雨

雨

「イタチさん、お薬の時間ですよ」
声をかけて襖を開けた鬼鮫は、窓際に座って外を眺めているイタチの姿に幽かに眉を顰めた。
「横になってらっしゃらないと駄目ですよ？身体が冷えます」
「……中々、止まないな」
鬼鮫の言葉に答える代わりに、独り言のようにイタチは呟いた。

もう一度、横になるように勧めようとして、鬼鮫は口を噤んだ。
床に伏し、薬を飲んだところでイタチの病は治りはしない。
それは鬼鮫も、イタチ自身も判っている。
それでも動じる気配も見せず、静かに全てを受け入れているイタチを、鬼鮫はただ見守るしか出来ない。

自分の生命は何度も助けられたのに、イタチの為に何もしてやれないのはもどかしい。
イタチがまだ余りに若い事を思えば尚更だ。
だが、イタチは何かに執着する性質（たち）では無い。
ならばパートナーの自分も見苦しく騒ぎ立てず、静かに送ってやるべきなのだろう。

「お前に、頼みたい事がある」
「…はい？」
イタチが自分に頼みごとをするなど珍しいと思いながら、鬼鮫は改めて相手を見た。
「もうじき、俺はサスケと戦う」
「……！」
「その時、邪魔が入らないよう、他の連中を足止めしておいてくれ」
唖然として、鬼鮫はイタチににじり寄った。
「無茶です！そんな身体で戦うなんて＿＿」

死にに行くようなものだと言いかけて、鬼鮫はその言葉を噛み殺した。
イタチに残された時間はほんの僅かだ。
そのイタチが最後に何事かを成し遂げようとしているなら、その気持ちは尊重すべきなのだろう。

それが如何に、漆黒の結末を招こうと。

「…雨、止みませんね」
薬の載った盆を傍らに置き、肉の落ちた肩にコートをかけてやりながら、鬼鮫は言った。
イタチは鬼鮫の方を見ることも無く、ただ「そうだな」と、短く答えた。

後書き
兄弟対決の直前くらいの設定です。
３６３話でのマダラの言葉どおり、イタチさんは覚悟が出来ていたのだと、その上でサスケとの対決に向かったのだと思います。
そしてイタチさんの病気を知っていた鬼鮫は、足止めを頼まれた時には、この戦いの結末は判っていたのでしょう。
その時の心情がいかばかりかと思うと……(>_<)

ここまで読んで下さって、有難うございましたm(__)m

ＢＩＳＭＡＲＣ

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