「邪魔するぞ」
「ご機嫌よう、オラクル様」
その日、いつものように最長老兄妹は、<ORACLE>に末弟を訪ねた。(エモーションの挨拶は長いので一部省略)
「いらっしゃい、コード、エモーション」
いつものように、空間等御者がにこやかに迎える。
「ちょうどお茶にしようと思っていたところなんだ」
「お土産にケーキを焼いて持ってまいりましたの」
言って、エモーションは奇麗にラッピングされた箱をオラクルに手渡した。オラクルがそれを開けると、中には4人分のフルーツタルトが並んでいる。
「オラトリオ様はお出掛けですの?」
何気ないエモーションの問いに、オラクルは僅かに表情を曇らせた。
「うん…ちょっと出掛けて来るって」
「__元気が無いな、オラクル。どうした」
兄の言葉に、エモーションはちちっと指を振った。
「オラクル様の元気が無いのは、オラトリオ様がいらっしゃらないからに決まってるじゃありませんか」
「エレクトラ、お前__」
「でも変ですわねえ。オラクル様を護る事を口実に極力研究所の仕事をサボり、監査出張の時以外は、いつもいつもオラクル様の側にべったりで片時もオラクル様の側を離れなくて、しかもただ側にいるだけならとも角、お客の存在も無視していちゃいちゃべたべた、お前らいい加減にしろよって位、らぶらぶあつあつの万年新婚(バ)カップルなお二人なのに、そのオラトリオ様がオラクル様の側にいらっしゃらないなんて、変ですわ」
内容もとんでもない上に、とんでもなく長々しい台詞をエモーションがさらっと吐くと、オラクルは軽く溜息を吐いた。
「ん…その事で、ちょっと悩んでるんだ」
「ひよっ子との離婚なら、躊躇う事は無いぞ。いつでも実家に戻って来い」

離婚て、いつ結婚したんだ?
それに実家に戻るって、オラクルは<ORACLE>から出られないのでわ…?


突っ込み所満載のコードの台詞に、エモーションが横からフォローを入れた。
「お兄様、そんな事、おっしゃるものではありませんわ。オラクル様は世間知らずで何も御存じないから、すちゃらかで女タラシで直情径行の未熟者でも、オラトリオ様の事がお好きなんですから」

…フォローになってない


「とに角、悩み事がおありなら、私たちがお伺いしましてよ?」
オラクルはもう一度、溜息を吐いた。普通なら、こんな相手に悩み相談はしない。
が、オラクルは『普通』では無かった。
「あのね?オラトリオが……最近、私の事、あまり好きで無くなったんじゃないかって__」
「赦せん!」
いきなり細雪の柄に手をかけ、コードは息巻いた。エモーションは平然とコードから細雪を取り上げ、オラクルに続きを促す。
「どうしてそんな風にお考えになりましたの?」
「だって、オラトリオってば最近……私の事を全然……」
赤くなって俯き、ごにょごにょとオラクルは言った。
「あらまあ。それは……って事ですの?」
オラクルの耳に口をつけるようにしてエモーションが囁くと、オラクルは更に真っ赤になって頷いた。
エモーションは口元に指を当てて考えるポーズを取った。
「殿方には殿方の悩みがおありなのでしょうけれど、こういう事は女の私よりお兄様の方が__」
エモーションが傍らを見た時、既にコードの姿は無かった。



「はあああああああーーーっ」
T・Aの中庭。
涼しい木陰という爽やかなシチュエーションをぶち壊す情けのない溜息を、オラトリオは吐いた。
暫く前から、オラトリオは悩んでいた。
ボディの不調なら、製作者の音井信之介に調整してもらえば良い。が、これはボディの問題とは違うようだ。
では心理面の問題?
そうかも知れないし、そうでないかも知れない。いずれにしろ、とてもみのるに相談なんか出来ない。
正信は問題外だし、カルマに相談すれば正信に筒抜けになる。
となれば、残るのは__

げしっ!!

