(8)




「…誰にも、尾けられなかっただろうな?」
忍の一人が、落ち合った仲間に訊く。
「そんなヘマしやしねぇよ」
「だが油断は禁物だ。何しろここの里の暗部には、死神がいるって噂だからな」
死神?__訊き返した仲間に、最初の男は頷いた。
「血に餓えた殺人鬼だ。敵に容赦がねえのは勿論、忍じゃねぇ女子供でも平気で殺す。たった一人の抜け忍を始末する為に、村ごと焼き払った事もあるって噂だ」
「んなの、ただの噂だろ」
けっ、と笑って、一人が言った。
「この平和ボケした里にそんなヤツがいるなら、是非、お目にかかりたいぜ」
「呼んだ?」
不意に背後から聞こえた声に、忍たちは凍りついた。
暗部の衣装を纏った銀色の髪の男の姿が、そこにあった。
が、木の葉の里に潜入を試みた忍たちの網膜に相手の姿が映ったのは、ほんの一瞬の事だった。
次の瞬間、三人の潜入未遂犯は喉笛を掻き切られ、事切れていた。



「もう、終わりですか?」
声を掛けられ、カカシは振り向いて面を取った。
そして、申し訳なさそうな顔で笑う。
「イルカ先生の分、取っておけば良かったですか?」
「どうでも良いですよ、そんな雑魚。あなたが受けるほどの任務でも無かったですね」
でも、と、面を外し、イルカは続けた。
「折角、里の近くまで戻ったのですから、これから遊郭に行きましょう」
「遊郭!?俺という者がありながら、そんなの酷いです」
カカシの言葉に、イルカは軽く笑った。
「遊びに行くんじゃありません。あなたが昔抱いた女を、一人残らず殺しに行くんです」
「でも俺、顔も名前も覚えていませんよ?」

言いながらカカシは、イルカの腰に腕を回した。
こうして身体のどこかが触れていると、とても安心するのだ__イルカの身体は、酷く冷たいけれど。

「調べればすぐに判りますよ。『写輪眼のカカシ』と寝たことを、女たちは自慢に思っているでしょうから」
でも、とイルカは続けた。
「調べるのも面倒ですし、あるだけの遊郭を全部、焼き払いましょうか?」
「それも良いですね」
言って、カカシは屈託なく笑った。
「あなたと寝た男も全員、殺します」
「俺を犯ったヤツは、全部俺が始末してますよ?」
「オビトが死んだ後、暗部の誰かと寝たでしょう?」
オビトという言葉を聞いても、カカシの表情は変わらなかった。
「そうですね…何人かは、まだ生き残ってるかも知れませんね」
「だったらそいつらも殺します。あなたは、俺だけのものなんですから」
イルカの言葉に、カカシは嬉しそうに笑った。
「ねえ、イルカせんせ。それって、妬きもちですか?」
「どうですかね」
「照れなくても良いですよ、イルカ先生。でも俺、アナタのそういう素直じゃないところも好きです」
イルカはカカシの頬に手を当て、冷たく微笑んだ。
「俺の、どこが好きですか?」
「残忍で我儘で気まぐれなところ。優しくて照れ屋なところ。冷酷で血を好んで__とにかく、全部、好きです」

イルカ先生は、俺のどこが好き?__子供じみた口調で問うてくる相手の瞳を、イルカは見つめた。
藍色と血の色の、虚ろな瞳を。

「俺しか見ていないあなたの眼。俺の言葉しか聞こえないあなたの耳。俺に愛の言葉を囁き、俺の口づけを受ける為だけにある唇」
イルカの指が、カカシの銀色の髪を優しく梳く。
「とっくに狂っていてもう何も考えられない癖に、馬鹿な犬みたいにいつまでも俺に纏わりついて、傷つけられる度に泣くのに、俺を求めずにいられないあなたが…好きですよ」
「嬉しいです、イルカ先生……」
恍惚とした表情で言って、カカシはイルカに身を凭れさせた。









Fin.






後書きもどき
『木の葉の日常』から続く設定捏造シリーズの暗部編です。『Mondenshein』で黒イルカ目指して玉砕したので、そのリヴェンジ。
にしても黒すぎましたね、イルカせんせー;;
タイトルの相思華は彼岸花の韓国名だそうです。花と葉が同時に現れる事は無い為、『花は葉を想い、葉は花を想う』ところから付いた名だそうな。
両想いなのに実らない恋ってところでせうか。
花言葉は『哀しい思い出。想うのは貴方一人』

BISMARC





back



Wall Paper by 月楼迷宮