十二国記の20題+αをナルトで書いてみました。
最後までクリア出来るといいなあ…(自信なさげ;)



御前を離れず



「御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約申し上げる」
「…いきなり何の真似ですか、カカシさん。跪いたりして」
「写輪眼のカカシとは世を忍ぶ仮の姿。実は俺は貝国の麒麟、海麒なんです」
「キリン…ですか」
「そして麒麟によって選ばれたアナタこそ、貝国の王、海王です。さあ、俺と一緒に貝国に帰りましょう!」
「帰るも何も、俺は木の葉生まれの木の葉育ちですよ?」
「それは卵果の時に蝕によって流されたからです。ついでに説明すると、貝国では子供は木に生ります」
「…シュールですねぇ…」
「でも翠の柱の館はちゃんとあるんですよね」
「何ですか、それ」
「遊郭です。でもイルカ先生には俺がいるから遊郭なんて必要ないですけどね〜」
「…あんたキリンだって言ったでしょう?俺には獣○の趣味はありません。てか、そもそもあんたと深い仲になった覚えだってありませんから」
「だ〜か〜ら〜今から深い仲になるんぢゃありませんかv王は麒麟の半身、麒麟は王の半身。すなわち伴侶です♪」
「うわっ!ちょ…っといきなり抱きつかないで下さい!」
「さあ、早く。俺の誓約を受け入れて俺だけのモノ…いえ、王になって下さい」
「何、訳の判らない__ってどこ触ってんですか!」
「麒麟が王を選ぶのは天意。天意に叛くと天罰が下りますよ〜?死にたくなかったら、『赦す』とおっしゃいv」
「離して下さい。ってか、離せ!こんなセクハラ脅迫まがいの事をされて『赦す』なんて言える訳が__」
「今、『赦す』って言いましたね?これからは主上と呼ばせて頂きます〜v」
「こ…んの腐れ変態上忍が〜〜〜!!!」

それが、平凡なアカデミー教師の万年中忍の一生を変える事件のほんの始まりだった。




初勅ですよ



半年後。
「初勅…ですか」
「はいvしゅじょ〜は無事、海王として登極する事になったので今後は勅命を下す事になります。王として初めて下す勅命が初勅です」
「何が『無事』ですか、何が。そもそもあんたに無理矢理拉致されてこちらの世界に連れて来られて、他国の王にいきなり生命を狙われるわ、将は勝手に軍を動かすわ、一楽のラーメンは食えなくなってしまったわで散々ですよ」
「でもさすが俺の見込んだしゅじょ〜です。お得意の受付スマイルで官吏たちの懐柔にあっさり成功して先行き明るいし、礼儀正しい良い子ぶりっこで他の国々の王の受けも良いし、笑顔を振りまくだけで民の支持も急上昇中なんですからねv」
「……貶されてる気がするのは何故ですか……」
「それに、しゅじょ〜の生命を狙った悪王に囚われてしまった俺を助けてくれた時、すっごい感動しました」
「麒麟が死ぬと王も死ぬそうですからね。やむを得ずです」
「んもう、しゅじょ〜ったら〜。俺としゅじょ〜の仲なんですから、照れなくたって良いじゃありませんか〜」
「語尾を伸ばさないで下さい、気色悪い。いい機会だから言っておきますけどね、どんなに付き纏われても俺はあんたと深い仲とやらになる気はないんです!だから風呂を覗いたりトイレにまで付いて来たり寝室に忍び込むのは止めて下さい!」
「駄目ですよしゅじょ〜。だって俺、『御前を離れず』って誓ったんですから」
「…『詔命に背かず』とも誓いましたよね?」
「はいvってあれ、しゅじょ〜何笑ってんですか?それもいつもの受付スマイルでなくって、すんごく人が悪そうに見えますよ?」
「今後、貝国の麒麟は王の半径30メートル以内に近づかない事。これをもって初勅とします!」
「そんなのあんまりです〜。王の無慈悲が過ぎると麒麟は失道の病に罹って死んでしまうんですよ?しゅじょ〜は俺を殺したいんですか?」
「勿論です(ドきっぱり)」
「しゅじょ〜ヒドイ〜(涙)それに、麒麟が死んだら王も死んでしまいますよ?」
「くっ…それは……。判りました。譲歩します」

