ズタズタのココロ




「白狐は九尾の半身。白狐を手に入なければ、九尾の力を手に入れる事も出来ない」
そして、と、イタチは続けた。
「九尾から白狐が引き離されてお前に封印されている事は、うちは一族しか知らない」
「何…故…」
苦しい息の下で問うサスケに、イタチは幽かに眼を細めた__何故、そんな判りきっている事を訊くのかと言いたげに。
「九尾は尾獣の中でも最も強大なチャクラを持つ。衰退しつつあったうちは一族はかつての栄華を取り戻そうとして九尾に狙いを定め、そして失敗した」
「失敗……?」

鸚鵡返しに、サスケは訊いた。
うちは一族の集会場の石碑には、自分に白狐と呼ばれる妖魔が封印されている事は記されていたが、詳しい事情は何も判らない。
それを問う前に、一族は滅ぼされてしまった。

「15年前、うちは一族は密かに精鋭を組織して九尾の妖狐を捕獲しようとした。だが返り討ちにあい、激昂した九尾は木の葉の里を襲った」
「……!そんな…。じゃあ__」
「そうだ。多くの犠牲者を出したあの事件。原因は、うちは一族にある」
驚愕するサスケを見下ろし、淡々とした口調でイタチは続けた。
「そして、うちは一族は完全に失敗した訳ではなかった。九尾が四代目と戦っている隙を狙って一族は呪術を用い、九尾から白狐を引き離すことには成功していた。そして白狐はうちは一族によってお前に、九尾は四代目によってナルトに封印された」
イタチはもう一度、サスケの頬に触れた__愛撫するかのように、優しく。
「ナルトが執拗にお前を追い求めるのは、ナルトの中の九尾がお前の中の半身を追い求めているからだ」
無論、ナルトはそれに気づいていないが、と、イタチは付け加えた。

サスケは視線を落とした。
ナルトの内面に入り込み、九尾の妖狐と対峙した時の事を思い出す。
『忌まわしい写輪眼』
『呪われた血統』
九尾のあの言葉には、自分から半身を奪ったうちは一族への怨嗟の念が込められていたのだろう。
だが、サスケを見据える九尾の瞳に憎悪の色は無かった。
九尾が見ていたのは、サスケの中に封印されている白狐だったのだろう。
そしてナルトがサスケを追うのも、ナルトに封印されている九尾がサスケに封印されている白狐を追い求めているから。
両親ですら、サスケを白狐の器としてしか見ていなかったのかも知れない……

サスケは顔を上げ、改めてイタチを見た。
その整った貌(かお)には、何の表情も表れていない。
「……あんたがオレを抱いたのは……オレを利用して白狐の力を手に入れたかったから…か?」
サスケの問いに、イタチは答えなかった。
冷笑と共に「そうだ」と言われれば断ち切れた筈の想いが、行き場を失ってサスケの胸を締め付ける。
苦しいのは負傷のせいだと自分に言い聞かせても、痛みは消えない。

------大好きだよ、兄さん。愛してる
------ああ……。俺もだ、サスケ

10年前の夜の記憶が、サスケの脳裏に蘇った。
一族殲滅後の8年の間ずっとサスケを苦しめた来たのは、惨殺の光景よりもむしろ、幻に過ぎない温もりだった。
どれ程イタチを憎もうとしても憎みきれなかったのは、甘く温かな記憶のせい。

「皆を殺したのは…白狐の力を独り占めしたかったから…か?」
サスケの問いに、イタチはやはり答えない。
ただ、表情も無くサスケを見つめる。
「暁にいるのも……奴らに尾獣を集めさせて、最後に横取りする為か……?」
3度目のサスケの問いにも、イタチは無言のままでいた。
苛立ちが、サスケを突き動かす。
「答えろよ、うちはイタチ…!」
イタチは、サスケに触れていた手を離した。
そして、小さく頷く。
「そう…。その通りだ」






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