雪
部屋の明かりが消えているのを見て先に寝てしまったのかとサスケは思ったが、すぐに窓際に佇んでいるイタチの姿を暗闇の中に認めた。
後ろ手に扉を閉め、内側から鍵をかけ、それから変化を解く。
「…何、してるんだ?」
イタチに歩み寄りながら、サスケは訊いた。
雪を見ていたと、振り向きもせずにイタチは答える。
サスケはイタチの身体に腕を回して、背後から抱きしめた。
「寒くないか?」
部屋の中が充分に温かいと判っていながら、サスケは問う。
イタチは小さく頷く。
視線は窓の外に向けたままだ。
「あんたがそんなに雪が好きだなんて知らなかった」
「お前の方こそ、子供の頃は雪が降るとはしゃいでいただろう?」
サスケのほうにわずかに振り向いて、イタチは軽く微笑った。
その頬に、サスケは軽く口づける。
「…こうして音も無く降り積もる雪を見ていると、何だか不思議な気持ちになる」
再び視線を窓の外に転じ、独り言のようにイタチは言った。
「…と言うと?」
「雪は全てのものを覆い尽くす。何もかも、純白に」
イタチの言葉に、サスケは過去に想いを馳せた。
一族殲滅。
里抜け。
数多の戦い。
そして、兄弟で愛し合うという『罪』。
そんな血と闇に染まった過去が白く埋め尽くされる事を望んでいるのだろうかと、サスケはイタチの心中を思い遣った。
二人で犯した罪の筈なのに、イタチは自分ばかりに責任があるような言い方をする。
あの時、お前は8歳にもならない子供だった__そう、言われる度に、歯痒さに苛立つ。
憂いを帯びたイタチの表情は殊更に美しいが、窓ガラスに映る白い貌は哀しげで、こちらの胸まで苦しくなるようだ。
そんな顔、してないで、笑ってくれ__言葉も無く呟きながら、サスケはイタチの首筋に軽く口づけた。
こんな夜は、誘ってもイタチが応じようとしないのは判っている。
だが、と言うよりむしろだからこそ、イタチの想いを暗い過去から引き離したい。
他の事など何も考えず、ただ自分の名を呼んで欲しい。
そう強く願いながら、サスケは触れるだけの口づけを繰り返した。
うなじに、頬に、耳たぶに。
そうしながら、夜着の上からゆっくりと脚を撫で上げる。
「なあ……名前、呼んでくれないか」
「…名前?」
サスケの言葉に、イタチは鸚鵡返しに訊き返した。
サスケはただ笑い、イタチの艶やかな黒髪を指で梳く。
それから再びイタチの身体に指を這わせるが、遠まわしな愛撫だけで際どい所には敢えて触れない。
サスケの様子がいつもと僅かばかり違うことに気づいたイタチは、振り向いてサスケを見た。
サスケは改めてイタチを抱きしめ、間近に見つめ合う。
口づけられるのだと思っていたイタチの予想に反して、サスケは相手の耳元に唇を寄せた。
「あんたの声が好きなんだ…。名前を、呼んでくれ」
「急にどうしたんだ、サスケ?」
戸惑うように問うイタチの髪に、サスケはもう一度、指を絡めた。
そのままゆっくりと背を撫で、だがそれ以上、何もしない。
そのもどかしさに、イタチは僅かに身じろいだ。
「もう一度、呼んでくれ」
「…サスケ…?」
「もう一度」
サスケの真意が判らず、イタチは幽かに眉を顰めて相手を見た。
サスケはまっすぐに、イタチを見つめる。
「オレの背中に爪を立てて…うわ言みたいに何度もオレの名を呼ぶ時のあんたの声が好きだ」
頬に血が昇るのを覚え、イタチは思わず眼を逸らした。
夜毎に繰り返される情熱的な抱擁は、思い出すだけでも生々しい感覚を伴う。
そんな気分では無かった筈なのに、身体の奥が熱くなってゆくのを感じる。
サスケはただ背に触れているだけだというのに、まるで身体の奥を弄られているかのようだ。
サスケはイタチの髪を撫で、耳たぶをなぞり、首筋へと指を這わせる。
「オレの名を呼んでくれ…。この雪も溶かすくらいに、熱く……」
囁くように言うサスケに、イタチはゆっくりと瞼を閉じた。
「いっそこのまま……お前と雪に埋もれてしまいたい」
溜息のような吐息と共に言ったイタチを、サスケはもう一度、間近に見つめた。
そして、口元に幽かな笑みを浮かべる。
「それは、雪の冷たさも感じないほどに熱くさせて欲しいって意味…か?」
「…俺は__」
「雪の白さに、あんたの黒髪はさぞ映えるだろうな…。それにただ白いだけの雪より、あんたの肌の方がずっと綺麗だ」
イタチは閉じていた瞼を上げ、サスケを見つめた。
それからまた、夢見るようにゆっくりと瞼を閉じる。
「__サスケ……」
形の良い唇が僅かに開かれ、蕩けるような甘い吐息が漏れる。
サスケはイタチを強く抱きしめ、そのままベッドへと倒れこんだ。
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