「〜〜〜〜っ!師匠、あにするんすか!!」
いきなり後頭部を足蹴にされ、涙目になりながら、オラトリオは抗議した。
「やかましい!守護者の職権濫用して身に余る幸せを享受している果報者の分際で、俺様の可愛い可愛いオラクルを蔑ろにするとは何事だ!」
「お…俺がオラクルを蔑ろになんて……する筈、無いじゃないですか」
歯切れ悪く、オラトリオは言った。思いっきり強く否定したいのだが、出来ない事情がある。
「__実は…師匠にご相談しようと思ってたんすよ」
少し躊躇ってから、オラトリオは言った。
「守護者を辞任したいなら、躊躇う事は無いぞ。オラクルは俺様が護る。安心して成仏しろ」
「師匠〜、俺は真面目に相談しようとしてるんですよ?」
「俺様も真面目に聞いている」
鳥さんの姿で偉そうにふんぞり返りながらコードは言った。
その時、館内放送が流れる。

『A−Cコードさま、A−Cコードさま、妹さんがお待ち兼ねです。すぐに手荷物と共にお戻り下さい』

「む、エレクトラが呼んでいるな__行くぞ、ひよっ子」
「師匠、…っと待って下さい。何すか『手荷物』ってのは?」
コードは、210センチを頭のてっぺんから足の爪先まで眺めた。
「手荷物と言うより大荷物だが__気にするな」
「……」
相談を始める前から悩みが何倍にもなっている気がしたが、言い返す気力も無く、仕方なくオラトリオはコードについて行った。



アンダーネット。
「オラトリオ様、EDなんですの?」
コードの『隠れ家』に着くと、待ち構えていたエモーションがいきなり聞いた。

ぐさ

「エレクトラ、はしたない事を言うな__だが何だ、ひよっ子」
ぎろりとオラトリオに向き直って、コードは言った。
「美人で可愛くて気立ても良くて、膚なんかも真っ白ですべすべむちむちのもち肌で、うなじから鎖骨にかけてのラインがとんでもなく艶めかしくて、ローブを脱いだ姿で一般ユーザーの前になんか姿を現したら即、悩死者が出るぞってくらい色っぽいオラクルが据膳してても○たないのか?」

ぐさぐさ

「お兄様…オラクル様の事、そんな風に見てらしたんですの?」
「ち…違う!俺様はただ、あんな美人で可愛らしくて色っぽいオラクルを前にして○たないなんぞ、男として終っていると言いたかっただけだ!」

ぐさぐさぐさ

エモーションは、これ以上、落ち込みようがないってくらい、落ち込んでいるオラトリオをちらと見遣った。
「オラトリオ様をいぢめるのは楽しいですけれど、このままではオラクル様がお可哀相ですわ」
「あんなひよっ子の嫁にされている方がずっと可哀相だ。これを機会に__」
「オラトリオ様、いつからこうなってしまわれましたの?」
兄の言葉を無視して、エモーションは部屋の隅っこでいぢけているオラトリオに聞いた。
「__多分…先月のボディの定期メンテナンスの後からだと思うんすけど」
何とか気を取り直して、オラトリオは答えた。
「全て正常って教授は言ってましたし、他の機能には何の問題も無いんすけどね…」
「そう言えば」
思い出したように、コードが言った。
「先月のひよっ子のメンテの時、正信が近くでうろうろしとったな」
「正信ちゃんと言えば」
エモーションも思い出したように付け加える。
「オラトリオ様がオラクル様べったりで研究所の仕事をさぼって困るとか言ってましたわね。何か対応策を考えなければとか何とか」

ぴきっ

「そーおかあ。正信の野郎かああ」
原因さえ判れば対処は簡単__オラトリオは後も見ずに『隠れ家』を飛び出して行った。
「仕方ありませんわねえ…」
「エレクトラ、お前まで何処に行く」
立ち上がったエモーションに、コードは聞いた。エモーションは軽く肩を竦める。
「オラトリオ様が何をおっしゃったところで、正信ちゃんは白を切りとおすに決まってますわ。ですから私から、オラトリオ様を元に戻すよう、正信ちゃんにお願いしてみます」
「止めておけ。オラクルの為ならば、今のままの方がずっと良い。ケダモノの餌食にさせるのは不憫すぎる」
「ですから…ね」
兄の耳元で、エモーションはごにょごにょと囁いた。



