見たことも無い神にではなく
おまえに誓おう
永遠の忠誠と 愛を
<ORACLE>-----俺の神に






「結婚式を、しよう」
それまでずっと黙り込んでいたオラトリオの言葉に、オラクルは驚いて何度か瞬いた。
「__え……?」
「結婚式を挙げよう。俺と、結婚してくれるか?」
オラクルは答える代わりに判りきっている言葉の意味を改めて検索し、調べた。
<ORACLE>の言語データベースには数十カ国語のデータが収められているが、検索はほんの一瞬で終了した。
「『お互いを、伴侶とする事を誓う儀式』__でも、私たちは初めから伴侶(パートナー)じゃないか」
オラクルの言葉に、オラトリオは形の良い眉を幽かに顰めた。
オラクルには判っていた__こんな事を言えば、オラトリオが哀しむのも、オラトリオが何故、こんな事を言い出したのかも。
オラトリオは<ORACLE>の守護者であることを『自らの意思で』決めた。
オラクルは<ORACLE>である事を選べない。
オラクルは<ORACLE>の単なるインターフェースでは無く、中枢を司る一部でも無く、<ORACLE>そのものなのだ。

「……こんな時にお前を傷つけるような事は言いたくないけど__」
「嫌、言ってくれ」
まっすぐに相手を見つめたまま、オラトリオは続けた。
「本心を、言ってくれ。俺が聞きたいのはお前の本心だけだ」
オラクルは暫く迷ってから、幽かに苦笑した。
「お前がしている事を知った時__そう、初めは怒ったけど__でも……嬉しかった」
「…俺が動かなくても結果は同じだと思うが?」
「多分…ね。だから、お前を止めなかった__」
途中で、オラクルは言葉を切った。
暫く躊躇い、それから口を開く。
「止めなかったのは、嬉しかったからだよ__お前の気持ちが」
言ってから、オラクルは軽く溜息を吐いた。
髪と瞳のノイズが激しく移ろう。
オラクルの内部で、情動を司るプログラムと思考調整プログラムがせめぎあっているのだ。
深く息を吸ってから、改めてオラトリオに向き直る。
「お前が<ORACLE>(わたし)と共に停止する途を選んだ事が、私には嬉しかった」
言って、オラクルは微笑んだ。
それから、急に泣きそうな顔になる。
「オラクル……」
オラトリオはオラクルの華奢な肩を、そっと抱いた。
「もしもお前が<ORACLE>の守護者でなかったら、それでも私はお前を信頼したか?__それが、お前の訊きたい事だね?」
「__ああ……」
喉を締め付けられるような苦しさを覚えながら、オラトリオは言った。
訊かない方が良いのかも知れない、今、こんな時に。
それでも、オラトリオは答えを求めた。
答えが何であろうと、後悔する積りは無い。
「聞きたいのは、お前の本心」
オラクルの髪と瞳のノイズが、もう一度、激しく移ろいだ。
ローブのノイズが乱れ、オラクルの姿がかき消えそうになる。
手を差し伸べて抱きしめたい気持ちを、オラトリオは必死で抑えた。

やがて、ノイズの乱れが収まり、オラクルはもう一度、深く息を吸った。
「お前がもし<ORACLE>の守護者でなくてもお前を信頼したか、私には判らない」
「__それが…お前の本心なんだな」
オラクルは頷いた。
そして、続ける。
「でも、お前が守護者だからという理由だけでお前を信頼しているのではないし、守護者だから愛しているのでも無い」
言って、オラクルは晴れやかに微笑った。
オラトリオはオラクルの手を取り、その白い指先に口づけた。
「お前の本心が聞けて良かったぜ」
俺はお前が<ORACLE>であろうが無かろうがお前を愛する__その言葉を、オラトリオは呑み込んだ。



立会人も祭壇も花もなく、あるのは静かな光のみ。
オラクルの黒衣とオラトリオの緋色の戦闘服は純白に変わり、外部との通信が制限される。
白いベールを構築しながら、白は死装束の色でもあったのだと、オラトリオは思った。
「……綺麗だぜ?凄く」
全ての迷いを断ち切ったオラクルの微笑みは厳かなまでに美しく、オラトリオは眩しそうに眼を細めた。
「お前も」
幾分かはにかんで言ったオラクルの前に、オラトリオは跪いた。
オラクルが手を差し伸べ、オラトリオは騎士のようにその手を戴く。
「<ORACLE>の名に懸けて誓う。永遠の忠誠と、愛を」
言って、オラトリオはオラクルの手に口づけた。
「<ORACLE>の名に懸けて誓う。絶対の信頼と、愛を」
オラクルは軽く上体をかがめ、オラトリオの額にキスを落とした。
「愛してるぜ、オラクル__永遠に」
「愛してるよ、オラトリオ__永久に」






12時間後、<ORACLE>システムは全ての機能を停止した。





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