木の葉の里では近頃奇妙な噂が流れていた。写輪眼のカカシとイタチの2人が、写輪眼でうみのイルカの嬉し恥ずかしの場面をコピーすることに成功したという。
 写輪眼の2人がどういう場面をコピーしたのか、教えてくれるはずはない。だが、もう一人の当事者・うみのイルカ中忍も黙して語らないばかりか、聞いた相手が上忍だろうが火影だろうが暴れだすので、真実は誰も知らない。
 そしてその噂に踊らされるものがここにも一人いた。





「兄貴、カカシ、お願いだ」
 うちはサスケが不倶戴天の敵(ライバル)、イタチとカカシに頭を下げていた。
「どうやってコピーするのか教えてくれ」
 まだまだ青いサスケは術や体術のコピーがようようできるようになったばかりだ。憧れのあの人の一挙一動をコピーして反芻しましょうなんて高級技はまだまだまだ。
 兄貴達はずるい! 俺だってイルカ先生の恥ずかしいコピー……、あんな格好とかこんな格好をコピーして永久保存したい。それが今一番のサスケ少年の野望だった。
「どうしようねえ」
 カカシが楽しそうに言う。今までどれだけ師を敬えと言っても聞かなかったサスケが頭を下げている。いじめるには絶好の機会だ。
「フッ、愚かな弟よ」
 イタチも弟が可愛くないことはない…時もあるが、ことイルカに関してはサスケは敵だった。だが、
『サスケならイルカ先生も油断するよな』
『ナルトを巻き込めば、サスケとなら一緒に風呂に入るかもしれませんね』
 写輪眼2人の心の声は似たり寄ったり。カカシとイタチは顔を見合わせてうなずきあった。イルカに警戒されている二人には、『恥ずかしいコピー』といっても道端で転んだとか酔っぱらってどぶにはまったくらいの程度でしかない。
「わかった、サスケ。お前の熱意に負けたよ」
「可愛い弟のためだ、一肌脱ごう」
 カカシが言えば、イタチもうなずく。2人の思惑はばればれだったが、サスケも殊勝にもう一度頭を下げた。
「お願いします、師匠!!」
 こうして、写輪眼の特訓は始まった。





「まだまだまだっ! 甘いぞ、サスケっ! 術コピー1000回、もう一度だ」
「はいっ、師匠!!」
「弟っ! 体術のコピーも忘れるな。いついかなる場面でもイルカさんをコピーするためには何より重要だぞ」
「わかりました、兄さん!」
 意味なく山奥で特訓をしてみたりもする。そして何日か後、師匠2人は弟子にうなずいた。
「サスケ、俺たちにはもうお前に教えることは何もない」
「やったな、弟よ。あと一つ課題をクリアすれば、お前も免許皆伝だ」
 山にかかる夕日がきらきらと輝く中、サスケも目を潤ませて(写輪眼の使いすぎで目が痛かった)うなずいた。
「ありがとうございました、師匠」
 だが、まだ彼には試練が残されていた。カカシとイタチがぽんぽんぽんとサスケの肩を叩く。
「ここからは俺達には手伝えない。ただ、どうすればいいか教えるだけだ」
 カカシは沈痛な面持ちで言った。ごくっとサスケが唾を飲み込んで、続く言葉を待ち受ける。
「完璧なコピーのためには万華鏡写輪眼が要る。そしてその万華鏡写輪眼は――」

 最も親しき友をその手で殺めなければ手に入らない。

「……………最も親しき友? そんな……」
 カカシとイタチは顔を見合わせた。
「可哀想だがそれが現実だ。俺達もそれを乗り越えてイルカ先生をコピーできる眼を身につけたんだ」
 『イルカ』の一言にうっとサスケが詰まった。だが、彼がショックを受けていたのは親友を殺さなければいけないという運命についてではなかった。
「俺、親友なんて……どころか友達もいない………」
 さみしい12歳だった。
「ちょっと待て! それじゃ俺達がせっかくここまで鍛えた甲斐がないだろうが!」
「そうだぞ、弟。お前が万華鏡写輪眼に開眼しなければ、イルカさんのおーるぬーど激写コピーなど夢のまた夢!!」
 慌てる師匠2人は、すぐに良いことを思いついた。
「今から親友作って来い!」
「いや、友達が今までいない愚かな弟にそんな器用なことをできるはずがない。この際、『仲間』でもOKにしましょう、カカシさん。仲間ならナルト君がいるじゃないですか」
「ちょっと待て、ナルトは一応俺のスリーマンセルの部下なんだけど」
「イルカさんの裸の前であなた、それが言えますか?」
「ああっ! 痛いところをっ!! サスケ、俺もOKを出す、行って来い」
 師匠2人の勢いに押されて、サスケはぎこちなくうなずいた。ぬーどだ裸だとイタチが連呼したせいか、サスケの頭の中妄想にもあられもないイルカの姿が渦巻いている。
「ナルトには恨みはないが、イルカ先生のためなら仕方ない」
 きっぱりと言い切ると、サスケはナルト暗殺のために走ったのだった。
「やりましたね、カカシさん」
「だな、イタチ」
 写輪眼の2人は爽やかな汗を拭って微笑みあった。
「ナルトがサスケに殺されれば、イルカ先生怒るだろうねぇ」
「ナルト君も悪い子じゃないんですけど、イルカさんにべたべたしすぎですね」
 サスケの万華鏡写輪眼でイルカの裸コピー、そして一石二鳥でナルトとサスケを排除。夢は一足飛びに飛び始め――2人は同時にあることに気付いた。

 ナルトがサスケに殺されればイルカはサスケに激怒して――油断して一緒にお風呂に入ってくれることなんかないだろう……。

「ちっ、落とし穴があったとは」
「甘かったですね、俺たち……」
 純真無垢なイルカだが(カカシ・イタチ視点)、カカシが(カカシにとってはイタチが)怪しい行動を取り捲ったために、写輪眼に警戒して隙を見せないようになっている。それでもまだサスケにはガードが甘かったから、サスケを利用しようと思っていたのに……。
「どうする、サスケを止めるか?」
「冷静に考えれば、あの弟ごときに九尾を腹に収めたナルト君がやられるとは思えませんしねえ。今回はサスケ排除だけでいいんじゃないですか」
「そうしとくか。サスケがナルト襲ってたら、それだけでイルカ先生のサスケ印象ダウンだろうしな」
 カカシとイタチは諦めて特訓の後片付けを始めた。



 そしてその頃、ナルトを襲うサスケの姿に、
「喧嘩できるくらい仲良くなったんだな、よかったな、2人とも」
 誤解したイルカのサスケ好感度ちょびっとアップ中。



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