「何人たりとも王の湯殿を覗く事、厠に同行する事、寝所に侵入する事を禁ずる」
厳かに宣下された初勅に、貝国の官吏は国の行く末を案じ、深〜い溜息を吐いた。




宝重を使いましょう



国境周辺を視察する貝国主従。突然、妖魔の群れが現われる。
「妖魔が…!どうしてこんな所に」
「国境近くですし、しゅじょ〜が即位してまだ間もないからですよ。この辺りにはうじゃうじゃいますよ」
「何をのほほんと言ってるんですか!あんたは妖魔がうじゃうじゃいるって判ってる所にわざわざ俺を連れ出したんですか!?」
「だって〜、宮殿に居たら官吏とかが邪魔でいちゃパラ出来ないじゃないですか」
「どこにいたってあんたといちゃパラする気なんぞありません!」
「そんなに怒らなくたって…。しゅじょ〜なら大丈夫ですよ。Cランク任務ばっかりだったけど、実は凄く強いんだって俺、知ってますから」
「Cランク任務ばっかりで悪うございましたね。ってか、あんたまさか俺一人を妖魔と戦わせる気ですか?」
「麒麟は慈悲の生き物だから戦いは好まないんです。それに血を浴びると穢れて病気になってしまうし」
「だったら口寄せ獣みたいなのは?」
「使令ですか?しゅじょ〜と二人っきりになるのに邪魔だから他国に使いに遣りました」
「アホですかあんたは!ああっ、妖魔の数がどんどん増えていく…」
「大丈夫です、しゅじょ〜。宝重をお使い下さい」
「え?でも俺、忍だったからクナイの方が慣れてるんですけど」
「今のアナタは万年中忍ではなく貝国の王です!さあ、自信を持って!」
「はいはい、判りましたよ。こうなったら自棄です!」

海麒カカシが見たのは、一流の料理人もかくやと思わせる華麗な庖丁さばきで妖魔をなぎ倒す海王イルカの勇姿だった。

宝重<ほうちょう>
各国に伝えられる、呪力を持った道具のこと。王のみが使うことができる。




主従関係 円満のコツ



貝国主従は挨拶と視察を兼ねて各国を訪問し、帰国の途に着いた。

「ねえ、しゅじょ〜。漣国や範国では王と麒麟がらぶらぶでしたね。俺たちももっといちゃいちゃしましょうよ〜」
「漣国や範国の麒麟は見目麗しい女性型ですからね。ああいう麒麟だったら俺も考えます」
「ヒドイ〜。男女差別反対です!」
「差別って……。戴国の麒麟は少年の姿ですが、謙虚で可愛いですよね」
「ええ〜。しゅじょ〜ってショタだったんですか〜?」
「違います(怒)そう言えば、恭国の女王は麒麟に手を上げてましたね」
「うわーしゅじょ〜、大胆vS○プレイがしたいんですか?」
「ああもう、あなたって人はどうしてそう話を訳の判らない方向に持って行こうとするんですか!」
「しゅじょ〜がいちゃいちゃさせてくれないのがいけないんです。俺は他に類を見ない珍しい銀色の鬣を持った麒麟ですよ?もっと大切にして下さい」
「白髪じゃなかったんですか」
「しゅじょ〜、アンマリです〜(涙)」
「(溜息)いい年こいて泣かないで下さい。俺だって何とかあんたとうまくやっていきたいと思ってるんです」
「…本当ですか?口からでまかせじゃないでしょうね?」
「本当ですって。その証拠にほら、わざわざ雁国の麒麟に頼んで蓬莱(日本)からこれを持ってきて貰ったんです」
「………………しゅじょ〜」

