(20)


不意にチャクラを感じなくなり、カブトはその場に崩れ落ちた。
激しい疲労感に、立ち上がる気にもなれない。
一体、どれくらいの時間、あの凄まじいばかりのチャクラに威圧されていたのか、一体、眼の前で何が起こったのか、それすらも判らない。
のろのろと顔を上げて寝所の中を窺うと、業火に焼き尽くされた筈の部屋は元のままだ。
焔に見えたのは、具現化したチャクラだったのだ。
部屋の中に倒れているサスケとイタチの姿に気づき、カブトは鈍磨していた意識が醒めるのを感じた。
サスケが幽かに身じろぎ、上体を起す。
あれが大蛇丸であるならば、自分もイタチも、間違いなく殺される__

「イタチ…、イタチ!」
覚醒したサスケは、自分の傍らに横たわるイタチを抱き起こし、繰り返し名を呼んだ。
すぐにイタチも眼を開け、間近にサスケを見つめる。
「大丈夫か?どうしてあんたが……」
「お前が、無謀な真似をしたからだ」
幽かに微笑って、イタチは無事を確かめるようにサスケの頬に触れた。
「終わったようだな…。大蛇丸との、戦い」
「ああ。もうヤツの脈動は、欠片も感じない」
良かった、と、イタチは心から安堵したように溜息を吐いた。
それから、改めてサスケを見る。
「だが…一体、何をした?」
「意識下で大蛇丸と戦っていて、ヤツから使うなと止められていた禁術を使った。そうしたら急に凄まじいチャクラを感じて……後の事は、よく覚えていない」
「どうしてお前は、そうやっていつも無謀な真似をするのだ?」
「一つだけ、聞いてくれ。オレは__」

哀しげに表情を曇らせたイタチに言いかけた時、サスケは廊下に座り込んでいるカブトの存在に気づいた。

「そこで何をしている?」
「……サスケ君…なんだね?」
それが大蛇丸で無い事に安堵を覚え、カブトは言った。
まだ激しい疲労感は残っているが、どうにか立ち上がる。
「ドアを閉めて行け。暫くの間は誰もここに近づかせるな」
「…俺は無事だと、鬼鮫に伝えてくれ」
二人に頷くと、カブトはその場を後にした。




鬼鮫の病室に行くと、点滴チューブを引きちぎった鬼鮫が部屋から出て行こうとしている所だった。
「イタチさんは…?」
「無事だよ。サスケ君も」
まだ当分は動けない筈なのに、イタチへの想いが鬼鮫を動かしているのかと思いながら、カブトは答えた。
鬼鮫に付き添って部屋に戻り、ベッドに倒れ込むように横たわった鬼鮫の隣に腰を降ろす。
「一体……何があったんです?」
「僕にも詳しい事は判らない…。ただ、サスケ君が大蛇丸との戦いに禁術を使って、それでチャクラが暴走したようだ。多分、鎮めたのはイタチ君だろう…」
「…イタチさんと同じ能力(ちから)を、サスケさんも持っている、という事のようですね…」
どういう事だい?と、カブトは訊いた。
「アナタも感じたでしょう?腹の底から恐怖を覚えるような、言葉に尽くし難い凄まじいばかりのチャクラを。もう何年も前、大蛇丸と戦った時にイタチさんが発したのと同じチャクラでした」
「イタチ君が平然と焔に飛び込んで行ったのは、そういう事だったのか…」
焔?、と、鬼鮫は訊き返した。
「ではアナタも見たのですか?焔を纏って舞う、巨大な朱い鳥を」
鬼鮫の言葉に、カブトの脳裏にその時の光景が蘇った。

昏睡状態のサスケの点滴を取り替えようとしていた時、突然、サスケの身体が発火して、カブトは反射的にベッドから飛び退った。
次の瞬間、焔はそのまま部屋中に広がって燃え上がり、同時に威圧的なばかりの質量を持ったチャクラが空間を埋め尽くしてカブトは身動きが取れなくなった。
瞬きも出来ずに焔を見つめていたカブトの眼に映ったのは、サスケを追って焔に身を投じたイタチの姿と、その後に業火の中に現われた二羽の巨大な鳥…

