ツンデレな【セフィロス】


(2)



ジェネシスはまっすぐセフィロスの部屋に向かったが、そこにセフィロスの姿は無かった。
「下か…」
呟いて踵を返そうとしたジェネシスを、アンジールは何とか引き止めた。
「どうする積りなんだ、ジェネシス?」
「決まっているだろう。セフィロスにプロポーズする!」
またか__アンジールは、頭痛を覚えた。
「頼むから落ち着いてくれ、ジェネシス。セフィロスは、男だぞ?」
「それがどうした」
「それがどうしたって……」
唖然として、アンジールは幼馴染の顔を見つめた。
「男同士で結婚できないのは判っている。だが、俺たちはどうせ死んだことになっているんだ。今更、法律に従う義務など無い」
「嫌……法律とか、そういう問題じゃ無くて__」
「邪魔をするなら、お前でも容赦しないぞ」
険しい表情で言って、ジェネシスはレイピアの柄に手を掛けた。
目が据わっている。
どうやら説得は無理そうだと、アンジールは思った。
悪魔の尻尾が気になるが、こうなったらザックスの作戦に賭けるしか無い。

1階に下りて行くと、セフィロス、ジェノバ、ザックスがリビングで座っていた。
セフィロスの姿を見ると、ジェネシスは恍惚とした表情を浮かべた。
そして芝居がかった仕草で両腕を広げ、ゆっくりと相手に歩み寄る。
「セフィロス…」
セフィロスはジェネシスを瞥見し、ツンと顔を背けた。
「話しかけないでくれ」
ぴくりとジェネシスの肩が震えるのを、アンジールは複雑な想いで見た。
子供相手の恋なんて絶対に認められないと思ったが、それでもジェネシスは真剣なのだ。
あまり邪険にするのは、可愛そうな気もする。
しかしながら、大人が子供に恋をしたという時点で痛すぎるのだ。
ザックスの言った通り、傷が浅いうちに諦めさせてやるのが本人の為だ。
「セフィロス…。あんたに話したい事が__」
「話しかけるなと、言った筈だ」

ジェネシスから視線を背けたまま、セフィロスは言った。
胃が重苦しくなるのを、アンジールは感じた。
作戦だと判っていても、友人からこんな言われ方をするのは辛い。
ましてやジェネシスは、今、セフィロスに恋をしているのだ。
それなのにこんな事を言われてどれだけ傷つくことか、想像に余りある。

「…なあ、ザックス。幾らなんでもこれは__」
しっと唇に指を当てて、ザックスはアンジールの言葉を遮った。
そして声を出さず、口の動きだけで「大丈夫」と伝える。
本当に大丈夫なのか…?__内心で、アンジールはザックスに訊いた。
ジェネシスと仲が良くないザックスに相談したのが間違いだったかもしれないと、後悔する。
しかしセフィロスに相談しても解決したとは思えないし、全く食べ物が咽喉を通らない状態になっていたジェネシスを放って置く訳にも行かなかった。
今は、このまま様子を見るしかない。
ジェネシスはすっかり蒼褪め、何も言えずに佇んでいる。
「出て行ってくれないか?目障りだ」
「…っ…」

セフィロスの言葉に、ジェネシスの唇から言葉にならない声が漏れる。
ジェネシスは俯いた。
握り締めた拳が、小刻みに震えている。

「俺が……何をした…と……?」
俯いたまま、震える声でジェネシスは言った。
セフィロスはジェネシスを瞥見し、すぐにまた視線を逸らす。
「俺は、ナルシストが嫌いだ」
「セフィロス…」
顔を上げて、ジェネシスはセフィロスを見た。
呆然とした表情で、「信じられない…」と呟く。
「俺は…子供の頃からあんたに憧れていた…。あんたの記事を読みたくて、バノーラでは手に入りにくかった雑誌を両親にせがんで買ってもらった。ソルジャーになったのも、少しでもあんたに近づいて、あんたの事を知りたかったから……」
ジェネシスの言葉に、セフィロスは幾分か当惑したような表情を浮かべ、傍らのザックスを見た。
ザックスは再び、「大丈夫」と口の動きだけで言う。
「だが俺は…ろくにあんたの事を理解していなかったようだ。まさか、あんたが……」
「ジェネシス」
思わず、アンジールは幼馴染の名を呼んだ。
今すぐ、この作戦を止めさせなければならない。
さもなければ、ジェネシスが失恋するどころか、セフィロスとの間の友情が台無しになってしまう。
「ジェネシス。これには訳が__」
「まさか、あんたがツンデレだったなんて……!」

……は?

