俺、明日から任務に出ます
そう言ったらアナタは少し、意外そうに目を瞠り、それから心配そうに「いつまでですか?」と聞いた。
俺は笑って、多分、一週間くらいですと答えた__皮肉な笑いに見えなければ良いがと思いながら。
アナタが俺を本心から心配してくれているのは知っているけど、アナタが俺の帰りを待ちわびていたのはもう、過去の事なのだとも判っている。

アナタの膚に俺がつけたのでは無い痕が残っているのを見る前から、俺には判っていた。
だから俺は驚かなかったし、アナタを問い詰めたりもしなかった。
そしてこれは『何でもない事』であって、騒ぎ立てる必要は無いのだと、自分に言い聞かせた。
アイツのアナタに対する想いは肉親の情を求めるそれであって、アナタも同じような気持ちをアイツに抱いている。
アイツの若さと未熟さがアイツの感情を暴走させ、アナタはそれを拒みきれなかった。
ただ、それだけの事だ。
アナタが俺から離れる筈はないし、俺もアナタを手放す積もりは無い。
それはアイツも判っているし、判っていないのなら判らせれば良い__そう考えて、俺は自分を宥めた。

けれどもアナタは俺の前でアイツの話題を口にするのを避けるようになり、それが却って俺を苛立たせた。
アナタもアイツも必死で隠そうとしていたケド、伊達に長く上忍をやっている訳じゃない。
それでもアナタが一生懸命に隠そうとしていたから、俺もお芝居に付き合った。
何も知らないフリをしてアナタと笑って話し、何も気づいていないフリをして、アナタを抱いた。

全てはいずれ丸く収まるのだと呪文のように唱え続けていたけれど、魔法は効かなかった。
俺はアナタを刺す夢に魘されるようになり、眠りを恐れるようになった。
夢の中のアナタは血塗れで、何も言わずただ哀しそうに俺を見つめていた。
夢から覚めた俺が強くアナタを抱きしめると、アナタは辛そうに微笑んで、俺の髪を優しく撫でた。



俺、カカシ先生の事も好きだってばよ
アイツが空色の瞳でまっすぐに俺を見て言うのを聞いた時、脳裏に俺の先生の姿が過ぎった。
髪と瞳の色はともかく、顔の造作がそれほど似ている訳でも無いのにアイツは先生を思い出させる。
Dランク任務に文句を言っていたガキが、いつの間にか成長したものだと感じた。
アイツがアナタを想う気持ちは一時の気の迷いでも若気の至りでも無く、アナタはそれを判った上で、アイツを受け入れたのだ。

俺は、アイツを傷つけるのも、アナタを苦しめるのも、自分自身を騙し続けるのも、もう限界なのだと悟った。



一日早いけど、誕生日のプレゼントです
そう言って俺は、首にリボンをつけただけの一升瓶を差し出した。
木の葉の里では滅多に手に入らない銘酒で、随分前に俺がプレゼントした時に、日本酒の好きなアナタはとても喜んでくれたっけ。
アナタは嬉しそうに笑って御礼を言って、今はこれしか用意できなかったケド、任務が終わったらちゃんとしたプレゼントを贈りますからと言った俺に、これだけで充分ですと答えた。
あなたさえいてくれれば、それだけで良いんです__あの頃のアナタが恥ずかしそうに言った言葉が脳裏に蘇る。
アナタは嘘の吐けないヒトだから、その言葉はもう二度と聞けないのだろうけれど。



これは里の為に必要な事であって、誰かがやらなきゃならない
表情を隠し、それでも辛そうに五代目が言った時、感謝しますと俺は答えた__本当に、心から。
俺は最愛の人を苦しませ、自慢の元弟子を悩ませながら、どうしても決心することが出来ずにいた。
限界だと判っていても、みっともなく今の関係に縋り付いていた。
何もきっかけが無ければ、いつまでもずるずるとそれを続けていただろう。
だから俺は明日、任務に行きます。
そして、戻っては来ません。

受けるのならば単独任務でとの申し出を五代目は中々許可してくれなかったけれど、「犠牲は少ないほうが良いでしょう?」と言うと、それ以上は反対されなかった。
アナタが聞いたらきっと「何て無謀な事を」と怒るだろうケド、俺は決して自棄になっている訳じゃないんです。
アナタの知らないどこか遠くで自分の斃した相手の屍骸と共に横たわりながら、俺はきっとアナタを思い出す。
誰よりも眩しい笑顔を俺に向けていてくれた頃のアナタを思い出して、俺は静かに微笑むだろう。
アナタは俺に本当の勇気と力を与えてくれた。
だから俺は、もう何も恐れはしません。



月並みな言葉だけど、これだけは言わせて下さい
俺が言うと、アナタは俺の大好きな黒曜石の瞳で、まっすぐに俺を見つめた。
生まれて来てくれてありがとう
アナタと会えて、良かった
本当に月並みだけど、それが俺の本心です。
アナタは酒で上気した頬をさらに少し赤らめて、「俺もです」と言った。

明日の朝、アナタが目覚めた時には、俺は里から離れているだろう。
酒に少し、薬を混ぜたから、アナタの眠りが妨げられる事は無い。
この任務がどんなものであったかアナタが知る時に、アイツがアナタの側にいてくれたら良い。
まだまだ未熟だけれど、アイツはきっと良い男になる。
アイツは俺がアナタを愛したのと同じくらい強くアナタを愛し、護るだろう__”俺以上に”は、有り得ないけれど。
アナタはアナタが俺を愛したのと同じくらい深くアイツを愛し、支えるだろう。
もしもアイツがアナタを哀しませる事があれば、その時には必ず奪い返しに来ます。
その時俺には、アナタを抱く腕は無いだろうけれど。

俺は明日、任務に行きます。
そして、戻っては来ません。
これが最後のプレゼントになるだろうとは、あの頃の俺は思いもしなかった。
それでも俺は後悔はしていない。
もう迷いも、恐れも無い。
今、アナタに告げたい事は一つだけ。

生まれて来てくれてありがとう
アナタと会えて、本当に良かった










後書きのようなモノ
まずは、イルカ先生、お誕生日おめでとうございます♪
(当日に間に合って良かった……)
ナルト@18歳、カカシ@32歳、イルカさんは31か29かになるのですが、今回は何となく29歳の方がふさわしい気がするので年齢差4歳コーナー(?)に入れてみました。
厳密に言うと、お誕生日の前日だから28歳ですかね。
大元のネタは「ピリオドの雨」ですが、私、この歌知りません;
この歌にインスパイアされたさるレディの妄想がもとネタと言ったほうが正確です。
なのでこの話はそのレディに勝手に捧げちゃいますv

BISMARC


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