「兄さん。兄さん、大丈夫…?」
話しかけても答えないイタチに、サスケは不安が募るのを覚えた。
夜更けに暗部の任務から戻ったイタチは、寝ずに待っていたサスケに声をかけるでもなく、そちらを見ようともしない。
「兄さん、ねえ、どこか怪我してるの?兄さん…!」
幽かな血の匂いに、サスケの不安は募った。
イタチの腕に触れると、夜露に濡れたせいか氷のように冷たい。
「兄さん……」
どうしていいか判らず、そして何かしなければならないという焦燥感に突き動かされるまま、サスケはイタチを抱きしめた。
血の匂いが濃くなり、一瞬、頭がくらりとする。
「__サス…ケ……?」
漸く相手の存在に気づいたかのように、イタチは弟の名を呼んだ。
間近にサスケを見つめた双眸は、血のような写輪眼だ。
「兄さん、もう…大丈夫だから。オレが兄さんを護る。何があっても絶対に。だから…だからもう、安心して」
兄の冷たい身体を抱きしめたまま、サスケは何度も同じ言葉を繰り返した。
「…サスケ…」
イタチが写輪眼を収めても、サスケはずっとイタチを抱きしめたままでいた。





「イタチ……大丈夫か?」
傍らで眠る恋人を揺り起こし、サスケは訊いた。
イタチはすぐには答えなかったが、やがて深い溜息を吐く。
「__ああ…。大丈夫だ」
「…悪い夢でも見たのか?__魘されていた」
イタチを抱き寄せると、サスケは相手のしなやかな髪を優しく撫でた。
「…暗部にいた頃の夢だ。今更……あんな夢を見るなど…」
サスケは黙って、イタチが続けるのを待った。
「今日は一日中、伊織と一緒だったからな。そのせいかも知れない…」
「伊織?」
鸚鵡返しに、サスケは訊いた。
そしてすぐに訊いた事を後悔する。
「暗殺任務で、伊織と同じ年頃の子供を殺した時の夢だ」



某国の大名は正室が子供に恵まれず、二人の側室に産ませた男児二人のいずれかが世継ぎになると目されていた。
初めは小さな諍いでしかなかった世継ぎ争いは、次第に重臣たちや大名の親族も巻き込んだ大きな争いとなり、国を二分するほどの問題へと膨れ上がった。
その争いに決着をつけるべく、一方の勢力は木の葉の忍に暗殺任務を依頼し、その機密保持の重要性から暗部が派遣された。
その小隊に、暗部に入隊して2ヶ月後のイタチも含まれていた。
「側室と息子のいる館に侵入するまでは簡単だった。が、むこうも暗殺の可能性を恐れていて、身代わりを用意していた」
ターゲットの人相書きはあったが、情報は正確では無かった。
そして、任務失敗は、絶対に赦されない。

「それで小隊長は、館内にいた全ての子供を集めて、側室の眼の前で一人ずつ、腕を斬りおとせと命じた。側室の反応を見れば、どれが本物の子息か判るだろう…と」
「酷い」と言いかけて、サスケは言葉を呑み込んだ。
イタチは暫く口を噤んでいたが、やがて続けた。
「俺は……そんな真似をするくらいなら、いっそ全員、殺せば良いと言った。『ならばお前がやれ』と、小隊長は俺に命じた…」

イタチは子供たちに幻術をかけて別室に連れてゆき、全員の首を刎ねた。
苦痛も恐怖も無い最期だった。
任務の依頼主に子供たちの首を届け、その中にターゲットが含まれている事が確認されて、任務は無事、完了した。



「…あんた一人にそんな役割を押し付けただなんて……」
黙っていられず、思わずサスケは言った。
当時の小隊長に対する憤りがこみ上げるのを、どうする事も出来ない。
イタチは宥めるように、サスケの髪に指を絡めた。
「小隊長はその事で三代目に叱責されたらしいが…俺には小隊長の事などどうでも良かった」

静かにイタチは言った。
その姿は冷静に見えるが、10年も経ってから悪夢に魘されるほど、傷ついていたのだ。
暗部の任務の実体も知らず、ただエリートの兄を誇らしく思い、時には妬みさえしていた自分に対して、サスケは言い様の無い怒りを覚えた。

「あの時…俺はお前に救われたから」
「__え……?」
思いがけないイタチの言葉に、サスケは意外に思いながら訊き返した。
イタチは口元に、幽かな笑みを浮かべた。
「もう、忘れたか?家に戻っても暫く放心状態だった俺を、お前はずっと抱きしめていてくれた」
イタチの言葉に、その夜の記憶が鮮やかにサスケの脳裏に蘇る。
「忘れたりなんかしないさ。オレは何があったのか判らなくて、でもただあんたの事が心配で……それで、あんたを護るって、そう言ったんだ」
サスケは幽かに溜息を吐いた。
「何があったか判らなかったから、あんたがすごく危険な任務で危ない目に合ったんじゃないかって、そんな風に思ってた。だから思わず、あんたを護るって口走ったけど……」
「正直言って、アカデミー生のお前に暗部の俺が護れる筈は無いと思った」
だが、と、イタチは続けた。
「お前に抱きしめられていると、不思議と安心できた。あの時のお前は小さな子供でしか無かったが、それでも……」
サスケはイタチの髪を撫で、改めて相手を抱きしめた。
「今でも……オレに抱きしめられると安心できるか?」
「ああ…」
10年前とは見違えるほどに強く成長したサスケの腕に身を委ね、イタチは言った。
「お前が一緒にいてくれれば、何があっても伊織を護れるだろう」
「あんたは自分の事より伊織なんだな」
幽かに苦笑したサスケに、イタチは微笑った。
「伊織もお前も、俺には同じくらい大切だ」
「だけど恋人はオレ一人だ__だろう?」

くすりと笑ったイタチに、サスケは唇を重ねた。
髪を撫でていた手を、背から腰へと這わせる。
甘い吐息を漏らして身じろいだイタチを、サスケは身体の下に組み敷いた。

「あの時の約束は護るぜ。何があろうと、オレはあんたを護り…あんたを愛し続ける」
「俺もだ…。もう、お前を離しはしない…」
囁くように言って、イタチはサスケの背に腕を回した。
そうして、甘く熱く変わってゆく空気を全身で感じる。
イタチが感じているのと同じものを、サスケも感じていた。
「愛している…」
「愛している…」

二人の時が全うされる、その日まで__










後書
《注意》 これは常人には精神ダメージがかなり大きいバトンです。 見る時は5回程深呼吸をして、覚悟を決めてから見て下さい。 以下のキーワードを絡める、若しくは連想させる口説き台詞を自分で考え、悶えながら回答して下さい。 答える生け贄、もとい勇気のある人々にこの言葉を送ります。
【恥を捨てろ、考えるな】
と言う訳でSsaさんに回して頂いた口説きバトン@お題バージョンです。
Ssaさん有難うございますm(__)m
毎回、キーワードにあわせた壁紙を探すのは、楽しくもあり、大変でもありました;
フリー素材サイトさんに感謝!です。
4人がかりでイタチさんを口説きまくったワケですが、自分で書いてて一番楽しいのはカブ→イタでしたね。
あと、伊織ちゃんにイタチさんを「母さま」と呼ばせるのが念願だったので、叶って嬉しいです(笑)

ここまでお付き合い下さり、有難うございましたm(__)m
感想などありましたらTOPのメルフォからぽちっと送って頂けると、管理人が泣いて喜びます。

BISMARC


back