「と言う事は、あの比翼の鳥はイタチ君の口寄せ__」
「比翼の鳥?」
相手の言葉を遮って、鬼鮫は言った。
比翼の鳥とは、常に一体となって飛ぶつがいの鳥だ。
雌雄それぞれが片翼を持ち、天を飛ぶ時には決して離れないとされている。
そしてかつて鬼鮫がイタチと大蛇丸との戦いで目にした鳥は、一羽だけだった。
「そういう事……ですか」
ある種の脱力感を覚えながら、鬼鮫は言った。
イタチの決意が固いのだと判ってはいたが、まだ心の奥底のどこかに未練は残っていた。
だが動かしようの無い運命を目の当たりにして、サスケからイタチを奪い返そうとしていた自分が滑稽にすら感じられる。
「……どういう事なんだ?」
訊き返したカブトに、鬼鮫は微苦笑した。
「あの鳥は、口寄せ獣ではありませんよ。それがどういう事なのか詳しくは私にも判りませんが…」
ただ一つだけ確かな事は、と、鬼鮫は続けた。
「あの二人は、比翼の鳥なんですよ……」




「一つだけ、聞いてくれ」
カブトが去ると、改めてイタチを抱きしめて、サスケは言った。
「オレが無謀なマネをするのは、あんたが側にいるからじゃ無い。あんたと引き離されそうになって、どうしても側にいたいから……」
「…そうだな。俺が側にいて止めなければ、お前は幾らでも無謀な真似を続けそうだ」
「だったら……」
期待と一抹の不安と共に言ったサスケに、イタチは静かに微笑んだ。
「もう、迷うのは止めた。これからは…お前と伊織と、ずっと一緒にいよう」
「イタチ……」
サスケは安堵の溜息を漏らし、間近にイタチを見つめた。
「…夢じゃないんだな?本当に……これからはずっと一緒にいられるんだな?」
「ああ……。もうお前たちと離れて暮らすことなど考えられない…」

囁くように言ったイタチを、サスケはしっかりと抱きしめた。
それからイタチに唇を重ね、しなやかな髪に指を絡める。
口づけが深くなり熱を帯びて行った時に、イタチはそっとサスケを引き離した。

「お前に、話しておかなければならない事がある」
「…後じゃ駄目なのか?」
少し拗ねたように言うサスケに、イタチは軽く笑った。
サスケの髪を優しく撫で、続ける。
「お前は無自覚の内に一族の祖先の力を解放してしまった。そしてそれは、とても危険な事だ」
「祖先って…」
サスケは眉を顰めた。
あの日、イタチに場所を教えられて南賀ノ神社地下にある一族の秘密の集会所に初めて行った。
そしてそこにある石碑に記されていた事実に、愕然としたのだった。
「うちはの祖先がバケモノだっていうのは、ただの伝説じゃ無かったのか…」
「尾獣よりも強い力を持つ妖魔だ。一族の伝承では、火を司る神獣とされている」

まだ火の国が別の名で呼ばれ、木の葉の里も存在していなかった昔。九尾の妖狐は度々国を襲い、人々を苦しめていた。
その頃の隠れ里で既に最強と謳われていた日向一族は九尾の妖狐との戦いに死力を尽くしたが及ばず、妖魔の力を借りる決意をする。
一族は当主の娘を生贄に差し出すことで妖魔の協力を得、その力を持って九尾の妖狐を斃そうとしたのだった。
生贄にされた娘は7日後に孕んで戻り、やがて男の子を産み落とした。
その子には生まれた時から不思議な力が備わり、僅か5歳の時に九尾と戦って岩戸に封じ込めたのだった。

「その、妖魔と日向の娘の間に生まれた子が、うちは一族の祖先だ…って訳か」
サスケの言葉に、そうだ、とイタチは答えた。
「写輪眼は元々その祖先から受け継いだ力を制御する為のものだが、完全にその力をコントロール出来るのは、万華鏡写輪眼を持つ者だけだとも言われている」
「…16年前に九尾が里を襲った時、うちは一族が特別な働きもしなかったのは万華鏡写輪眼を持つ者がいなかったからなのか?」
「それもあるが…人と交わって長い年月を過ごすうちに、祖先神から受け継いだ力がすっかり弱まっていたのも理由だ。岩戸に封じられていた九尾が復活したのもそのせいだ。かつて里の守護の中核を担っていた誇りある一族は、失われてゆく力をどうする事も出来ずにただ自分たちの保身に執心するだけの輩へと成り下がってしまっていた…」
サスケはあらためて、イタチを間近に見つめた。
「あんたには、その祖先神の力が備わっているんだな…」
イタチは小さく頷いた。
「お前にも同じ力がある事が、俺には判っていた。だが覚醒し切ってはいないし、覚醒させる方法も判らない。きちんと制御できないのに力を使うのは、とても危険だ」
それに、と、イタチは続けた。
「そんな力など無い方が、幸せなのかも知れない…」
「…何故…?」
イタチはサスケの髪に指を絡めたまま、言った。
「あの力は強大すぎる…。どんな敵でも倒し、どんな人間の生命も左右出来る。そんな力を使うことに慣れてしまったら__人間(ひと)の心を失ってしまうだろう……」
だからもう、その力を使う気は無いのだと、イタチは付け加えた。
サスケはイタチの頬に触れ、軽く笑った。
「あんたの言いたい事は判った。祖先神の力になんか頼らなくても、オレは必ずあんたと伊織を護る」
「…期待している」