海王イルカが海麒カカシに見せたのは、一般には手に入らない動物園関係者必携アイテム、『キリンの飼育マニュアル』だった。




お仕事中につき



「どうしたんですか、しゅじょ〜。お仕事中に溜息なんか吐いて」
海麒カカシに問われ、海王イルカは苦笑した。
「アカデミーで、今頃、子供たちがどうしているんだろうと思いまして…。それに受付も、急に俺が抜けちゃったから、大変だったんじゃないかなって」
「俺が突然、アナタをこちらの世界に連れてきた事を、怒って るんですか?」
イルカは首を横に振った。
「勿論、最初は驚きましたし躊躇いもありましたが、今では全 ては運命だったと思っています」
「それを聞いて安心しました。俺自身、自分が麒麟だと知った ときは驚いたし信じられなかったですからね。ただ自分が麒麟 なんだと自覚するよりも早く、アナタに王気を感じたんです」
「王気…ですか」
カカシは頷き、続けた。
「麒麟のみが感じることの出来る、王に相応しい者特有の気配です。アナタに王気を感じた瞬間、俺はいてもたってもいら れない気持ちになったんです。貝国と貝国の民は王を必要としている。そしてそれは、アナタしかいない、と」
「王のいない国には妖魔がはびこり、天候は荒れ不作が続く_ _俺も初めてこの国の有様を見た時、何とかしなければならな いと思いました」
「貝国の民は皆、名君を迎えられた事を喜んでいますよ」
カカシの言葉に、イルカは照れくさそうに笑った。
「名君だなんて……。俺はただ、俺のやるべき事をコツコツと 行うだけです。貝国と、貝国の民の為に」
「主上のその真摯な態度と国と民を思う気持ちが、名君に何よ りも必要な素養なのだと俺は思います」
「俺に出来ることは限られていますが、出来るだけの事はしま す。これからも、補佐を宜しくお願いしますね」
「その事なんですが…」
口ごもったカカシに、イルカは幾分か不安げに眉を顰めた。
「…どうかしましたか?」
「麒麟は王の半身、王は麒麟の半身ですよね?」
「はあ…」
「『麒麟が王を選ぶのは、男が女を選ぶのに似ている。或いは 女が男を選ぶのに』と、雁国の王も仰ってます」
「そうなんですか」
「男が男を選ぶのも同じですよね?雁国だって王も麒麟も男 性ですし」
「……」
「雁国は王と麒麟がらぶらぶで、500年も国の安泰が続い ているんですよ!」
「…で、要するに何が仰りたいんですか?」
「俺たちが結ばれるのは天帝に定められた運命なんです!です から!もっといちゃいちゃしましょう、いちゃいちゃ!!」
「前から何度も言ってるように俺は__って抱きつくな!仕事 の邪魔だ!!」

ドルフィン・パンチを炸裂させた普段は温厚な王の姿に、王を 逆上させる麒麟って一体……と、官吏たちはこめかみを押さえ た。




使令と一緒



「カカシさん、カカシさん」
「どうしたんですか、しゅじょ〜。そんなに慌てちゃって」
「カカシさんには口寄せ獣みたいなのがいますよね?」
「ええ。使令の事ですね」
「その使令って、元は妖魔だと聞きましたが?」
「そうです。でも心配しなくて大丈夫ですよ。折伏(しゃくぶく)する事で妖魔を天の摂理に組み込み、二度と外れないように縛ってありますから悪さはしません」
「でも、使令は麒麟を食べるのだと聞いたんですが……」
心配そうに言ったイルカに、カカシは穏やかに微笑んだ。
「麒麟の死後、使令は麒麟を食べます。それによって麒麟の持っていた力を得る事が出来るんです。そしてその見返りがあるからこそ、妖魔は使令として麒麟の僕になるんです」
「そんな……」
「そういう契約なんです。それより主上、俺の死後のことまで心配してくれるんですか?」
「……考えてみれば、俺が王として道を誤らない限り、麒麟であるあなたが死ぬ事はないんですよね」
「俺は主上を信じています。だから死んだ後の心配なんてこれっぽっちもしてませんよ」
でも、と、カカシは続けた。
「しゅじょ〜に食べられるんだったら、生きている内でも全然OKですけど。ってかむしろ、生きているぴちぴちのうちに食べちゃって欲しいですぅ」
「……は?」
「しゅじょ〜を美味しく頂くっていうもの男のロマンなんですけど、しゅじょ〜と一つになれるんだったら俺が喰われても良いです。いえ、是非とも喰って下さい♪」
イルカはこめかみを押さえて溜息を吐き、それから言った。
「……判りました」
「ええっ?しゅじょ〜、マジですか!?今まで俺がどんなに口説いても首を縦に振ってくれなかったのは、ぢつは攻めがやりたかったんですか!?」
「…まあ、少なくともここは、イルカカメインのサイトですからねえ…」
「だったら最初からそう言ってくれれば良かったじゃないですか〜。しゅじょ〜にだったら俺、何をされても良いですぅv」
「でしたらまず、前菜の刺身から行きますか」
「男体盛りですか?しゅじょ〜ったらマニアック__って、その庖丁は何なんですか?もしかしてS○プレイ?」
「あなたの身体は脂肪が少なくて筋肉質ですから、煮込みにしないと固くて食べられないかも知れませんね」
「煮込み?ああ、お風呂プレイですねv__って、そんなに庖丁を研いだら危ないです〜。しゅじょ〜の為だったら○Mプレイでも何でもお相手しますけど、あんまり痛いのは……」
「勿論、生命に別状ないような部位を選ぶから安心して下さい。と言っても、麒麟は首を刎ねるか胴を切り離してしまわない限り、死なないんですよね?」
「…えと、あの、麒麟はとってもデリケートでか弱い生き物なんですけど……」
「聞いた話によると臀部が美味しいらしいですから、そこを切りますか」
「……しゅじょ〜?まさか、ほんとに文字通りの意味で俺の身体を食べる気じゃ__」
「『是非とも喰って下さい』とおっしゃったのはカカシさんですよ。俺はただ、あなたの望みを叶えてあげようとしているだけです」
「違います!それ違いますってば、しゅじょ〜!俺が言いたかったのは__」
「問答無用!!」