1週間後。
「たっだいま〜♪」
紆余曲折の末、漸く元どおりのカラダに戻ったオラトリオは、意気揚々と<ORACLE>に帰って来た。
「あ、オラトリオ。お帰り」
久しぶりのオラトリオの明るい雰囲気に、オラクルも嬉しそうに微笑んでカウンターから出てきて出迎える。
オラトリオはすかさずオラクルを抱きしめ、口づけた。
深く長い口づけが終ると、オラクルは幽かに頬を染めてオラトリオを見上げている。
「今まで相手してやれなくて、ごめんな〜。それもこれも正信の野郎が……」
ぶつくさぼやくオラトリオを、オラクルはきょとんとした表情で見つめた。
その姿の可愛らしいこと♪
オラトリオの視点ではローブの中が鎖骨のあたりまで丸見え。しなやかな肌の白さも艶めかしく、オラトリオを誘う。
改造魔人が勝手に回路を摩り替えていたせいで、愛しい恋人を抱きしめながら全くその気になれないという哀しい日々が続いたが、もう大丈夫__オラトリオは、オラクルの細い腰に腕を回し、抱き寄せた。
「今まで出来なかった分、3週間分をまとめてたっぷり可愛がっちゃるからな〜♪」
「ちょ…オラトリオ、仕事…中」
ローブの下に忍び込んだ手の動きに、オラクルは慌ててもがいた。が、そんな事で止めるオラトリオではなく、却って衣服が乱れ、ますますオラトリオを熱くさせる。
「こんな所で__厭…っあ…」
「愛してるぜ、オラクル……」

カチッ

幽かな音がしたかと思うと、一気に萎える気持ちと×××__
唖然として、オラトリオは相手を見つめた。
オラクルの手には何やらちゃちいリモコンのような物が握られている。
「……オラクルさん?それは……?」
「『オラトリオのスケベ回路コントロール装置』__正信さんが造ってくれたんだ」
どうりで、初めは知らぬ存ぜぬと白を切りとおしていた正信が、途中からころっと態度を変えた訳だ__オラトリオは思ったが、後の祭り。
オラクルの手からコントローラを取り上げてみたものの
「それ、私が操作しないと作動しないように出来てるから」
オラトリオはがっくりと肩を落とした。
「オラクル〜〜〜。この3週間で積もり積もった俺の熱い想いをどうしてくれるんだ〜?」
「お前がこの3週間、落ち込んでて仕事を手伝って貰えなかったから、仕事もたまってるんだ」

手伝ってくれるよね?

可愛らしく微笑んで、オラクルは言った。
「……はい」
オラトリオに、選択の余地は無かった。



数日後。
その日、<ORACLE>にはコード、エモーション、シグナル、カルマが遊びに来ていた。
エモーションのお土産のクッキーをつまみながらお茶を飲み、なごやかに談笑している。が、オラトリオはその談笑に加わらず、一人せこせこと仕事をしていた。
「なあ、オラクル。何でオラトリオ一人で仕事してるんだ?」
「うん…オラトリオにも休憩にしようって言ったんだけどね」
困ったように苦笑して、オラクルは言った。溜まった仕事を片付けるまでお預けを食わされているオラトリオは、意地でも仕事を終らせようと、躍起になっているのだ。
「ひよっ子、お茶のお代わりが無いぞ」
偉そうに、コードが言った。
「私がいれて来るよ」
「嫌、良い。俺がいれるから、お前は座ってろ」
腰を浮かしかけたオラクルを止めて、オラトリオはキッチンへと急いだ。
「オラトリオ様、非の打ち所のない完璧なダンナ様振りですわねえ」
オラトリオの後ろ姿を見遣り、エモーションは微笑んだ。
「非の打ち所のない完璧な奴隷だな」
ぼそりと、コードが呟く。
「…一体、どうなってんのさ?」
シグナルはこそりとカルマに聞いた。カルマは苦笑した。
「世の中には、知らなくても良い事もあるんですよ」
シグナルは子供扱いされた気がして面白く無かったが、長兄の背中に哀愁が漂うのを感じ取り、それ以上は何も言わなかった。

<ORACLE>の平和な日々は続く。





Fin.

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コメント
特別企画キリの7517を踏まれたゆきえさんに捧げるリク小説です。
「スケベ回路」を取り外されたオラトリオ。
取り外されたって事は、もともとついてたんでせうか?だとしたら何の為に?それとも誰の為と言うべきなのでせうか??
EDが何の事か判らないお嬢さんは……気にしないで下さい;