失恋もできねーじゃん?自覚させるトコから始めねえと、ジェネシスのヤツ、ずっと今のまんまだぜ?」
満面の笑顔で、ザックスは言った。
その妙に嬉しそうな態度と背後にちらつく悪魔の翼と尻尾が気にはなったものの、他にどうして良いのか判らず、アンジールはジェネシスの部屋に向かった。



「俺がセフィロスに恋をしている…だと?」
アンジールの言葉に、ジェネシスは幽かに眉を顰めた。
そうだ、と、アンジールは頷く。
「セフィロスの事を考えると心臓がどきどきするとか食事が喉を通らなくなるとか、どう考えても恋患いだ」
「馬鹿な…。俺のこの症状は、俺の中のジェノバ細胞が暴走しているだけの筈だ」
「じゃあ、訊くがな。お前、今のセフィロスの事をどう思う?」
ジェネシスは、すぐには答えなかった。
ただ黙って、視線を宙に漂わせる。
それから、「可愛い…」と呟く。
「猫と『ニャー』で会話する姿も、とんがりコーンを指にはめて食べる姿もたまらなく愛らしい。特に、ぬいぐるみと一緒に寝ている姿を想像なんてすれば__」
「お…おい、ジェネシス…!?」
途中で言葉を切り、猛然とダッシュして部屋を出て行ったジェネシスを、アンジールは追った。







back/next
wall paper by Futta.NET