主である麒麟を助けるどころか、王と一緒になって麒麟を追い回す使令たちの姿に、麒麟と使令の関係って、こんなモノでは無かったハズではと、宮中の皆が深い溜息を吐いた。




王と台補



「カカシさん、こんな所にいたんですか。探しましたよ?」
「……しゅじょ〜」
「そんな恨めしそうな顔してどうしたんですか?今日は先月登極したばかりの暁国の王と麒麟が挨拶にみえる大切な日ですよ?」
海王イルカに問われ、海麒カカシは深〜く溜息を吐いた。
「その事なんですけど、キャンセルって訳に行きませんか?何だか俺、ものすご〜くイヤな予感がするんです」
「何、子供みたいなことを言ってるんですか。他国の王と台補(麒麟の敬称)がいらっしゃるのに出迎えない訳に行かないでしょう?さ、とっとと用意してください」
イルカに促され、カカシはしぶしぶと重い腰を上げた。

「お久しぶりです。イルカさん、カカシさん」
広間に現われたのは、鬼鮫を従えたイタチだった。
「うわ〜〜〜、やっぱり〜〜〜」
「イタチ……?暁国の新王と麒麟も胎果(卵果が孵る前に蝕に飲み込まれ、別の世界に流されてそこで生まれた者)だとは聞いていたが、お前がその王だったんだな」
思いっきり嫌がるカカシと対照的に、イルカは懐かしそうに微笑んだ。
「お前ならば忍としてもずば抜けて優れていたし頭もいい。きっと名君になれるよ」
「有難うございます」
「…っと待ってくださいってば、しゅじょ〜。こいつは一族皆殺しのS級犯罪者ですよ?こんなヤツが王だなんて絶対に有り得ません!」
「カカシさん、他国の王に対して失礼ですよ?それに一族皆殺しとかS級犯罪者とか、一体何の話ですか?」
「何の話って……はっ、まさかイタチ、しゅじょ〜に幻術をかけて記憶操作したな!?」
イタチは鼻で哂った。
「言いがかりは止めて頂きたい。あんまりうるさくすると、月読の世界にご招待しますよ?」
「うっ……」
唇を噛みしめ、ぷるぷる震えるカカシを尻目に、イタチはイルカに歩み寄った。
そしてイルカの手を取る。
「久しぶりにお会いしたのですからゆっくりとお話がしたい。どこか二人きりになれる場所に案内して頂けますか?」
「ああ、勿論だ。ところで…麒麟は一緒じゃなかったのか?」
「これが暁国の麒麟、堯麒です」
イタチが指し示したのは、さっきからずっと蚊帳の外に置かれ、幾分か拗ねている鬼鮫だった。
「これが…?てっきり妖魔だと__あ、嫌……」
「確かにこの姿ではまったく麒麟らしくありませんが、転変(人形から獣形になる事)すればそれなりに見えます」
くすりと笑って、イタチは言った。
「…申し訳ない。それではカカシさん、俺は堯王をご案内しているので、あなたは台補のお相手をしていて下さい」
「イヤです、ダメですぅ〜。そんな危ないヤツと二人っきりなんて、危険すぎますってば!」
「カカシさん、いい加減にして下さい。他国の王に対して失礼にも程があります。俺の海王としての面目を潰したいんですか?」
「しゅじょ〜(涙)」
「度重なる無礼、本当に申し訳ない」
「構いませんよ。埋め合わせは後でして頂きますから」
イミシンな台詞を残しつつ、堯王イタチと海王イルカは広間を後にした。