言って、イタチも微笑んだ。
そのイタチを引き寄せて、サスケはもう一度、唇を重ねた。
互いの身体を愛撫するうちに口づけが熱を帯び、サスケは圧し掛かるようにしてイタチをその場に横たえる。

「…サスケ、傷が……」
「__ごめん…。まだ痛むのか?」
抗議するように言われて、サスケは幾分か慌ててイタチから手を離した。
復活した大蛇丸の意識に身体の制御を奪われてイタチに怪我をさせてしまった時の記憶は、今、思い出しても自分の身を切られるより辛い。
イタチは横たわったまま、首を横に振った。
「俺は大丈夫だ。それよりお前の傷が……」
心配そうに言うイタチに、サスケは笑った。
「傷口はもう、完全に塞がってる」
安堵の表情を見せたイタチにサスケはもう一度、唇を重ね、それから抱き上げた。
寝台まで運んで横たえ、身体を重ねる。
「もう、二度とあんたを放さない、離れない…。これからは、ずっと一緒にいよう。たとえ何があろうとも……」
「ああ…。お前と伊織と、ずっと……」
「……イタチ…?」

背に回した腕から力が抜け、サスケは不審に思って相手の名を呼んだ。
サスケのチャクラの暴走を鎮めるのに祖先神の力を解放した事で疲労したのか、イタチは眠りに落ちていた。
サスケはイタチを見つめたまま、そのしなやかな髪を優しく梳いた。
不意に睡魔に襲われ、自分も相当に疲労しているのだと気づく。

「…あんたはオレの全てだ。これまでも、これからも……」
イタチを抱きしめ、耳元で囁くようにサスケは言った。
そして、ゆっくりと瞼を閉じる。
腕の中にしっかりと最愛の者を抱いたまま、サスケは安らかな眠りに就いた。










Fin



後書き
前作『浮舟』でらぶらぶになった筈だったのに、イタチさんの迷いから色々と事件が起きましたが、無事、ハッピーエンドにたどり着きました。
鮫さんは(カブトも)報われませんが;
インセスト・タブーが書き始めた頃のテーマでしたが、書き進むうちにイタチさんの迷いの理由が他にも出てきて、結構長い話になってしまいました。
書いている途中、原作でオロ様があんな事になってしまったので、ひそかにオロ様ファンである私としてはちょっと哀しいです(>_<)
原作での復活をうす〜く、あわ〜く期待してはいますが……

鋭い読者の皆様は既にお気づきでしょうが、うちは一族の祖先神は朱雀、朱雀神と日向一族の娘の間に生まれた子がうちはマダラという設定です。
朱雀は火を司る霊獣なので、うちは一族の祖先にはぴったりかと。
更に陰陽道の式神である朱雀は
 知恵や美しさを象徴する式神。凶将。
 華やかな分プライドは高く周囲との和合には問題がある。
だそうで、イタチさんにぴったりv
更に更に某ゲームでの朱雀は
 貴族的な階級意識を持つ式神。
 他の式神には無い再生能力を持つ朱雀族が一番偉いと考え、
 中でも強力な力を持つ自分が高位にあると思っている。
…344話のサスケ、まんまです(~_~;)
原作でうちは一族にまつわる謎がどう、解き明かされるのか不明ですが、謎の多い一族なので色々と捏造するのは楽しいです♪

ここまで読んで下さって、本当に有難うございましたm(__)m
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
感想などありましたらTOPのメルフォでぽちっと送ってやって頂けると管理人が泣いて喜びます。

BISMARC

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