
(40)
イタチを連れて部屋に現われたカブトに、大蛇丸は眉を吊り上げた。
「何のマネなの、カブト」
「…イタチ君が、大蛇丸様に話したいことがあると……」
大蛇丸は腕を組み、口元を歪めて哂った。
「命乞いならしても無駄よ」
でも、と、大蛇丸は言った。
「見世物としては面白いから、聞くだけ聞いてあげようかしら」
「…大蛇丸様。やはり彼は殺すよりも、生かしておいて利用する方が__」
「お前の意見など聞いていないわ」
カブトの言葉を遮って、大蛇丸は言った。
「やはり座興は止めよ。さっさと連れて行って殺しなさい。遺伝子ならば死体からも取り出せるでしょう?」
「…大蛇丸」
相手の名を呼び、イタチは大蛇丸の前に立った。
ゆっくりと眼を閉じ、それから、開く。
「__!……く゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――ッ!!」
おぞましい叫び声を上げてその場に倒れ伏した大蛇丸を、カブトは呆然と見詰めた。
「一体……」
イタチの瞳が血のような朱であるのを、カブトは信じられない思いで見た。
「写輪眼……!?失明したというのは、あれは嘘だったのか……?」
イタチの双眸はすぐに夜闇の様な漆黒に戻り、苦しげに肩で荒い息を継いだ。
立っていることもままならず、数歩、よろけるように後ずさって壁に凭れかかる。
「……一時的に……見えなくなっていたのは__」
咳き込み、イタチはその場に崩れ落ちるように蹲った。
肺も心臓も急激な酷使に悲鳴を上げている。
どうやって持ちこたえられたのか、自分でも判らない程だ。
「……くっ……」
カブトがイタチに歩み寄ろうとした時、大蛇丸が呻き声を上げた。
ゆっくりと身体を起こし、正面にいるイタチを見る。
「__イタチ……!」
言ってイタチに駆け寄ったのが大蛇丸では無い事は、カブトにも判った。
だが全ては一瞬の出来事で、一体、何が起きたのか見当もつかない。
「貴様、兄貴に何をしやがった」
イタチを抱きかかえ、焔のような写輪眼を向けて、サスケはカブトに言った。
何が起きたのかは判らない。
だがもう、「終わった」のだと、カブトは本能的に感じ取っていた。
「……聞きたいのはこっちだよ。イタチ君が、大蛇丸様に何をしたのか……」
サスケは答える代わりにイタチを抱き上げ、部屋の奥にある大蛇丸のベッドに横たえた。
そして、イタチの額の汗を拭う。
「…オレを『牢』に閉じ込めていた大蛇丸が急に苦しみだして、そして消えちまった。一体……何をした?」
「……月読……」
苦しげに喘ぎながら、短くイタチは言った。
「……どういう事だ?」
「…特別な写輪眼である万華鏡写輪眼による瞳術だ。幻術のひとつだが、相手の精神を崩壊させる力を持つ」
問うたカブトに、サスケは答えた。
背筋が寒くなるのを、カブトは覚えた。
幻術であればサスケの身体に物理的な危害を与える事無く、サスケの身体を支配していた大蛇丸の精神のみを崩壊させる事が出来たのだろう。
------彼は私より、強い
改めて、大蛇丸の言葉をカブトは思い出す。
だがこんなにも呆気なく倒されてしまったのは、病み上がりで何の力も無いと高を括って油断したせいだろう。
イタチを護ろうとするサスケの想いの強さを、大蛇丸は過小評価してした。
そして子供を護ろうとするイタチの想いの強さを、予想してもいなかったのだ。
「まだ眼が見えるようになって1週間しかたってないのに、無茶な事を……」
イタチの髪を撫で、心配そうにサスケは言った。
イタチはまだ苦しげに喘いでいる。
ずっと術が使えなかったのに急に万華鏡写輪眼を使ったので、チャクラの全てを使い切ってしまった上に、身体に急激な負担がかかったのだ。
ゆっくりと、カブトはイタチに歩み寄った。
「近づくな」
写輪眼を発動したまま、サスケは鋭く言った。
「…僕はただ__」
「何かあったんですか__サスケさん?」
その時、部屋に入って来たのは鬼鮫だった。
身体は大蛇丸の部下の医療忍のものだが、それが誰であるかはカブトにも判った。
鬼鮫がイタチを助ける為にこの研究所に潜入するだろうことは、予測していたからだ。
「兄貴が大蛇丸を斃した。その事を知ってるのは、こいつだけだ」
カブトを示し、サスケは言った。
鬼鮫はドアを塞ぐように、カブトの前に立つ。
「殺しますか?」
「……よせ、鬼鮫……」
イタチの言葉を、サスケと鬼鮫は意外に思った。
カブトは眼鏡の位置を正し、サスケに向き直る。
「……正しい判断だよ。僕は、君たちの役に立つ」
「てめぇの言う事なんぞ、信用できるか」
「大蛇丸様の側近には、君がまだ会った事の無い者もいる。僕の助けが無ければ、君は彼らを欺き続ける事は出来ないよ」
カブトの言葉に、サスケは眉を顰めた。
確かに、カブトを味方につけるのでも無ければ、このままずっと周囲を欺くのは難しいだろう。
それに伊織の事を考えるならば、大蛇丸として音の里に留まり続ける方が明らかに得策だ。
「助かりたいが為の言い逃れとしか思えませんね。やはり__」
「もっと言えば、君たちも僕の役に立つ」
鬼鮫の言葉を遮って、カブトは言った。
「大蛇丸様がいなくなれば音の里はいずれ崩壊する。そうなれば僕の行く場所はどこにも無くなる。だからサスケ君には、いつまでも大蛇丸様としてこの里にいて貰いたい」