「……おい、鮫。イタチのヤツ何を企んでる?」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。イタチ様は天帝に選ばれたれっきとした王なんですから」
「有り得ない有り得ないぜぇぇぇったいに有り得ない!イタチが王だって以前に、お前が麒麟だなんて天地がひっくり返っても有り得ない!!だって鮫だし魚類だしエラ呼吸だしロレンチーノ器官だしアンモニアだし魚類のクセに胎生だし無駄にデカイし暁の中で一人浮いてるしガイに忘れられてるし」
「……イタチ様に逆らえないからって、私に八つ当たりするのは止めて下さい……」
「お前なんかフカヒレスープにしてやる〜!」
「ちょ……何、雷切発動しようとしてるんですか!あなたこそ慈悲の生き物に程遠いじゃないですか!!」
「人喰い鮫に対する情けなど持ち合わせていない!」
「私は鮫でも魚類でもありませんってば〜〜〜!!」

お茶を運んできた女官たちは、やはり胎果の麒麟はどこか変わってらっしゃると、密かに溜息を吐いた。






主従の日常



「しゅじょ〜、構ってくださいよ〜」
「俺は仕事と堯王のお相手で忙しいんです」
「イタチ様…麒麟は寂しいと死んじゃうんですよ…?」
「お前は魚類だから大丈夫だ」
貝国に挨拶に来た暁国新王イタチはそのまま貝国に逗留を続けることになり、海王イルカは公務の他は堯王イタチの案内に勤めた。
「では堯王。これから中庭をご案内しよう」
「昨夜の雨で足元がぬかるんでいますね」
言って、イタチはすかさずイルカに手を差し伸べた。
記憶操作されていてイタチに対して良い印象しか持っていない事と、他国の王に対する遠慮もあって、イルカは大人しくイタチの手を取った。
「ではカカシさん、俺は堯王をご案内していますから、あなたは堯麒のお相手をお願いしますね」
「イヤです、ダメですぅ〜。こんな魚類の顔なんて見てたら目がアンモニア臭で腐ってしまいます〜」
「カカシさん。これ以上、暴言を吐くなら幾らあなたでも許しませんよ?」
イルカの言葉に、カカシは仕方なく口を噤んだ。

「ああ〜っ、イタチのヤツ、しゅじょ〜に馴れ馴れしく触るな〜〜〜!!」
「アナタこそ、うちの主上を馴れ馴れしく呼び捨てにしないで下さい!」
王、二人が中庭を散策しているのを遠巻きに眺めながら、麒麟二頭は言い争いを始めた。
「うるさい、鮫。魚類のクセに麒麟を名乗るなんて不遜だ。海へ帰れ!」
「アナタのその暴言とヘタレ振りは麒麟の品位を貶めてますよ」
「何だと?この__ああああああッ、イタチの野郎、しゅじょ〜の肩に手を回しやがった〜〜〜!(怒)」
「イタチ様……、私という者がありながら、そんな万年中忍あがりのもっさり男に執着なさるなんて……(涙)」
「もっさりとは何だ、もっさりとは!俺のしゅじょ〜は笑顔が可愛い木の葉のアイドルだぞ!」
「判っています…イタチ様は視力が著しく低下していてもっさりと可愛いの見分けもつかなくなっているんですよね。黒髪だというだけで弟さんを思い出されているのかも……」
「一族皆殺し野郎が弟を思い出してどうする積りだ!」
「昔よく、『上忍師がカカシさんではサスケの成長はありえないな』って溜息ついてらっしゃいましたよ」
「何っ?」
「『確かにカカシさんは忍としては優秀だが教師には向かない。理想の教師はやはりイルカさんだ』って」
「……くっ……」
「いくら理想の教師だからって、自国の政務を放置してこちらに逗留し続けるなんて、イタチ様のお考えが判りません(泣)」
「………」
「………」
「「はああああああっ」」
麒麟二頭は、同時に溜息を吐いた。
「……お前らいつまで貝国に居座る気だ?」
「私だって早く暁国に帰りたいですよ。王がご不在では政務も滞るし…」
「とっととイタチを帰らせる方法は無いの?」
「それは私が聞きたいです…」
「「はああああああっ」」

