バノーラ・ホワイト

(2)



アンジールとジェネシスはその足でソルジャー統括を訪れ、アンジールの休暇を申請した。
統括は眉を顰めた。
「親の死というのは普通なら確かに休暇申請理由になるが……明日からの遠征、セフィロスに指名されているのを忘れた訳ではないだろうな?」
しかしそれにしても、と、統括はアンジールの顔を見て続けた。
「ソルジャークラス1stとは言っても、所詮、16歳の子供か」
「これには色々と訳がある」
むっとして、ジェネシスは統括に反論した。
「それをセフィロスが納得してくれれば良いがな」
ぼやくように言って、統括は内線電話に手を伸ばした。

程なく、呼び出されたセフィロスが姿を現した。
「呼び立てて済まなかったな。この2人が明日からの任務の事で、話があるそうだ」
セフィロスは黙ったまま、アンジールたちの方を見遣った。
「…ジェネシス。やはり俺は__」
「お前は黙っていろ__セフィロス、頼みがある。明日からの遠征、アンジールを外してくれないか」
アンジールを遮って、ジェネシスは言った。
セフィロスは、幽かに眉を顰めた。
「理由は?」
「アンジールの父親が亡くなったんだ。たった今、知らせが届いた」
「それがどうしたと言うんだ」
素っ気無いセフィロスの言葉に、ジェネシスは一瞬、言葉を失った。
そして、一気に怒りが込上げる。
「それがどうした、だと?あんたにだって親はいるだろう」
「俺に親はいない。特に父親の事は、何も知らない」
セフィロスの言葉に、ジェネシスは再び言葉を失う。

セフィロスには光り輝くばかりに美しい母親と、息子を誇りに思ってやまない父親がいるものだと、勝手に思い込んでいたのだ。
雑誌にセフィロスの武勇伝が華々しく書かれながら出自に関する一切の記事が無いのは、セフィロスの家族をマスコミから護るためだと思っていた。

「だから父親が死ぬ、というのがどういう事か、俺には良く判らないが…」
言って、セフィロスはアンジールを改めて見た。
「酷く辛そうだな。明日からの遠征は無理だろう」
「……済まない…」
呻くように、アンジールは言った。
セフィロスは踵を返し、統括に向き直る。
「明日からの遠征は中止だ」
「な…にを言い出すんだね、セフィロス?」
統括だけでなく、アンジールとジェネシスも呆気に取られ、互いに顔を見合わせる。
「クラス1stのソルジャーが2人も抜けたら、誰が神羅兵の面倒を見るんだ?」
「ちょっと待ってくれ、セフィロス。任務から外してくれと頼んだのはアンジールだけだ。俺は__」
「俺は、お前たち2人だから指名したんだ」
幾分か不機嫌そうに、セフィロスはジェネシスの言葉を遮った。
「お前は魔法は得意だが体力と腕力で劣る。アンジールはその逆だ。2人の連携戦ならば弱点を補った上に相乗効果も発揮できるが、一人では弱点に引き摺られるだけだ」

セフィロスの言葉に、ジェネシスはギリッと歯を噛み締めた。
アンジールは大切な幼馴染で親友だが、二人一組でなければ価値が無いように言われるのは屈辱以外の何ものでもない。

「…俺一人では、同行させる価値が無い、と?」
「そう、言ったんだ」
きっぱりとセフィロスに言い切られ、ジェネシスは臍を噛んだ。
まだ1stになって数ヶ月だが、それなりの実績は上げてきた積もりだ。
だがセフィロスの眼には、それは不十分にしか映らなかったらしい。
「セフィロス、済まない。やはり明日からの遠征、俺も行く」
そう言ったアンジールに、セフィロスは冷たい視線を向ける。
「足手まといになる可能性のある者など同行させられない。ただでさえ50人もの足手まといが一緒なんだ」
だから、遠征は中止だ__改めてソルジャー統括に、セフィロスは言った。
統括は、頭を抱える。
「…明日からの遠征がどれほど重要か、そして今という時機を逃せばそれがウータイ戦にどれほどの悪影響を与えるか、判らないような君じゃないだろう?」
「だったら俺一人で行く」
冗談じゃない、と、統括は椅子を蹴るようにして立ち上がった。
「君の身に万一の事があったらどうする積もりだ?」
「その発想がそもそも理解不能だと言っているんだ。足手まといの神羅兵と足手まといのソルジャーを連れて行くのがどんなプラスになる?」
統括は、溜息を吐いた。

セフィロスが機嫌を損ねると、手がつけられない。
以前も似たような事があって、「文句があるなら社長に言え」と言ったところ、セフィロスは本当にプレジデントに直接、抗議に行ったのだ。
その結果、厳重注意を受けたのは他ならぬ統括だ。
ソルジャー統括の身でありながら、配下のソルジャーの監督不行き届きだとされたのだ。
一方のセフィロスは、お咎めなしだったが。

「アンジール。明日からの遠征は、どうしても無理か?」
席を離れ、アンジールに歩み寄って統括は訊いた。
「いいえ、大丈夫です。行かせて下さい」
セフィロス、と、統括はセフィロスに向き直る。
「足手まといだと判断したら、見棄てて構わない。神羅兵も同じだ。彼らには彼らの指揮官がいるんだ。自分達の身は、自分達で護るべきだ」
だから、と、統括は続けた。
「予定通り、彼ら二人と神羅兵を同行させて、明日から遠征に行ってくれ。頼む」
セフィロスは暫く黙っていたが、やがて無言のまま踵を返し、部屋を出て行った。

「先に言っておくべきだったが、セフィロスに家族の事を訊くな。機嫌が悪くなる」
再び溜息を吐き、統括は言った。
「ソルジャー統括というのは、セフィロスのご機嫌取りが仕事だったのか」
憤りが収まらず、ジェネシスは言った。

確かに3ヶ月前の戦いでは、セフィロスと自分達の実力差は圧倒的だった。
だがそれでも、足手まとい呼ばわりされたのは許せない。
ここまで侮辱されたのは初めてだ。

「何とでも言え。今度、セフィロスが命令拒否でもすれば、確実に私の首が飛ぶ」
「申し訳ありませんでした。俺のせいで…」
「お前が悪いんじゃない」
統括に謝ったアンジールに、ジェネシスは言った。
理解が足りないようだから説明しておくが、と、統括は言った。
「お前達は確かに優秀なソルジャーだ。1stともなれば、貴重な存在でもある」
だが、と、統括は続けた。
「『英雄セフィロス』は、別格なんだ。お前達とは、価値が違いすぎる。そう言われて侮辱されたと思うのだったら、それは思い上がりと云うものだ」
悔しければお前達も『英雄』になってみせろ__そう言って、統括は2人を下がらせた。






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