それに、と、カブトは付け加えた。
「今までも大蛇丸様のやり方の全てに、賛同していた訳じゃない。それは…信じてくれ」
ベッドの上に横たわるイタチを見つめ、カブトは言った。
そして、ゆっくりと相手に歩み寄る。
「近づくなと言った筈だ」
カブトに殺気を向け、サスケは言った。
カブトは軽く肩を竦めた。
「治療をするだけだよ。イタチ君、酷く苦しそうじゃないか」
カブトの言葉に、サスケはイタチを見た。
まだ息は荒く、とても苦しそうだ。
だが、カブトは信用できない。
イタチに懸想しているなら、尚更だ。
「他の医療忍を呼べ。てめぇは信用できない」
サスケの腕に、イタチは軽く触れた。
「……大丈夫だ……」
「__イタチ……」
幾分か驚いてイタチを見つめるサスケと、宥めるような眼差しでサスケを見るイタチを、カブトは見遣った。
誰かを信じればそこに隙が生まれ、それが生命を落とすことにも繋がる。
だから誰も信じなかった。そして養父に信頼される事は息苦しくて仕方がなかった。
そんな自分が今はイタチに信頼される事を切望しているのだから、不思議なものだ。
「…あんたが、そう言うなら」
イタチに言って、サスケは写輪眼を収めた。
カブトはイタチに歩み寄り、かざした手からチャクラを送り込む。
やがてイタチの呼吸は鎮まり、そのまま深い眠りへと堕ちた。
「…大丈夫。チャクラ切れで眠っているだけだよ。ゆっくり休めば、すぐに良くなる」
心配そうにイタチを見つめるサスケに言うと、カブトは踵を返した。
鬼鮫と共に、部屋を出る。
「…あの二人を見ていると、入り込む隙というものがまるで無いのを感じる」
カブトの言葉に、鬼鮫は答えなかった。
どれほど望んでも、イタチが自分のものになる事は無いのだろうと、カブトは思った。
たとえサスケが死んでも、それは変わるまい。
それでもいつの日にか、自分が病死に見せかけて養父を毒殺したのだと、イタチに話したいとカブトは思った。
何故、そんな事をしたのか、イタチならば理解してくれる気がする。
そんな風に思うのは、ただの買い被りかも知れないが。
「…こんな状態で月読を発動するなんて……やっぱり、あんたには叶わない…」
無防備に眠るイタチの髪を撫でながら、サスケは言った。
幼い頃からずっと憧れ、近づこうとして叶わなかった。
今は恋人として共にあるが、忍としては永遠に追い越せないのかも知れない。
かつてはそれをもどかしく感じた時もあった。
同じ兄弟なのに不公平だと、運命を呪わしく思った事すらある。
だが病弱だったイタチが寝込んだ時には、イタチを護りたいと心から思った__たとえ、忍としての力が及ばなくても。
その気持ちは、今も変わっていない。
「超えるべき壁として、いつまでもオレと共にいてくれ…。オレは、どこまでもあんたを追い続ける」
そして、と、イタチの指に自らのそれを絡め、サスケは続けた。
「あんたを超えることが出来なくても、オレはあんたとイオリを護る。オレの持つ力の全てを尽くして……」
囁く様に言って、サスケはイタチに口づけた。
Fin
後書き
「らぶらぶなうちは兄弟を見たい」と思っているうちにネタが浮かんだのは、多分、去年の事でした。
暫くそのネタが頭を離れなくなったものの、物凄〜く長い話になりそうだったのと、不幸な終わり方しそうだったのと、サスイタを読みたがる人がいるのだろうか?という疑問があったので放置してました。
ハッピーエンドになる目処がついたのと、5万ヒットアンケートでの希望CPの結果に力を得て書き始めたのが4月くらい。
長〜くなるだろうとは思ってましたが、予想以上に長くなりました;
WEB小説では今まで書いた中で一番、長いかも…
その割にはあまり兄弟をいちゃいちゃさせられませんでした(-_-;)
途中でカブイタを書きたくなったりして予定以上に長くなってしまったのですが、本気モードのカブトは書いてて楽しかったです。
これで取り合えず50000ヒットアンケート1位と同率2位のサスイタ・鮫イタ・シスイタがクリアできたでしょうか。
#シスイタに関してはちょっと苦しいですが;
WJ309話を読む前に15話を書いたので、サスケはイタチさんがオロ様より強いって知らなかったという設定です。書き直そうかとも思いましたが、これはこれ、原作は原作という事でそのままにしときました。
鮫さんが心転身の術を使えるのか?って疑問もありますが、きっとイタチさんに教わったんです。
イタチさんは何でも出来るんです、ってことでスルーしてやって下さい。
後、医学的なもろもろもネットで調べた程度なので、間違っててもスルーしてやって下さい。
ちなみに、イタチさんは病み上がり状態で月読も完全には発動できなかったので、オロ様も完全には精神崩壊していません。
その辺を絡めた後日談を、気が向いたら外伝で書きたいと思ってます。
ここまで読んで下さって、本当に有難うございましたm(__)m
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
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BISMARC
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