こうして今日も貝国では、王二人が仲良く散歩し、麒麟二頭が仲良く溜息を吐き、平和な一日が終わろうとしていた。






女怪と麒麟



堯王イタチが貝国に居座り続けてはやひと月。
王二人が仲良く散歩しつつ政談に花を咲かせ、それを見守る麒麟二頭が時には仲良く溜息を吐き、時には激しく口論を戦わせるのもすっかり日常茶飯事と化したある日。
「そう言えば、カカシさんにも女怪がいるんですよね?」
まったりとお茶を飲んでいた海王イルカが海麒カカシに訊いた。
女怪とは麒麟の母親代わりとなって麒麟の世話をする女の人妖(人と妖獣の間に位置する存在)である。
「たくさんの獣が混じっているほど、よい人妖だとされるそうですが?」
「そりゃあもう、見事なくらいに混ざりまくってます♪」
嬉しそうに人型の時には無い筈の尻尾を振って、カカシが答えた。
混ざりまくってというカカシの言葉にイルカはあらぬものを想像してちょっと気分が悪くなってしまったが、そんな事には気付かずカカシは続けた。
「そこにいる堯麒なんかの女怪はどーせ魚類ばっかりなんでしょうけどね。それもイカとかシメサバとかカレイみたいなやつ」
「安い寿司のネタを並べないで下さい!それに私は魚類じゃありません!」
「鮫なんだから魚類に決まってんじゃん」
「どうせアナタは海にいるのは全部魚類だと思ってるんでしょうけど、海豚や鯨は哺乳類ですよ?」
「海豚は可愛くて頭が良いから別格なの!」
自分の恋人__とカカシが一方的に思っている__と同じ名の生き物を引き合いに出され、カカシはムキになって反論した。
とは言え、根拠が余りに貧弱で反論になっていないが。
「鮫だって胎生だから哺乳類なんです!」
「なにバカなこと言ってんの?」
「ほら、この本、見てください!」
堯麒鬼鮫が取り出した本には『鮫の一部は胎生なので哺乳類の仲間』との記述があった。
有り得ない…と顔色を失くすカカシと、得意げな鬼鮫。
と、それまで黙ってお団子を食べていたイタチがすっと手を伸ばし、鬼鮫の持っている本のページをめくった。
『とする誤解もよく聞かれますが、正しくは魚類の仲間です』
一転して言葉を失くす鬼鮫と、勝ち誇るカカシ。
二人とも、とても神獣には見えない。
「…確かに鮫には卵生のほかに卵胎生、胎生のものがいるが、呼吸方法や骨が哺乳類とは違うし、何より母乳で子供を育てないからな」
「さすが、しゅ__」
「さすがイルカさん。知識はかなりのもの…ですね」
カカシの言葉を遮って、イタチが言った。
さりげなくイルカの手に自分の手を載せている。
いつもならここでカカシと鬼鮫、二人揃ってやきもちを妬くところだが、余計な事を言ったばかりに墓穴を掘りまくった鬼鮫はそれどころでなく落ち込んでいた。
「…鬼鮫。鮫が魚類だろうが哺乳類だろうが、お前が麒麟である事に変わりはないだろう?」
「……イタチさま……」
「お前は俺の半身たる麒麟だ。心無い者から『魚類』呼ばわりされたくらいで気にする事は無い」
普段は自分も魚類呼ばわりしている事を棚に上げて、イタチは言った。
感動でうるうるする鬼鮫。
素晴らしい主従関係だと、こちらも感動するイルカ。
それがイタチの『イルカさんの高感度アップ作戦』だと気付いているカカシは悔しがったが、他国の王に面と向かって暴言は吐けない。