アンジールの言葉を無視して、叫ぶようにジェネシスは言った。
蒼褪めていた頬は紅潮し、蒼い目がギラギラと輝いている。
「何て萌えなんだ!ただでさえ超可愛いのにその上、ツンデレ属性まで備えているとは…。これは奇跡か?そうなのか?」
セフィロスは不思議そうな顔で何度か瞬き、ザックスを見る。
「ツンデレって何だ?」
「もう、限界だ…!」
ザックスが口を開く前に、ジェネシスが叫ぶと同時にジャンプした。
座っていたセフィロスに抱きつき、椅子ごと絨毯の上に倒れこむ。
「この馬鹿リンゴ野郎、セフィを離せ…!」
「ジェネシス!ザックス!」
ジェネシスとザックスの2人を止めようとして駆け寄ったアンジールが見たのは、凍りつくような冷たい表情で、すっと手を上げるジェノバの姿だった。
ド…ンという轟音と共に、ジェネシスとアンジールの身体は壁を突き破って隣室まで吹き飛んだ。
「…それで?次は何を言えば良いんだ?」
ジェノバに抱き起こされたセフィロスは、そう、ザックスに訊いた。
「『朽ち果てろ』…かな」
「それで、本当にジェネシスの病気が治るのか?」
「んー、多分……(ムリ)」

引きつった笑顔で、ザックスは答えた。
ブリザガの直撃を受けたアンジールの身は心配だが、アンジールの隣には、ジェネシスが転がっているのだ。
今、下手にアンジールに近づいたら、ジェノバに殺されかねない。

「な…何かもう、ジェネシスの病気は大丈夫みたいだから、外で鬼ごっこでもして遊ばねえ?」
「鬼ごっこ?」
ザックスの言葉に、セフィロスは興味ありげに訊き返した。
いつの間にか集まって来たモンスター達も、興味津々といった風情だ。
「お前たちも一緒にやるか?そんじゃ、外に行こうぜ♪」
アンジール、ゴメン__内心でアンジールに謝りつつ、ザックスはセフィロスを促して庭に出た。



「……お義母さまへのご挨拶を失念するとは、俺とした事が迂闊だった…」
床の上に半身を起こし、服の埃を払いながらジェネシスは言った。
アンジールが盾になったので、ジェネシスは吹き飛ばされはしたものの、ブリザガの直撃は受けていない。
一方のアンジールは、全身から黒煙を吹き上げてのたうっている。
「セフィロスは箱入り息子だからな。自由恋愛より、古風な礼儀を優先させるべきだった」
今、優先して欲しいのはそんな事じゃない__内心でアンジールは訴えたが、声が出ない。
それにしても…と、恍惚とした表情で、ジェネシスが呟く。
「セフィロスとは何年も一緒にいるが、新たな魅力の発見が尽きないのは素晴らしい…。まさかあのセフィロスが、ツンデレなどという萌え属性を備えていたとは……」
嫌…ツンデレじゃないから。デレなんてどこにも無かったから__内心で、アンジールは突っ込んだ。
痛みをこらえて何とか瞼を開けたアンジールの目に写ったのは、頬を上気させ、目を輝かせてうっとりと宙を見つめているジェネシスの姿だ。
「あの美しい声で冷酷な言葉を吐き捨てられるのが、これ程までに萌えるとは思ってもいなかった……」

…マジかよ…

内心で、アンジールは呻く。
もしかして、こいつはM男だったのか?
ショタの上にマゾだなんて、痛いを通り越して目も当てられないぞ…?
アンジールの脳裏に、恍惚とした表情で12歳のセフィロスの前に跪き、許しを請うジェネシスの姿が浮かんだ。
「@#▲×○■……!」
床の上で悶絶するアンジールを他所に、神羅屋敷の1日は、その日も平穏に過ぎて行った。








■ツンデレな【セフィロス】
セフィはツンデレよりツンツンだと思います。
デレは無い。
と言うか、デレなのはジェノバ・ママに対してだけ。

それにしてもこのシリーズ、すっかりジェネシスのキャラ崩壊とアンジールの受難記になっている気が…(^_^;)


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