(4)





「お前が不安なのは、判る」
弟を抱き寄せて、イタチは言った。
「まだ8歳にもならない時にあれだけの経験をしたのだ。心に傷が残っても不思議ではない」
それに一度、取り戻したものを再び失うのは、単純に失うより辛い。
「任務でお前を危険な目に合わせたくないと思うのは、俺も同じだ」
「__兄さん……」
だが、と、イタチは言った。
「俺たちはうちはの名と想いを継ぐ者だ。木の葉最強と謳われ、里の守護の一翼を担う、誇りある一族だ」
たとえそれが、俺たち二人だけになってしまっても、と、イタチは続けた。

サスケは兄の背に背負われて、警務部隊の本部を見た時の事を思い出した。
何の疑問も抱かず、父の跡を継ぐのが自分の進むべき道なのだと信じていた。
もう、あの頃の自分には戻れない。
余りに色々な事があり過ぎた。
だが今でも、うちはの名と血を誇りに思う気持ちは変わらない。
同じ名を持ち、同じ血を引くイタチが敵ではなくなった今、誇る気持ちには何の翳も無い。

「……もうすぐ、オレの誕生日だ」
やがて、サスケは言った。
不意に話題を変えたサスケに、イタチは幾分か怪訝そうな表情を見せる。
「あ…あ。そうだな。プレゼントを何にするか、悩んでいたところだ」
「だったら、オレの願いを聞いてくれないか?」

イタチはすぐには答えなかった。
その願いが前線に復帰せず、ずっと側にいてくれというものなら、叶える訳には行かない。
こんな時にサスケの表情が見えないのは辛いと、イタチは思った。
サスケが何を考えているのか、読み取れない。

「サポートが必要だって言ってただろ?だったら前線に戻る時に、オレを連れて行ってくれ」
「…それは無理だ。まず、お前の暗部入隊が認められるかどうか判らないし、お前は誰かの補佐で終わるような忍では無いはずだ」
そうじゃなくて、と、サスケは続けた。
「オレの片眼を受け取ってくれ。移殖すれば兄さんの視力は元に戻るって、五代目が言ってた」
「移殖…?」
鸚鵡返しに聞き帰したイタチに、サスケは「ごめん」と謝った。
「五代目に言われたのは何日も前だったのに、その事を兄さんに隠してた。兄さんを……また危険な任務に就かせるのが怖かったんだ」
口に出して認める事で、恐れが和らぐのをサスケは覚えた。
霧が晴れるように、心を覆っていた不安が消え去ってゆく。

------イタチ兄ちゃん、すっげぇ強いんだから、そんな危険なんて無いってばよ

ナルトの言葉が脳裏に蘇り、一層、気持ちが落ち着く。
無論、どんな強い忍であっても、任務に危険が付き纏うのは避けられない。
だが今は過剰に心配するより、兄を信じていれば良いのだと、サスケは思った。

「約束してくれ」
イタチを間近に見つめ、サスケは言った。
「前線で任務に就いても、必ず戻って来るって。オレの眼を無駄にするような真似は、絶対にしないって」
イタチは暫く口を噤んでいたが、やがてその整った顔に微笑を浮かべた。
「約束しよう。何があろうと必ず、お前の許に帰って来る…と」
サスケの髪に指を絡め、お前も約束してくれ、と、イタチは言った。
「これからはお前にも危険な任務が増えるだろう。だから、必ず帰って来る、と」
「約束する。何があろうと必ず、兄さんのところに帰って来る」
イタチは改めて弟を抱きしめ、サスケは兄の背に回す腕に力を込めた。
くすりとイタチが笑い、サスケは怪訝そうに眉を顰める。
「お前の誕生日なのに、俺のほうが貰うばかりだな」
「そんな事、ないさ。兄さんがオレの眼を受け取ってくれれば、オレはいつでも兄さんと一緒にいられる」
それに、と、サスケは続けた。
「兄さんの誕生日にもオレは最高の贈り物を貰ってるんだ。だから…あいこだ」
「…そうだな」
言って、イタチはゆっくりとサスケの髪を撫でた。
サスケは幼い頃のように、イタチの為すに任せる。

時が経てばいつまでも一緒にはいられないのだと、二人とも判っていた。
だが、この日の誓いだけは違える事無く護り続けるのだと、固く心に決める。

同じ名と、同じ血と、同じ想いを受け継ぐ者として__












■完結編です。ギリギリなんとかサス誕に間に合いました……(汗)
本当はサスケが3年ぶりに会ったお兄ちゃんの美貌にときめいたりとか、「兄さんは誰にも渡さない!」…で、監禁まで考えちゃうとか、そういう『行き過ぎた兄弟愛』の世界に突き進んでみたかったのですが、生誕祭にそれはドロドロし過ぎだろうとか、何よりそうなるともっと長くなってしまうのでタイムアウトでこうなりました;
いつか機会があったらこれのダークバージョンも書いてみたいです(←こらこら;)

■サスケ、お誕生日おめでとう♪
原作の展開が色々と心配な今日この頃ですが…
うちは兄弟の兄弟愛は永遠に不滅なのだと、勝手に頑なに信じ続けますv






back