こうして今日も貝国では、王二人が仲良くお茶を飲み、麒麟二頭が仲良く涙を流し__カカシは悔し涙、鬼鮫は嬉し涙だが__平和な一日が終わろうとしていた。






官達の苦労日記



○月×日。
今日も暁国の王と台輔は貝国に留まっておられ、暁国にお帰りになるそぶりも見せない。
それどころかこのところは暁国の官吏たちが連日貝国を訪れ、政治上重要な会議などはすべてわが国で行っている。
我が貝国としては暁国の高級官僚たちをその地位に相応しくもてなさねばならず、その気苦労と出費は並大抵のものではない。

「…何とかして頂けないものでしょうか」
泣きついた大宰(天官の長)に、泣きつかれた海麒カカシは肩を竦めて見せた。
「俺も何度もしゅじょ〜に言ってみたんだケドね、うちのしゅじょ〜ってあの通り人が良くって可愛くて無垢で純粋なヒトでショ?暗部仕込みの腹黒イタチの口車にすっかり乗せられちゃって、追い払うなんてとてもとても…」
「腹黒とは何ですか、腹黒とは。大体アナタはうちの主上に対して無礼すぎます!」
抗議した堯麒鬼鮫を、大宰はまあまあと宥めた。
「問題は、堯王さまではないのです」
「何で?」「そうでしょうとも!」
麒麟二頭が仲良く奏でる不協和音にこめかみを押さえながら、大宰は続けた。
「堯王さまにおかれましては宮中の女官および一部の男性官僚の受けも良く、更には貝国国民からも特に女性からの支持が絶大で、写真集の売り上げでわが国の財政の一部を賄うほどの人気ぶり……」
写真集なんていつの間に__半ば呆然として、海麒カカシと堯麒鬼鮫は大宰が続けるのを待った。
「無論、堯王さまが長期に亘りわが国に逗留あそばされることによる出費や官達の気苦労、それに毎日大量にお召し上がりになられる団子のご用意など、頭痛の種は尽きませぬが、問題はその事ではないのです……」
「じゃあ、問題っていうのは?」
カカシの問いに、大宰は溜息を吐いた。
「堯王さまのお父君の事でございます」
ああ、やっぱり__麒麟二頭は仲良く顔を見合わせ、それから大宰が吐いたのより更に大きな溜息を吐いた。

うちはシスイが突然、貝国に現われたのは1週間ほど前の事だ。
暁のリーダーであった頃にはスオウと名乗っていた彼は、イタチがかの世界で鬼鮫と共に姿を消した日からずっとイタチを探し続け、ついにはその消息をつきとめてこちらの世界にやって来たのだった。
暁時代には自分がイタチの実父だとは名乗らなかったシスイだが(詳しくは暁お題参照)こちらに来てからは全てを告白し、子煩悩__と言うよりとんでもない親バカ__っぷりを発揮しまくっている。
何しろイタチの半径10メートル以内に誰もよせつけようとせず、女官が着替えを手伝うのはおろか、麒麟である鬼鮫が側に侍るのも禁じる始末だ。
その親バカさ加減にイタチは眉を顰め、鬼鮫は困惑し、カカシすら同情する程だ。
が、唯一イルカだけはシスイの『親の愛』に感動し、それが事態を一層、複雑にしている。

「シスイさまがこちらに来られてからは堯王さまの写真集は販売中止、ライブの計画まで中断させられて、あてにしていた売上金が全くはいらず果てはキャンセル料の問題まで発生して、貝国財政に重大な危機が迫っておりまする…」
ライブまで企画していたのか__なかば呆然とカカシは思った。が、ふと隣の鬼鮫に眼をやると、ぷるぷると打ち震えている。
イタチのライブ中止がよっぽどショックだったらしい。
「……じゃあ、俺たちに相談っていうのは……」
「はい。何とかシスイさまを説得して、堯王さまの写真集発売再開とライブを実現させて頂きたいと__」
「判りました!何が何でもお父君を説得し、主上のライブを実現させてみせます!!」

○月△日。
堯麒鬼鮫殿のご尽力により、何とか堯王の写真集発売再開とライブは実現に漕ぎ付け、ねっとおーくしょんでチケットが闇取引されるほどの盛況を呈している。
これでわが国財政も少しは潤う__筈なのだが、ステージ・パパと化してギャラアップを強行に交渉するシスイさまをどうすれば良いのか……

日記帳を眺め、大宰は大きく溜息を吐いた。






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